ジャンル:戦国BASARA お題:商業的な火 必須要素:インドカレー 制限時間:30分 読者:173 人 文字数:1761字 お気に入り:0人
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灼【元親と孫市】

「ぎりしや火?」
懇意にしている南蛮商人の胡散臭い満面の笑顔を眇めた隻眼で見据え、元親は耳慣れない言葉をたどたどしく繰り返した。
「聞いたことねえ屋号だなあ。おい、ぎりし屋ってのは何を売ってる店だ」
傍らに控える厳つい船員に伝法に声を掛ける。生真面目に首をひねって考える船員より先に、商人が甲高い声を上げて脂肪で三重になった顎をぶるんぶるんと振った。
「ぎりしや、屋号違いマスネー、ぐりーす、ぐれーしあー、聞いたことナイ?」
「ややっこしいな、煙に巻こうってのかい」
本気で腹を立てた訳でもないが、釘は刺しておかなければならない。話の主導権をこの男に握らせるということは、つまり元親の買い物が増えるということなのだ。それも、かなりの出費で。
じっとその顔を見据える。福々しいというにも肥りすぎた顔に張り付けた笑みを翳らせもせず、商人は揉み手をして言った。
「水の上でも燃え続ける火、言えば分かりマースか?」
「……」
沈黙する。
水の上でも燃え続ける火。つまり、水域そのものに放火できるということ。船と船の間で燃え移る火計。港の湾そのものを燃やせば船は近寄れない。暁丸にそれを装備させる。現在調整中の跳躍力強化部品を取り付ける。海を炎で埋め尽くしながら跳び回る暁丸――
凄まじい勢いで脳裏に想像が広がっていく。元親はいつの間にか俯きかけていた顔をがばっと上げた。
「……ああ、まーた始まった」
船員の声が耳に入るが、気にしない。いきいきと目を輝かせて身を乗り出し、床にばん、と手を突く。
「詳しく聞かせて貰おうじゃねえか」
商人が居住まいを正して巻物を取り出す。元親はそれを、幼子が絵巻物を楽しむような心地で見守った。


一通りの話を聞いて、昔なじみの雑賀衆の頭領は明らかに呆れ切った眼差しを寄越してきた。
「凝りぬ男だ」
「おうよ、世の中にゃこんなに面白ェもんばかりだ。ちょっとやそっとで懲りてられるかよ」
快活に笑う元親の顔を見もせず、女は自分の引き締まった腹部を撫でて何か厭なものを思い出したように眉を寄せる。
「臓腑の中に炎を灯す妙薬などと言って、あの妙な汁物を売りつけられたのを忘れていないのかと言っている」
「……美味かったじゃねえか、あれ」
孫市が言っているのは半年ほど前に同じ商人から買い付けた、茶色のとろとろした汁物である。なんともいえない香りと味わいの後に、舌が燃えるような辛味が襲ってきた。
「しばらくものの味が分からなかった」
べ、と舌を出して孫市が言う。そういえば昔から辛いものは苦手だったなと今更ながら思い出して、そこには触れないことにした。
「俺が火が好きだとでも思ってるのかねえ、今度は水の上で燃える火だとよ」
心底愉快な心地で言いながら、船倉に並べられる藁で厳重に巻かれた壺を眺める。大股に歩み寄って巻き藁を撫でると、腹の底が浮き立つような落ち着かない期待と興奮が湧き起る。
「好むではないか」
「はっは、まあな。……だってよう、水の上でも燃える火なんてのを手に入れて、喜ばねえ男がいると思うか?」
「いる。誰もがお前のようではない」
冷淡な答えも、今更堪えるはずもない。ぽん、と壺を藁の上から叩いて踵を返す。
今すぐ使う当てがあるわけでもないが、それもすぐに出来るように思えた。
戦う相手には事欠かない。何処であっても、誰であっても、どのような信念を抱いていても。望んでいても、いなくても。それが創世の熱に沸き返る、今の日ノ本の現状だ。
「折角の珍しいモンだ、華々しく使ってやろうじゃねえか。水の上に俺たちの旗印を描いてやるのよ!」
「……」
ついに黙った孫市へ勝ち誇った視線を向け、そしてぎくりと止まる。
孫市の視線は思っていたような冷たいものではなかった。
その口許には、静かな笑みが浮かんでいた。

「お前は、火を好むのだな」

穏やかに、語り掛ける。

「我らはそうではない。道具として、戦火と共にありつづけた。戦火を購う以外の生き方を知らない」

少し沈黙して、続ける。

「……商売道具なら、慣れ親しんだもののみを使う。お前のそれは、道楽だ」

「いいじゃねえか、道楽でよ」

怯む気はなかった。
気楽な調子で、元親は言い返す。

「俺も、これ以外の生き方を知らねえのさ」

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