ジャンル:銀魂 お題:同性愛の魔物 制限時間:15分 読者:199 人 文字数:2371字 お気に入り:0人

雨となり雲となり

周りの誰彼と同じように、当たり前に礼服に身を包んでそこにいた土方の姿を遠目から見ただけで、近藤はこみ上げてくる感情に顔を覆った。
(来ないんじゃねェかと思ったのに)
来ないでいてくれたらよかったのに、と思いながら、瞼を濡らす涙を拭いて顔を上げる。様子を窺うように見つめていると、普段通りの態度で煙草をふかしていた彼とばっちり目が合う。その瞬間、一瞬だけ、土方の表情が曇った。
ちくりと刺す胸の痛みを見ない振りして、そばに駆け寄る。
「よう、トシ。来てたんだな」
「あんなあからさまな休暇出させといて何言ってんだアンタは。どうせあそこにいたって引っ張って連れて来られてんだ。自分の足で来るさ」
なんとかいつも通り笑顔で声をかけると、土方は吸うところのなくなった煙草を消しながら呆れたように肩を竦める。一瞬翳ったように見えた表情はいつもの鋭さを取り戻していて、近藤は、それにほっとすると同時に消えない不安を胸の内で揉んだ。
「近藤さん。アンタは我慢とかすんじゃねーぞ」
「え?」
心の中を透かしたように投げかけられた言葉に聞き返す。土方は憎いほど青く澄み渡る快晴の空を見上げながら言った。
「俺とあのバカはお互いが自分の弱味を見せるのが嫌で意地張ってるだけだ。知ってるだろ?俺達ゃバカなんだよ。でもそれに、アンタまで加わる必要はねェ」
「……トシ」
「俺達が融通の利かねェバカ共な分、アンタにはらしくあってもらわねーとな」
ふ、とこぼれた息が作るやわらかい笑みを残して、土方が式場に消えていく。
きっと誰が死んでも、誰が消えても、一人だけ取り残されて生き残っても、この男のまっすぐな鋭さは生まれたときそのままなのだろうと、近藤は遠ざかっていく背に思った。
その瞬間どんなに唇を噛みしめても、どんなに嘆いても、次の瞬間には己の掲げた道のために、きっとまっすぐに立ち上がる。立ち上がって歩いて行ける。
だけど、奇跡の一瞬みたいにふとこぼれるやわらかな表情は、彼の中に残らないかも知れないと思った。なんせ、それを彼に与えたのは紛れもないそばに彼女がいた時間で、それを土方の中に守っていたのは彼女の存在だったのだ。
(ああやって笑う顔を、忘れないでほしいんだ。俺は)
気持ちがゆるんで、心に隙間ができる時間を、そこに一緒に寄り添えた時があったことを、忘れないでほしい。
それが、お前にとってどれだけかけがえのない感情だったかを。


お互いの姿を認識しても、土方と沖田は声をかけ合わないどころか存在を目に留めることさえしなかった。
顔を合わせたり、目を見たら、誰より早く、深く正確に分かってしまうからだ。
自分が今どんなにかなしくて、どんなにやるせなくて、どんなに傷ついているかが、相手の姿に鏡みたいに映ってしまう。
嗚咽を漏らしながら涙を流している近藤の隣にいても、土方は固く握りしめた拳を両膝の上に置いて背筋を伸ばしたまま前を向いていて、喪主として挨拶をする沖田は一度も声を震わすことなく、表情を崩すこともなくその役目を全うした。
長い長いお経の最中も、焼香をするときも、沖田がマイクを握ったときも、近藤は二人の分の涙を一身に請け負ったように、子どもみたいに泣き続けた。その横で土方は静かに拳に力を込め、沖田は誰より響くその声に唇を噛みしめた。
最後の挨拶にと、並べられた花たちを人々が順に立ち上がって棺桶に入れていく中、散々泣き散らして垂れ流した涙をなんとか拭いきって、「泣き顔で挨拶するなんて失礼だからな」と笑う近藤に、土方は、何を今さら、とこぼしながら、この人のこういうところが誇らしいんだ、とその姿をまぶしく思った。
「そろそろ順番が来るな。俺たちは最後に行こうか。お前も、言っておきたいことがたくさん、……トシ?」
同じ列に座っていた人、後ろの列の人々が立ち上がって動き出す中、腰を浮かすどころか指の先ひとつ動かさないつむじを見下ろす。
「……俺ァいい。近藤さん一人で行ってきてくれ」
「俺は、それでも構わんが…お前はそれでいいのか。トシ」
「……いいよ。俺は…」
言いたいことがありすぎて、どれも言えそうにねーから。
顔を見ないまま告げられた言葉に、近藤の表情が曇る。固く固く握りしめられたままの拳を置いて、席を離れる。
ざわざわと人の動く音が雑音となって流れ込んでくるようだった。途中に聞こえるすすり泣きの声が耳に痛い。
「おい。クソ方」
波となって自分を揺らしていた音を裂いて目の前に届いたその声は、土方の心臓を鷲掴みにして揺らした。
「総悟。お前」
土方の目の前に仁王立ちした沖田は、手に持っていた白い花をぐい、とその鼻先につきつけた。
「最後の一輪、持ってきてやりやしたぜィ」
「……そんなの、テメーが行けばい、」
パン、と乾いた音と同時に、白い花が土方の膝の上に落ちる。
唇をきゅっと結んで、何も言わず踵を返して歩き去っていく背中を見つめる。
(やっぱ、似てんな。腹立つくらい)
唇に滲んだ血を拭いながら、土方はぼんやりとそう思った。
すすり泣く波に出棺の合図が響く。


