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 世界が変わったあの日の事さえ忘れたのだから、私は、何一つとして物を憶えることなんて出来ないのだろう。あるのはぼんやりとした記憶。変わる前の世界。今とは明確に異なる世界。嫌な世界。
 目を閉じてから。世界を描き描く画材は色鮮やかな言語を用いぬ言葉のそれから只の光へ。予測不能にランダムに、支離滅裂に鬱陶しい、表象の世界は記憶の先。今あるのは、私が見るのは。規則正しく、ランダム性を欠いた。一定の法則に基き描き出される、そんな世界で。

「こんにちは」

 互い互いに存在を、確認するための言葉を紡げど誰一人として気付かない。

「こんにちは」

 子供、大人、女、男。人、獣、そして、妖怪。誰に対しても同じ事。そして、そう。

「こんにちは」

 声を掛ける。声を掛ける。さっきも、掛けてみた気がする。きっと掛けたのだろうと思い、けど、それでも。また、声を掛けて。

 誰一人として気付かない。誰も私を見ていない。
 誰一人として分からない。私は誰も見ていない。

 まるで死んでしまったかのように反応を止めた世界、声を掛けれど手を触れど。その法則に身を置きながらも、影を、形作りながらも。その目に当たらぬ私はきっと、世界の目にも止まっていない。凡ゆる行為は、記録されない――
 そんな、私がいる此処は。
 きっと、天国なのだろう。

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