かませなんだよね
鍛刀してすぐに本丸について説明を受けた。
初期刀が加州でなにかわからないことはすべて彼に聞けばわかるようだね。
じゃあ君のスリーサイズも知ってるのかな?と聞くと
だんまりだった。加州にしか教えないって決めたんです。
だってさ。妬けるね、少しは。
そんな日々が幾つもすぎた。
今日も喋ることも少なかった。
「今日の業務はこれで最後ですから、後の雑務は私が行います。
近侍、ありがとうございます。離れに戻りますので何かありましたら
端末に連絡してください。」
彼女はいつも冷たく冷ややかなものだった。
「君は相変わらず冷めているね。今日は短刀たちがオヤツを作ったみたいなんだけど
食べに行かのかい?」
「いえ、遠慮します。どうぞあなた方だけで。」
「つれないねぇ。加州が君の態度をみて毎回落ち込んでいるよ?」
「あくまで仕事仲間ですから、それ以上の関係はないですよね?
加州さんにもくれぐれも必要以上の報酬を求めないように伝えておいてください」
「加州は近侍に選んでくれるだけで喜ぶと思うけどね?」
わかりきったっことを言ったと思ってる。
この本丸の加州は端末を使うのがとても苦手。
政府との連絡に使うパソコンなどの機器などもってのほか。
本丸の中でなぜか一番、そういうものを扱うのに長けていた。
ただそれだけで近侍に選ばれたわけだけど。
ちなみに石切丸はパソコンにウイルスが入ったときに物理的に祓ったことで壊したので
審神者の部屋に入ることも許されていない。
そう考えると加州はまだ、彼女に愛されているのに。
なぜ気づかないのだろうね?
彼女も加州が一番好きなのに素直になれないのがとても残念だ。
ああ、なぜ僕ではないのだろうね?
「にっかり?大丈夫ですか?
先ほどから微動だに動きませんけど、手が止まってますよ。
その資料の整理が終わればいいだけですよね?」
「はは、君は意地悪だね。仕事が終わったらすぐに離れに行ってしまうだろう。
もうすぐ終わるからもう少しだけ待っててくれるかい?」
「にっかり、それがなんだというのですか?
先ほどからその書類に苦戦しているようですけど何か手を煩わすようなことが?」
「手、ねえ?
なあに、すぐに終わる。もう少しだけ。」
といって僕は手元の書類を彼女が不機嫌になる前に終わらなければならないが
僕がこんなに書類に時間をかけているのか。
彼女もわかってるのかと思ってたのに。残念だな。
「主いる?」
「あら、加州。不必要な出入りは禁止しているはずですよ?」
「そんなこと言わないでさ。これ。」
と加州が見せたものは小さなクッキー。
そう、短刀たちと一生懸命に彼女のために作ったクッキー。
小さいチョコが入っているチョコチップクッキーというものらしい。
僕は彼のために離れに行かせないようにここにとどめておいたわけだけど。
彼女は全然気づいていなかったみたいだね。
なにせ驚いているのだから。
ああ、可愛いね。
君はそんな笑顔を見せることがあるのか。
僕も知らない。彼だけにみせた笑顔のようだったな。
ちょっと憎いね。
だから
「君、口にチョコがついてるよ」と
唇に触れてみせるわけさ。
「君が笑うことなんてあるんだね。そのおかげで口がお留守だったようだ。」
にっかりと笑って見せる僕に彼女は
「なに、それ。」とだけ伝えてきた。
「君に言われたくないね。笑顔なんて見せないと思ってたさ。」
チクリと刺さればいいとおもって放った言葉が。
オロオロする加州はクッキーを持ってきただけだからね。
いいんだよ。加州はそれで。それで愛されているんだから。
「どうしたの?にっかりも食べる?」
状況を掴みきれていない加州が僕にクッキーを催促する。
「ありがたくいただこうかな?
ねえ?君。じつに美味しい食べ物だと思わないかい?」
君の精一杯の悪口もなかなか可愛いものだね。
「笑顔が一番だよ、最終的にはね」
「あなたには負けますよ。本当に馬鹿な口。」と
また微笑んでいる主が言ったことが耳に残りそうだ。