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きみの惑星に名前をつける【チョロトド】

「昨日、バイト先の女の子に『めっちゃ惑星なんだけどー』って言われたんだけどさ。どういう意味なんだろう。チョロ松兄さんわかる?」
「わかるわけないだろ。前後の会話すら不明なんだから。その発言だって意味不明だし。大体さあ、トド松はいつからバイトしてたの? 僕それ初耳だよ。前にも言ったけどさ、そういう大事なことはちゃんと言いなよ。報告・連絡・相談、ホウレンソウが大事っていうのは社会人として当たり前でしょ? それはバイト身分だって変わりないんだからね。また身分詐称とかされても、こっちとしては迷惑なんだってわかるでしょ? 同じ顔なんだし、火の粉はこっちにも降りかかる可能性あるんだからね。分かってる?」
「チョロ松兄さんうざぁい。あ、間違えた。うるさーい」
「うるさいってなんだよ。ていうかトド松それわざとだろ」
 僕はカプチーノをひとくち飲み込んだ。女の子の言っていた内容は、実を言うと僕には分かっている。新しいバイト先はラテアートが有名なカフェで、僕は新人バイトとしてラテアートの練習をしていたのだ。猫のような形を作ろうとして失敗したミルクには渦のような楕円のような、なんとも言えない形が浮き上がった。彼女はそれを見て、惑星と称したのだ。ひとしきり笑った後にコツを教えてくれた彼女に、悪気は無いと思う。それでも、心にちくりと刺さった棘は胸に沈殿しているのだ。
「チョロ松兄さんってさ、ラテアートとか描かれてても気にせず飲みそうだよね。むしろ飲み終わっても気付かないし、後から『僕のにはなかった』とか言い出しそう」
「いやそこまで鈍感じゃないよ。おそ松兄さんじゃないんだから」
「おそ松兄さんは珈琲なんか嗜まないでしょ。基本はビールじゃない?」
「出されたら飲むと思うよ」
「貰えるものは何でも貰うタイプだからね」
 ちびちびと飲んでいたカプチーノには、猫だったものの残骸が浮かんでいる。今日のラテアートは上手くいったが、見せる相手も無くこうして流し込まれていくのだ。努力の末に生まれた結果など、所詮はそんなものである。
「ねえ、チョロ松兄さん。兄さんが何も気づかない鈍感なんかじゃないって証明してみせてよ」
「なにそれ」
「これ。何だと思う?」
「お前の飲みかけのコーヒー」
「そうじゃなくて」
 カップの中ほどに浮かんでいるのは、昨日惑星と言われた楕円に近い何かだった。綺麗な猫はもうここに残っていない。自分でも、もはやこれが何を模したものなのか分からないのだ。この兄がこれを見て、何を描こうとしたものか当てられるはずもない。だからこの問いには何の意味も無い。昨日の自分を昇華したいなどと、思ってすらいないのだ。
「アート……? 丸に……これなに。なんかついてるよね」
「ヒント言ったら問題の意味が無いでしょ?」
「飲みかけって時点ですごい難易度高いってわかってる?」
「知ってるよ」
 唸る兄さんをぼんやり眺める。そこまで真剣に悩まなくとも、訊かれればすぐに答えは口に出すのに。変なところで律儀だ。
「あ、わかった。猫でしょ。どう? 当たった?」
 降参でも良いよと、口に出す手前で回答は告げられた。無邪気な顔で笑う兄から目を逸らし、僕はカップをつかむ。
「……正解」
 少しだけ滲んだ視界の先で、カップの中の楕円が笑ったように見えた。

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