ジャンル: お題:暴かれた会話 必須要素:会話劇 制限時間:4時間 読者:305 人 文字数:4750字 お気に入り:0人

2016年集大成(当然の未完)


「こんな格言を知ってる?」

カップを口元に運びながら、金髪の少女――ダージリンが口を開く。

「10のダンベルが全て揃った時。10人の始祖及び超人閻魔は――――」

くい、と一口。
アールグレイが少女の喉を通っていった。そこはダージリンを飲んどけ。

「――――この世から消滅する」

さも当然のように言ってのけ、平然と紅茶をすする。
そんなダージリンとは対象的に、向かいに座る少女の表情は暗い。
その表情は、ダージリンの言葉を真実であると受け止めていることを意味していた。

「本当に――これでよかったんでしょうか」

暗い表情の少女が、剥き出しの太腿の上で拳を握る。
上半身しか身に纏っていないため、その下半身はとても寒そうである。
その奇抜なファッションは『駆け回るのに便利だから』という理由であり、防御に関してはおよそ考慮がされていない。
本来野山をあんな格好で走り回ろうものなら傷だらけになりそうなのだが、その足は擦り傷一つなく真っ白な輝きを放っていた。

「本当なら、ちゃんと話し合った方が、その、よかったんじゃないかって……」

ジャージの少女――高鴨穏乃は、脳味噌おさるのもんきちみたいな見た目のくせに、意外と物事を考える事ができる。
勿論麻雀というゲームを嗜む以上はある程度の思考力を有しているのだが、意外にも穏乃は良識的かつアレコレ考えるタチだった。
もっとも、そのアレコレで行き詰まると突然駆け出すなど、おさるのような行動も少なからずあるのだけれども。

「無駄ね。言葉でどうこうできるなら、とうにそうなってるもの」

穏乃の言葉を受け流し、ダージリンがカップを置く。
まだ僅かに残った紅茶がちゃぷんと波打った。

「それでも、競技を通じて、人は対話をすることが出来る」

ハっと、穏乃が顔をあげた。
それに似たような言葉をかつて吐いた少女を知っている。
あの全国大会で、共に卓を囲んだ少女だ。

「貴女がたも私たちも、そうだったでしょう?」

穏乃の友人の一人である宮永咲。
彼女は、麻雀という競技を通じて、姉である宮永照と“対話”し和解しようとした。
また、穏乃も、麻雀を通じて久々に旧友である原村和と“対話”した。

ダージリンの友人である西住みほも同様である。
かつてまともに話せなかった姉達と、戦車道を通じて“対話”し、笑って会話が出来るようになった。
戦車道で“対話”したから、多くの友人を得たのだ。

「ならば“対話”は、口ではなく、競技の中で」

そして、その咲や和は。照やみほは。
今、ここより遠い場所で、四角いリングの上に立っている。

「あちらの流儀に乗っ取って、あちらの舞台で戦いましょう」

そう言って、ダージリンは、同時中継モニターへと目を移した。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「咲……っ!」

粗末なパイプ椅子から立ち上がり、宮永照がモニターを睨み上げる。
その全身には包帯が巻かれており、彼女が決して軽傷では無いことを意味していた。

「っく……!」
「テルー!」

立ち上がるも、すぐさま膝から崩れ落ちる。
つい先程、死んでもおかしくないダメージを受けたのだ。
こうして意識を保つだけでも苦しいのに、立ち上がることなど出来るはずもない。
ましてや、今から妹の宮永咲が試合するリングに駆けつけるなど、出来るはずがないのだ。

