ジャンル:銀魂 お題:複雑な薔薇 制限時間:15分 読者:210 人 文字数:1552字 お気に入り:0人

あの日から一番遠い僕ら

大丈夫だと、よく言う男だった。
どこからそんな自信が湧くのか、どんな時も、何があっても、馬鹿みたいにからりと笑いながら、大丈夫だと言う男だった。
「心配せんでも、大丈夫じゃき。銀時」
何がだよ、と思いながら、銀時はだらりと垂れた手に力を込める。握った刀がかちゃりと音を立てて、それに答えるように反対の肩を担ぐ腕に力が入る。ずって歩く足が重たいのは疲労のせいだけじゃないことを、銀時は分かっていた。
半分は横を歩く人間に委ねているはずなのに、身体がたまらなく重たい。頭の中にも黒い霧が立ち込めていてはっきりとしない。特別致命的な怪我を負ったわけでもないのに、一歩ずつ歩を進めていくたびに指先が冷えて精神がすり減っていくようだった。
刀だけは離さないようにと、力無い腕に神経をそそぐ。
戦いはまだ始まったばかりだというのに、なんてザマだと薄笑いがもれた。
「なんて顔しちゅうか。ほれ、気張らんかい、もうちょっとじゃ」
少しも曇らない馬鹿みたいな笑い顔で、銀時の自嘲を咎める横顔を見上げる。
「…辰馬、頼みがあんだけど」
「置いてけって言うがやないなら聞いちゃるよ」
「言わねーよ、ばか。俺をなんだと思ってんだ」
「ほんなら何じゃ」
少しだけ硬さを含んだ声に、ほんのしばらく沈黙を守って足を引きずる。辰馬は何も言わずに銀時の歩くスピードに合わせて、銀時の半身を背負って歩いている。
やがてふう、と吐いたため息の後で銀時が静かに告げる。
「…さっきの、もう一回言ってくんね」
「何をじゃ」
「お前がよく言うやつだよ」
「やき、何をじゃ」
す、っと足を止めて、銀時が担がれていた腕をほどく。
半身で振り返って、その顔を見つめる。
「大丈夫って、やつ」
迷子の子どもみたいなその表情に軽い息がもれる。他の三人とは出自の違う自分では、どんな過去があってそうさせるのか分からないが、彼らはたまに、おんなじように迷子の子どもの顔をする。屈んで目線を合わせながら、こっちだよ、と指差してもらうのを待っているような、もうその指先に頼るわけにはいかないことを知りすぎているような、そんな子どもの顔をするのだ。
「大丈夫じゃ、銀時」
垂れた腕を担ぎ直して、背中に回した手のひらに力を込める。
いつでもひとりずつバラバラに、同じ何かを護って生きているような彼らが稀に見せるその心の隙間を、辰馬はいつも、何でもないことのようにしながら丁寧に拾っていた。
「大丈夫じゃ」
その声がゆりかごみたいに自分を優しく揺するのを感じながら、銀時はまた、緩やかに半身を預けて足を引きずった。


おそらく辰馬以外の人間には理解できないであろう理由で早々に戦線離脱せざるを得ない事態に陥った時も、辰馬は、迷子の子どもの表情を隠して各々に捨て台詞のような励ましの言葉をかけてくる悪友どもに、大丈夫じゃ、と笑った。
どこがだよ、何がだよ、どういうふうにだよ、と口々に文句を吐き散らしながら、三人は誰より早く辰馬に背を向けて戦場へ向かう。
その背に伸びる影に、何があるのか、あったのか自分には少しも分からないが、それを知らなくても、同じように辿れなくても、背中を任せ合うことはできる。
同じ場所に立つことはできるのだ。
(大丈夫じゃ。生きとる限り、人は何だって出来る)
永遠よりずっと遠い距離を離れていく背中が人の波の中に消えていく。右手首の傷がずくずくと痛む。遠くの空に輝く魁星に目を細めながら、辰馬は三人の背中に呟き続ける。
大丈夫じゃ。
おまんらは大丈夫。

その声が聞こえなくなって、とうとう辰馬が戦場に帰ってくることがなくても、大丈夫だと笑い続ける根拠のない言葉は、離れていく三人の過去にいつまでもなくならない光のひとつとしてそこに在り続けた。

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