高く高く昇っていく煙を、土方は目を細めて見上げた。
ずっと昔に世間で流行った、そのときは馬鹿にしていたやさしい曲を思い出す。あれを最初に聴きだしたのは総悟だったから、もしかしたらあいつの好きな歌だったのかもしれない、と思いながら、浮かぶ記憶ひとつひとつをまばたきで切り取っては仕舞っていく。
その向こうで、空に溶けていく煙はどこまでも青く遠く永遠になっていく。
手に持っていた花を抜けるような青空へ向かって投げ上げると、土方は小さく息を吸い込んで、メロディを刻んだ。


ありふれた人生を、紅く色づけるような
たおやかな恋でした


たおやかな恋でした

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:銀魂 お題:商業的な年賀状 制限時間:15分 読者:15 人 文字数:252字 お気に入り:0人
(学パロ)「今年もよろしくお願いアル!」神楽が挨拶してきた。そうだ、もう今年が終わってしまうのかとふと思う。 神楽と恋仲になり、キスをしてこれ以上のこともしたい 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:銀魂 お題:どうあがいても雲 制限時間:15分 読者:579 人 文字数:335字 お気に入り:0人
「あーあ、またやっちまいやした。」雨の中、一人の真選組隊士が血のついた刀を手にそう呟いた。仕事とはいえ、人を斬るのは好きではない。が、そうしている間は彼のドS心 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:坂@小説垢 ジャンル:銀魂 お題:3月の青春 制限時間:15分 読者:2298 人 文字数:648字 お気に入り:0人
【沖神】「好きです、付き合ってください」 うるんだ瞳で自分を見上げる瞳に、まったく心が動かないわけじゃない。 かわいらしいとは、少しだけ、思うし。とか言うとまた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:銀魂 お題:最弱の経歴 制限時間:15分 読者:1462 人 文字数:506字 お気に入り:0人
神楽様は最強アル! ムカつく女はそう言って不敵に笑った。どうでもいいけどその馬鹿面どうにかならねえのと言ったら、容赦なく鉛玉が飛んできた。こういう、喧嘩すると 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:銀魂 お題:わたしの好きな幻想 制限時間:15分 読者:678 人 文字数:527字 お気に入り:0人
今日も、嫌という程に斬った。自分が振るった剣で、沢山の命が散って逝く。只の肉片と化した其れ等を一瞥し、頬に飛び散った返り血を拭う。詰まらぬものを斬ってしまった、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:みんおれ(アニフェスで死亡) ジャンル:銀魂 お題:犯人は宇宙 制限時間:15分 読者:578 人 文字数:264字 お気に入り:0人
犯人は宇宙だ。こんな生命たちが産まれてしまったのも、こんな惑星が出来てしまったのも、全ての原因は宇宙にあるのだ。デイダラボッチが創ったなんて大嘘で。そう気づいた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:藤田 心@金銀金(無限ループ) ジャンル:銀魂 お題:天才の昼下がり 制限時間:15分 読者:634 人 文字数:430字 お気に入り:0人
例えば、靴の脱ぎ方、茶の温度の好み、何気なく置かれた読みさしの雑誌の角度だって、その気にならなくてもなっても、全部全部、記憶出来る。記憶、とは違うのかも知れない 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:藤田 心@金銀金(無限ループ) ジャンル:銀魂 お題:永遠の消費者金融 制限時間:15分 読者:571 人 文字数:381字 お気に入り:0人
返しても返しても、返しきれないもの、なーんだ?こめかみにぐいっと冷たい金属が押し付けられる。ご想像通り。鈍く銀色に光るそいつは、紛れもなく純正の拳銃だ。これまた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:藤田 心@金銀金(無限ループ) ジャンル:銀魂 お題:地獄の性格 制限時間:15分 読者:1103 人 文字数:612字 お気に入り:0人
善人悪人の定義をお前ェは何に求める?俺ァ、真ん中のどっち付かずが一番罪深いと思うぜ?救われない。全くもって救われない。ほろ酔い上機嫌の帰り道。ふっと一瞬不吉な気 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:藤田 心@金銀金(無限ループ) ジャンル:銀魂 お題:免れた模倣犯 制限時間:15分 読者:589 人 文字数:520字 お気に入り:0人
熱に浮かされていたのだと、お前は言い訳をするのだろうか望みや狙いなど、本当は無かったのかも知れないな。俺はただ認められたかったのかも知れない。他の誰でも無いお前 〈続きを読む〉