「駄目だよ、無理しちゃあ……!」

体を支える大星淡に言われなくとも、それくらい照にだって分かっている。
先程リングで死闘を繰り広げた完璧・参式(パーフェクト・サード)ミラージュマンは、決して弱い相手ではなかった。
先に戦いマットに沈んだ弘世菫が硬度調節機能を破壊してくれていなければ、カレイドスコープドリルとのコークスクリュー対決に敗れ去っていただろう。
それでも紙一重で勝利を掴み、彼ら始祖達に“仲間につなげる力”をなんとか見せることが出来た。
あとは、他のリングでも、駆けつけた他競技者達が、下等とされる人間たちが様々な競技で会得してきた“評価に値する力”を持っていることを見せつけなくてはならない。

「咲……い、行かないと……」

視線の先――モニターの画面には、マットに沈む咲の姿が映されている。
彼女の相手は完璧・拾式(パーフェクト・テンス)サイコマン。
恐らくは始祖の中でも指折りの実力者であり、また雀卓に使われる磁力――マグネットパワーを発見した偉大なる人物でもある。
長年マグネットパワーを浴び続けた結果オカルトを得て超人と化した雀士の粛清を言い出した人物であり、咲以外に対戦相手はいないと思われていた。
そしてそれは照にも理解できていたが――しかし、本当なら、戦わせたくなどなかった。

元より、サイコマンは先に試合した池田華菜を完封している。
菫が硬度調節機能を壊しておいたミラージュマンとは違い、勝ちの目なんて、最初から無かったのだ。

本当なら、咲を戦わせたくなんてなかった。
本当なら、代わりに自分が死地に赴きたかった。
でも――

『戦うことで、分かり合えることもある……そう信じてたから、私も、お姉ちゃんと話せるようになったんだよ』

そう言って、咲は笑ってみせた。
それは誰の目にも明らかな強がりであったが、しかしそんな咲の心意気を無下には出来なかった。

『ワーン、ツー、スリー……』

その結果が、これである。
大事な妹を守れなかった。

あの火事の日と、死んでしまった少女の顔を思い出す。

また、守れなかったのだ。
手が出せない場所で、また、大切な人の命の灯が消えようとしている。

『ま、だ……です……』
「さ、き……」

モニター越しに、最愛の妹の声が聞こえてくる。
リングの上に咲き誇る深紅の花。
その中央でふらふらと立つその姿は、この場の誰より力強かった。

『やだやだ、友情パワー、なんていう下等な力で立ち上がってくるなんて』

モニターの中で道化師がコミカルに鼻をつまむ。
明らかな咲に対する侮辱。腸が煮えくり返りそうになる。

それでも、その怒りを飲み込んだ。
これは“対話”だ。
怒りをぶつける戦いではない。
だから。

「さーき……さーき……!」

あの腹立たしいくらいの相手と“対話”して、分かり合えるようにしてほしい。
そう、願いをこめて。

「さーき! さーき! さーき! さーき!」

まだ闘おうと歯を食いしばる、大事な人へとエールを送った。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「シャババババ、サイコマンめ、大口を叩く割に動揺しまくりではないか」

中継モニターを見ながら、一つ目の男が嬉しそうに声を上げる。
その足元には、踏みつけられた一人の少女が。

「私は動揺などしなーーーーーーーい!」

少女を見下しながら、完璧・漆式(パーフェクト・セブンス)ガンマンが高らかに宣告する。
ただそれだけで、その巨漢が僅かに揺れ、大きな足で踏みつけられた少女が痛みに顔を歪めた。

「なぜなら我々完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)は、全ての超人を管理すべき存在であり、下等共のような甘っちょろい感情など持ってないからだーーーーーっ!」

そう言うと、嬉しそうに少女をサッカーボールキックで蹴っ飛ばす。
およそ人体が発しないであろうような音を立て、少女がリングマットを転がった。
その跡には、おびただしい量の赤。
誰の目に見ても、致命傷だった。

「フン! 半ば超人と化した人間と聞いたが、所詮は下等よ~~~~!」

雀卓内部のマグネットパワーが、そして特殊カーボンを戦車に定着させるためのマグネットパワーが、少女を超人にしている。
それこそ、至近距離から砲弾を受けても無事な程度の耐久力を与えていた。
超人パワーを引き上げるマグネットパワーは、ただの少女にじわじわと超人パワーを与えていたのだ。

