ジャンル:HOSPITAL.6人の医師 お題:たった一つのプレゼント 制限時間:30分 読者:352 人 文字数:1186字 お気に入り:0人

得られたもの





「あー、そういえばお前、明日帰るんだってな」
鉄格子の扉が閉まる重たげな音の後、幾分耳に馴染んだ女性の声が鼓膜を叩いた。
その言葉に顔を上げれば、俺を此処まで送り届けた救命医が、鉄格子を隔てて俺を見ていた。
「……契約期間が終わる。これ以上、ここへ身柄を預けているわけにもいかないだろう」
「……お前がしばらくここで働くって聞いた時は、世界の終わりかと思ったけどよ。過ぎちまうと案外短いモンだな」
お前のあの腕前ももう見納めになっちまうのか、と零す救命医の声色が、普段よりも静寂を帯びたもののように感じられた。
「…あー、あのさ。変なこと、聞いていいか」
「……俺に答えられることなら」
「お前…さ。この病院に来れて良かったって、…そういうの、ちょっとでも、思ってくれてるか?」
随分と唐突な質問だな、と思いながらも、答えを返さざるを得なかった。彼女には珍しいような、その真剣な表情を視界へ入れてしまったからだ。
二呼吸できる程度の時間を使い、考える。
この病院へ訪れたという経験が、俺にとって善だったか悪だったかと問われれば、……返答など、とうに決まっている。
「……少なからず、得たものはあったと感じている。ここで行った術式は全て俺の糧となった。立場の違う医療従事者から多くの話を聞くという、貴重な経験もできた」
「んだよ、その義務的な返事……。相変わらず可愛くねえヤツだな」
「そんなものは必要ないだろう」
「はぁ…まぁいいや。あっち戻っても、元気でやれよな」
「アンタもな。……世話になったな、ドクター」
「……。……なぁ、その、…ドクターなんてかたっ苦しいのやめようぜ? そろそろさ、名前で呼んでくれよ」
「……何?」
礼を表す言葉を素直に出すことができなかったことに対し、責められるかと思っていた。素っ気ない、もっと寂しそうにしろ。掛けられると予想していたのは、そんな言葉だ。
しかし、彼女が俺へ言った内容はそのどれとも違ったものだったのだ。驚かずにはいられない。
「もう仲間だろ? ぶつかって、一緒に働いて、一緒に命救ってよ」
「仲間? ……だが俺は、」
「……あの時の、アンタは犯人じゃない、って言葉。取り消すつもりねぇんだからな、アタシ」
「………!」
顔を上げる。彼女の翡翠色の視線はどこまでも真っ直ぐで、逸れるということがない。
「いいか? 絶対、戻ってこい。絶対だからな!」
強気な口調に戸惑いながらも、込み上がる感情に動かされ、俺の口は自然と開いて声を発していた。
「ありがとう、…………マリア」
「! ……おうっ!」
敬称も付けず、人の名前を呼んだのは随分と久しぶりな気がしていた。目の前にいる医者の笑顔と、胸を包む不思議な感覚。
最後の日。この病院で得たものは、彼らから貰ったものは経験だけではなかったのだと、そう感じることができた。

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