菜琉の即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:俺は絶望 制限時間:15分 読者:213 人 文字数:1550字 お気に入り:0人
付き合いもそこそこの年数になったから、例えば路地の隙間に血まみれで座り込んでいたって驚いたりはしないけれど、その日はさすがに少し焦った。特に忍び寄るでもなくザッ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:複雑な薔薇 制限時間:15分 読者:185 人 文字数:1552字 お気に入り:0人
大丈夫だと、よく言う男だった。どこからそんな自信が湧くのか、どんな時も、何があっても、馬鹿みたいにからりと笑いながら、大丈夫だと言う男だった。「心配せんでも、大 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:名付けるならばそれは宇宙 制限時間:15分 読者:206 人 文字数:1989字 お気に入り:0人
銀時が食事当番の日、万事屋の夕食は少しだけ華やかになる。あまりにも収入のないときは別だが、大抵、銀時が食べ盛り育ち盛りの二人のためにと、少し気合を入れて料理を作 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:去年のサイト 制限時間:15分 読者:273 人 文字数:1818字 お気に入り:0人
十夜目あたりまでは気づかないフリをしていた。大体夜中の2時を過ぎる頃だ、寝室の襖がガタガタと音を立てて開いて、布団ごとずって歩く足音がだんだんと自分に近づいてく 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:軽い町 制限時間:15分 読者:182 人 文字数:1797字 お気に入り:0人
雪の降る夜だった。陽が完全に沈み切った頃降り出した雪は、夜が深まるのに比例してしんしんと降り積もっていき、夜が完全に一寸の灯りもない闇に包まれる頃には、江戸の町 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:同性愛の魔物 制限時間:15分 読者:199 人 文字数:2371字 お気に入り:0人
周りの誰彼と同じように、当たり前に礼服に身を包んでそこにいた土方の姿を遠目から見ただけで、近藤はこみ上げてくる感情に顔を覆った。(来ないんじゃねェかと思ったのに 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:当たり前の子犬 制限時間:15分 読者:195 人 文字数:2235字 お気に入り:0人
差し伸べた手を掴んでほしいと思っていた。全部託すから、全部託してほしかった。『見てられないから、夜中目が覚めないようにするしかないアル』『…そんなにひどいの』ぽ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:セクシーな闇 制限時間:15分 読者:218 人 文字数:3021字 お気に入り:0人
「またこんなところでサボってる」寝転がって広げていた週刊誌の影が急に濃くなったと思ったら、そこからひょっこりと覗いた顔がくすくすと笑みをこぼしながら揺れる。「お 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:名前も知らない作品 制限時間:15分 読者:201 人 文字数:1656字 お気に入り:0人
けたたましく鳴らされるインターホンに怒鳴りつけながら戸を開けた先、そこに立っていた人物に新八は息を呑んで言葉をなくした。「あ……あいつ、は」いつもV字だクソ真面 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:菜琉 ジャンル:銀魂 お題:フォロワーの始まり 制限時間:15分 読者:191 人 文字数:1678字 お気に入り:0人
付き合ってすぐの頃、ずいぶんと長いこと重ね合わせた唇を離した後の熱い吐息で、不思議そうに問われたことがあった。「…お前って、なんでキスする時目ぇ閉じねーの」なん 〈続きを読む〉