ジャンル:おそ松さん【腐向け】 お題:夏の窓 必須要素:インドカレー 制限時間:30分 読者:250 人 文字数:1705字 お気に入り:0人
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夏の窓

 独特の抑揚のついたイラッシャイマセに迎えられ、おそ松とカラ松は近所のインドカレー屋に入った。この店は辛さを10段階から選べるのだが、この10段階目は非常に辛い。飲食店だというのに、メニュー表には黒いドクロマークが描かれるほど辛い。夏になると、おそ松とカラ松はいつもこの辛いからいカレーを食べるのが、ここ数年のお約束になっていた。
 インド料理店というのは、不思議な香りがする。カラ松は香辛料の匂いにスンと鼻を鳴らす。通されたのは窓側の席だ。おそ松と向い合って座って、二人で同じものを注文する。バターチキンカレーの10辛、サフランライスで。来る度同じメニューを注文するそっくりな顔の男ふたりは店員にもすっかり覚えられているらしく、ハイヨーとにこやかな笑顔でオーダーをとり、そそくさと厨房へと引っ込んでいく。
「これで何回目だっけ」
「なんだ忘れたのか? 15回目だ」
「まじ? もうそんなになる?」
「躍起になって月に5回も来たことあっただろ」
「あーあったねそんなのも」
 すっかり忘れちった、と悪びれもせずへらりと笑うと、おそ松はごめんごめんと適当に手を振った。別にカレー屋に来た回数を忘れるくらいどうだっていいのだが、おそ松が謝る別の理由に心当たりはある。ゴホン、とカラ松は一度咳払いをすると、何も言わずに椅子に深く腰掛けた。
 待つこと数分、カレーはすぐに運ばれてきた。バターチキンカレーだというのに赤い。しかも、鼻から入ってくるだけで涙が浮かぶような、強い唐辛子の香り付きだ。何回食べたって最初のこの刺激に身体は慣れることはない。カラ松はぐしぐしと乱暴に目元を拭うと、銀のスプーンを手に取った。
「んじゃあ今日も食べますか」
「今日こそ負けんぞ」
「頑張ってねー」
 ちらりと一瞬視線を合わせると、同じタイミングでカレーを口に運び始めた。口の中に入ってきたカレーは辛いを通り越して痛い。少し触れただけのはずの唇すらヒリヒリしている。サフランライスを少し食べたところで全く紛れることもない。罰ゲームのような辛さのそれを、けれどもカラ松はガツガツと胃の中に収めていく。目の前では同じものを食べているというのに、ケロリとした顔をして美味そうにカレーを食べている兄がいた。ぽたり、と汗が額を流れ落ちた。

 無言で食べ続けること、約10分。先にスプーンを置いたのはおそ松だった。ごちそうさまでした、と丁寧に手を合わせ、空になった器がぺかりと室内の明かりを反射する。辛さと悔しさで涙目になりながら、カラ松は水を口の中に流し込んだ。
「今回も俺の勝ちだね」
「うう……」
 ピースサインをして嬉しそうに笑ったおそ松に、恨みがましい視線を投げてやる。カラ松の器には残り数口分ほどのカレーが残っていた。もう急ぐ必要もなくなったので、ゆっくりとそれらを口に運んでいく。ゆっくり食べようが早く食べようが、辛いものは辛い。しょんぼりしながらカラ松は残りを平らげて、額を流れる汗を拭った。

 おそ松と激辛カレーの早食い競争を始めたのは、高校生3年生の夏だった。カラ松はひとつ上の、ちゃらんぽらんで自分勝手で、何様俺様長男様なこの男に、何をどう間違ったのか愛の告白をしたのだ。断られることが必至だと思ったその告白は、カラ松の予想に反して保留にされた。何をどう考えたのか知らないが、このカレー屋の一番辛いカレーをおそ松より先に食べきることができたら、カラ松の愛の告白に応えてやるという。疑問は多々あるが、それよりもカラ松はおそ松の提案に飛びついた。
 以来、こうしてふたりで時たま出かけては、辛くて痛い思いをしてカレーを食べている。告白した時が夏だったから、なんとなく夏の風物詩のようになってしまった。よく頑張りました、なんて笑いながら目の前の兄は嬉しそうにカラ松の頭をさらりと撫でた。
「頑張ってるお前は可愛いねえ」
「……は?」
「お前相手にそんなこと思うようになるとはなー」
「おそ松、それどういう」
「さあねー? 正解は、お前が俺より先に完食出来たらな!」
 なはは、とおそ松は快活に笑うと、カラ松に伝票を押し付けた。

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