ジャンル:刀剣乱舞 刀さに お題:うへへ、おっさん 制限時間:30分 読者:626 人 文字数:1328字 お気に入り:0人

おっさんに絡まれて鶴丸が怒る話


 「うへへ、」

 よく創作にはあっても、現実には存在しがたいというものがある。
 それは人物や能力に限らず、言動もしかり。
 私はいま、本当にこんな気持ちの悪い笑い方をする人間がいることに驚いていた。

 「いい匂いするなぁ、ああ、ちょっとお話しよう、ん?」 
 「あの、離していただけますか」

 小汚くどうみても下品な男の誘いに、動揺から正気に返る。
 息が酒臭い。瞳の白い部分が黄色く淀んでいて、焦点が怪しい。
 ちらりとのぞく不健康にやせた肌には、入れ墨の端が覗いていた。
 貧相なのにやたら握力の強いうでが、ぎちぎちと私の腕を着物の上から握る。

 「痛っ」
 「だめだよぉ、離したらねぇちゃん、逃げちゃうだろう」

 当たり前だろう。
 気色の悪い猫なで声が、気分をどんどん憂鬱にさせる。
 政府指定の商店に行かず、たまには散歩がてら本丸に近い集落で買い物をしようと思ったのが間違いだった。
 いちばん安っぽい着物を選んで外を歩いてみたが、どうしてもこの時代の人間と比べると目立ってしまった。
 用事をすませ、早く帰ろうと思った矢先にこれだ。
 あとで政府に頼んで、本丸の座標を変えて貰わなければ。
 ――手続きが面倒くさいなぁ。
 頭のなかでそんなことを考えていると、気持ち悪いおっさんはぐい、と両の手で私をひきよせた。
 何日風呂に入ってないのかもわからないような黒い手ににぎられ、ぞわりと鳥肌がたつ。

 「ほら、楽しいところ知ってんだ。あんた、商家の娘か? 遊び方を知らんだろう、どうれ、俺が」
 「汚い手を離してもらえるか」

 男の手が赤く腫れている。
 それを勢いよくぶった、刀の白い鞘。
 腰にゆっくりと刀を鞘ごともどしながら、痩身の男が立っていた。
 いましがた戻ってきた、私の連れの男だ。
 口元だけはいつものように笑っているが、他の顔のパーツが、全部怒っている。

 「なんだ若造」
 「おお、耳が悪かったのか。そいつは失敬――俺の女に触るな、と言ってるんだ」
 「は」

 なおも頑張る浮浪者の男が、食って掛かろうとしたとき。
 ひゅっと風がふく。
 一歩引いて見守っていた私の前で、男の髷が切り落とされた。
 路地裏にぎらつく鋼が抜かれていた。
 黒髪に黒の瞳で誤魔化していたのが、ちょっとはがれかけて、瞳が金色にかがやき、毛先が白くなりかけていた。

 「俺はいま、とても機嫌が悪いんだ、わかってくれるよな」
 「……」
 「次は喉を涼しくさせてやろう」
 「鶴丸、もう逃げた」

 なんだ、骨のない奴だなと独り言ち、彼はすんなりと刀を収めた。
 頭髪も瞳も黒に戻っているのを確認して、ようやくほっとした。

 「ありがとう。でも怒りすぎだよ」
 「普通だ、普通。ああいうたぐいの驚きは、俺は好きじゃないぞ」
 「……まだ機嫌悪いの?」
 「……」

 私の問いに、鶴丸は黙って答えなかった。
 ――ああ、これ本当に機嫌が悪いやつだ。
 結局なんとか買い物をすませて、本丸に帰還しても、鶴丸の機嫌は直らなかった。
 お手上げ状態の私が、不機嫌な鶴丸国永に「消毒をさせろ」とせがまれるのは、この日の夜のことである。

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