「サイコマンより早く終わりにしてやるわ」

慣性の法則も終わり、静止した少女に向けて吐き捨てる。
ガンマンの佇むリングにも、テンカウントが木霊し始めた。

「ま、だ、よ……」

少女がか細い言葉を紡ぐも、しかしガンマンの耳には届かない。
サイコマンとは違い、ガンマンに人間如き(まあ、半分超人ではあるが)と会話するつもりなどない。
サイコマンにとってこれは粛清のための『(超人)プロレス』であるが、しかしガンマンにしてみれば『粛清』の序章に歯向かってきた者とリングに上がってやっただけにすぎない。
相手の言葉を聞いてやる義理なんてないのだ。
……まあ、これがプロレスリングだとしても、聞く耳なんて持っていなかっただろうけれども。

「う、撃てば必中……まも゙っ……りは固ぐっ……」

それでも少女はリングロープに手を伸ばす。
満足に力の入らぬ足に力を込めて、己の血で滑るリングを踏みしめて、なんとか立ち上がろうとする。

「進む姿は……み、乱れ……無じっ……」

西住流。
戦車道において伝統的な流派であるが、しかし戦場においても有効ということはない。
勿論ある程度は使えるが、しかしながら少なくとも“素手での戦闘”に応用が効くタイプのものでは決して無かった。

「鉄の、掟……鋼……ぉ……心っ……!」

それでも、西住流後継者である西住まほは、勝てぬ戦に身を投じた。
それは、後継者として避けられないことだったからかもしれない。
それは、同じ戦車乗りであるケイが、誰よりも先に勝てぬ戦いでテキサスブロンコを見せつけたからかもしれない。
それは、ひょっとしなくても、愛する妹を守るためだったのかもしれなかった。

「ぞれがッ! にじずびり゙ゅうッッ!!!!」

きっと、その理由に、自分なんかは入っていないだろう。
所詮自分は西住流の姉妹と比べれば一山いくらの門下生だ。
こんなリングに立たないで、大人しくみほに任せておけばよかったと言われるかもしれない。
それでも。

「わだじはッ……西住流ッッ逸見エリカだッッッッ!!」

無様であろうと立ち上がるのだ。
たとえこのまま倒されるだけであろうとも、憧れ続けたあの人のように、意識を手放すその瞬間まで、前に進み続けるのだ。

「フン……最初からその目をしていればよかったものの」

やれやれと、ガンマンが侮蔑の瞳を向ける。
今のエリカは、先程までの一山いくらの下等と比べて、幾分マシな顔をしていた。
それこそ、多少リングで戯れてもいいだろうと思う程度には。

「己の本心を偽ってリングになど上がろうとするからそうなるのよ~~~~!!」

ガンマンは、真実を暴く真眼(サイクロップス・アイ)を持っている。
ガンマンの前に嘘は通じない。
それは、エリカ本人が認めていない、自覚のないことも同様である。

「最初から素直な気持ちで向かってきていれば、もう少しマシな結果になっていたであろうに」

エリカは、ずっと認めることが出来なかった。
西住みほという存在を。彼女への想いを。己の弱さを。コンプレックスを。
そして強がりと悪態で自分を覆い、ここまで来てしまっていた。
リングの上、というだけではない。人生という長い道での“ここ”までだ。

「エリカさん……!」

リングに駆けつけたみほの声が、今にも意識を手放しそうなエリカの耳に飛び込んでくる。
ああ、こんなことなら、もっと素直になっていればよかった。
こんな無粋なクッキングパパに暴かれるくらいなら、もっと素直に、本人にも想いを伝えておけばよかった。

「み、ほ……」

最期の言葉は。ぐっと飲み込んだ。

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