ジャンル:テンミリオン お題:たった一つの青春 制限時間:30分 読者:246 人 文字数:1242字 お気に入り:0人

夏のヒヤシンス ※未完

 フローリングって冷たくて気持ちいいね。なんでこんなに気持ちいいんだろうね。知るか。フローリングに寝転ぶのをやめなさい。はーい。
 風鈴が鳴った。
 吹き抜ける風はどうにも湿っぽくて気持ち悪かった。
 棚の上の花瓶の中では可憐なお花が私のことなど素知らぬ顔で揺らめいてる。お花さんもこの暑さでは参っていることだろう。「ヒヤシンスを冷やしんす」
 いやなんだそれ。面白いと思ってる? いや思ってないけど。言ってみただけ。
 ていうかヒヤシンス冷やさないんかい。本当に言ってみただけかい。そう、言ってみただけ。
 阿呆か。
 呆れたように彼女が言った。真っ白なワンピースが宙に浮いた。
 窓の外を眺めると、校庭では変な人達が変な動きをしていた。変な人達が変な動きとか言うなや。部活動でしょ。夏休み前最後の日だってのに部活動ってのもくだらないね。いやいや立派だと思いますけど。立派なもんか。
 それに私達の方が変人度で言ったら上だろ。
 手のひらサイズの彼女は窓枠に乗っかって言った。
 いやそうですけどね。
 手のひらサイズではない私は花瓶の前に立って言った。
 結局友達出来なかったね。
 手のひらサイズの彼女は私の右肩にふよふよと近づいて言った。
 手のひらサイズではない私は何も言えなかった。
 何が変なもんか。
 奴らの方がおかしいんだ。何考えてるのか分からないだなんて言って、それだけで遠ざけて、そりゃ私だってティンクが、愛しいティンクを視認すら出来ない奴らと仲良くするつもりはない、けれど、
 寂しいんでしょ?
 寂しいわけない、君が居るから、
 嘘だ、寂しいに決まってる。
 なんで分かんの?
 そりゃ十数年も見てくりゃ分かるさぁ。
 板張りの床に細い手をついて、座り込む。スカート大丈夫? どうでもいいわ。そのまま仰向けになる。スカート大丈夫? どうでもいい。
 君以外はどうだっていい。
 いいもんどうだっていいもん。来年受験だって、友達も彼氏も出来なくたって、いい思いが全然出来なくたって、中学上がってから役員のやりとり以外で人と話さなくたって、本だけ読んでたって、生きていけるもんティンクさえ居れば。ええ……。
 だってティンクは優しい。一緒に居て楽しい。どんな友達よりいい。たった一人だって青春できるもん! 言ってて寂しくない?
 寂しい。

 そんなこと言わないでさ。頭上を優しい妖精さんが飛び回る。
 一生このままなわけないんだからさ。分からない? 私は……。

「あ、あのっ」

 誰か居た。

「…………え?」
「え、っと、……あの、妖精さんが見えるとか言ってた痛い子さんですよね!」
「何それ傷つくわ」
「それにさっきヒヤシンスがどうとか言ってたし!」
「見られてたッ」
「ヒヤシンスは冬の花ですよ!」
「マジで」

 ほら言ったでしょ?

「……えっと、すごい失礼なこと言われたけど、何か用?」
「あ、……あのですね、私……あなたと仲良くなりたくて…」

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