[ノリ時]サイバネ×超常
時は流れた。
横暴を極め最後には学園を半壊させた拝田丞の生徒会長時代から、鈴重零司が生徒会長に交代し学園外へも目を向けた外向的な空気が流れ始めた。
私は一介のアンドロイド、ノリス。
我々の歴史はかつて拝田丞に大人たちが罪を押し付けていった、対能力者無人兵器と動力炉とのリンクによる能力者暴走事件にまで遡ります。
あの時水無月博士が開発した対能力者無人兵器こそが我々の祖です。
水無月博士はあの事件以来雲隠れをしていると文献にはありますが、実際は拠点を学園外へ移し私のようなアンドロイド開発に携わっています。
なぜそのような事を知っているかと言いますと、私は水無月博士に作られたアンドロイドだからです。
能力者暴走事件は能力者の起こした大きな事件のなかでも上から数えられるほどの重大性がありました。あの事件のなかで戦績は悪かったものの対能力者無人兵器は好評で、この事件で能力者の恐怖を知った学園外の人間は対能力者無人兵器の整備というよりも自立型兵器___アンドロイドを求めるようになりました。
そうして私たちが開発されました、私が他の仲間と異なるのは私が私物化された水無月博士の研究室で極秘に開発された個体であることだけです。
役目は博士の娘の警護。
私は自我が生まれる前の世界も電脳世界から情報を得ましたが、能力者暴走事件の前と後では外の世界の治安がより悪くなっていました。
娘はまだ13才、自己を守るには幼いと判断されても仕方ありません。
しかし、水無月博士の目的はそれだけではないと私は推測しています。
私の調整が終わり、この家に配置されて2週間。
博士の娘とも友好的な関係を築けたかとおもいます。
家の扉が開きます。見知った影に娘は飛び上がって迎えにいきます。
近すぎないように遠すぎないように、扉から距離を図り入ってくる人間に向けてお辞儀をしました。
「兄さん、お帰りなさい♪」
「初めまして、水無月時雨様。
私はあなたの父君よりあなたとお嬢様の警護を承ったノリスと申します」
小さな目が見開かれる。
息子は能力者暴走事件の渦中にあった超常学園の生徒で、寮がありながらもこうして何ヵ月かに一度は帰ってくるらしい。
「パパがお友だちにしなさいってノリスを連れてきてくれたんです!」
「父さんが?」
「はい!とっても賢くて宿題のわからないところも教えてくれました」
「それは自分でやるんだよ」
「えへへ♪」
息子の警戒は強く、まだ私に対する猜疑心を滲ませている。
「私はかつてあなた方と戦った無人兵器と似ていますね」
夜も半になっても、彼は眠れないのかリビングに現れて夜風に当たろうと戸を引いた。
あまりに警戒して埒があかないのでこちらから話しかける。
人と言うのは我が儘だ。自分で考えて動く兵器を欲しておきながら基本は人間に従順であれと押し付け、その実平穏なうちは雑な指示しか寄越さない。
娘の警護、それが私の役目です。しかしそれに彼がどこまで含まれているのか、守るのか二人の間に立ちはだかるべきなのか答えは電脳空間にもありません。私が見つけていくしかない。
博士はどこか娘を害するものを息子であろうと凪ぎ払おうとする気風がありますが、ただひとつの命令を守らせるとき我々アンドロイドの思考に作用し命令遂行の補助をする装置が一つだけあります。
M@STER PIECE、雪の結晶のような六角形の装置。あれを持っておきながら博士はなぜ私に抽象的な命令とも使命とも呼べない役目を与えるのでしょうか。
「父さんはやはり、僕たちを襲ったあの対能力者無人兵器を元に君を作ったのか?」
「その通りです。しかし私は一人ではありません」
私の言葉に息子は大層憂鬱そうな顔をしました。
明日の新聞は見せない方が良いのでしょうか。学園には届いていないかも知れないけれど、現在はアンドロイド開発最盛期で大手会社はこぞって広告を打ちその多くはあなた方能力者の対抗勢力として作られていると。教えた方が良いのでしょうか。
「零司はこんな世界で」
「鈴重の嫡男ですね。彼が今の生徒会長だそうで」
息子は言葉をぐっと飲み込んだ。自らの弱味が一瞬出てしまったと言いたげな顔だ。
目線を私から反らし真っ黒の夜空を見下ろす。
「父さんからは星梨花を守れと言われているんだろう?」
「はい」
「僕からも願いしたい、星梨花を守ってくれ」
意外な言葉だった。制服を見るにトップレベルの能力を有しているには違いないけれど、一人で生きていけるほど強くは見えない。
「それはあなたの命よりもお嬢様を優先しろと言うことでしょうか」
「ああ」
冗談では済まない。確かに息子の保護は役目ではないが、2週間娘と話すなかで彼女のなかに兄の存在の大きさ学園の危機に対する憂慮を感じた。
危機の規模によっては娘だけを守るより、共に息子の命を守る方が早い。しかし、その息子が今妹の為に命をなげうっても良いなどと考えている。
人の干渉を理解するのは私たちアンドロイドには難しい。
だからこそ、多少強引にこちらのペースに引き込むことも必要ではないか。
「承服しかねます」
人の真似をして、片膝をつきそっと彼の掌を引き唇を寄せる。
「あなたも守ります、それが私の使命です。どうかご自愛ください」
「ノリス」
「はい」
アンドロイドは思考する。思考するうえで命じられた以上の行為をしなければならない瞬間もある。この嘘は命令違反であるか私のなかだけでは結論を出せない。
不意に口を付いた言葉だったのか、息子はカアッと顔を赤くして自室へ逃げていく。
半年の月日が流れ娘とも息子とも良好な関係を維持したまま、私は役目を全うしている。
しかし情勢は悪く、ついに水無月博士から数ヵ月もすればアンドロイドと能力者が交戦状態になるので娘を疎開させるようにと命令が下った。
「パパを心配させないように頑張るね!」
「私も同行します」
大きな荷物を自分で運ぶからと聞かない娘が頼りない足取りで前へ進んでいく。
「叔母さまと一緒にいくから大丈夫です。だから___
兄さんを助けてね」
ニコリと笑うと小さなポシェットからなにかを取り出して、私に手出すよう促す
掌に落ちてくるキラキラ光る欠片、アンドロイドを縛るたったひとつの装置。
『M@STER PIECE承認 。命令を最重要事項にロックします』
機械アナウンスが響く。
その装置はそんなことに使われるものではない、対象を破壊するしか役目のなくなったアンドロイドの為のものだ。
まさか君が持っていたなんて。
「兄さんが心配なんです。反対のホームの超常学園行きの列車に乗ってください」
『はい』
娘は笑って私に見送られながら去っていった。奇しくも当初の目的を失った私は、戦争の気配を感じながら超常学園への切符を手にした。
公安特課がK.O.Dとなった直後、アンドロイドロイが誕生する一年前の話である。
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