ジャンル:刀剣乱舞 刀さに 女審神者 お題:寒い魔物 制限時間:2時間 読者:262 人 文字数:2304字 お気に入り:0人

寒い日(とんさに)


「冬は嫌い」

 寒いのが苦手なのだと彼の主は言う。
 蜻蛉切は寒そうに背を丸める主の姿を見つめて、そうですかと答えた。


 ***


 一月半ば。
 いよいよ寒さは洒落にならないほどとなり、雪化粧の本丸はすでに見慣れたものとなった。
 近侍の務めとして、蜻蛉切は早朝に起きだして身支度をし、奥まで主を起こしに行った。
 この「起こす」作業は形式的なもので、大概の場合彼らの主は、近侍が赴く頃には自分も身支度を整えてしまっている。審神者は妙齢の女性であるからして、若い男性がほとんどの刀剣男士の前で、寝間着姿を見せるようなことはほとんどなかった。
 しかし、冬場だけは違った。
 寒いと寝起きが辛いのか、主は近侍が来るまで布団の中にこもっていることが多い。声をかければすぐに返事が返って来るから、目が覚めてはいるのだろう。しかし、起きだして支度をするまでには至らないらしく、近侍の声を聴いて漸く朝が始まる、と言った塩梅だった。
 ひどい時には、声をかけただけでは目が覚めず、断って入室し、身体をゆするなりしないといけないことさえある。
 そういった時の主がひどく――。


「主殿、おはようございます。蜻蛉切です」

 障子の前で声をかけるが、返事がない。主殿、ともう一度言うが同じことだった。
 しばらく待ってもやはり同様。
 蜻蛉切は少しばかり息を吸い込んで、失礼仕る、と声を上げて戸に手をかけた。
 この一瞬、本当にたまらないほど胸が高鳴った。
 尊い人を守る最後の砦に続く一枚だ。この向こうに、まるで主のすべてがあるような気さえする。中がどうなっているのかは、何度か入ったことがあるから知っている、知っているが、毎回こうだった。
 戸を開けると、布団がこんもりと丸まっている。中は暖房で温められて、ぬくい。ぬくめられると、主の放つ芳香がさらに際立つようで、めまいさえ覚える。

「主殿」

 しつこいくらいに声をかける。
 もう一度失礼すると言えば、ゆっくりと布団が動いて、隙間から主が顔をのぞかせた。
 寝起きで少し眠そうな、顔。
 化粧がなくてあどけない、愛らしい顔。

「ねむい~……」

 むにゃむにゃとした声に、表情に、蜻蛉切の口元がわずかに緩んだ。
 しかしそれはそれとして、布団に手をかけて強く揺さぶる。起きて身支度を整えてもらわねばならないのだ。

「主殿、起きてください。早く着替えねば朝餉に間に合いません。みなを待たせることになってもよろしいのですか?」
「えー……だめだけどぉ……」
「でしたら早く布団から出て、御支度を」
「寒いもん~……」
「もう随分温もっております」
「やだぁ……」

 審神者は子どものように駄々をこねる。
 蜻蛉切はかすかに眉を上げて嘆息を吐くと、「失礼を、」と今一度声をかけて布団をはぎ取った。

「主殿」
「うう……蜻蛉切のいけずぅ……寒いのに眠いのに……」

 審神者はしぶとくも起きようとしない。布団の上で両腕を抱きかかえるようにして、ダンゴ虫のように丸くなって寒さに耐えかねている。
 正座していた蜻蛉切が、にわかに動いた。
 膝でいざって距離を縮め、布団を踏んで主の身体を腕でまたぐ。

「……蜻蛉切ぃ……?」

 違和感に気づいたのか、審神者は丸めてい硬くつむっていた目を開き――眼前に広がった蜻蛉切の顔に、肩に、胸に、そうして閉じ込めるように左右にある腕に。気づいた瞬間、大きく目を見開いた。

「お寒いのでしたら、自分が温めますが」

 この、胸の中で。
 そう言って大きな手が、大きな胸を叩くのを見届け、審神者はふるふるとゆっくりと頭を振った。

「だい……大丈夫、です」
「では、起きてください」
「はい」

 今度こそ素直に主は起きた。


 ***


 しんしんと雪の降る夜。
 審神者の仕事が終わったのは日付をまたぐ直前で、彼女は中々部屋に帰りたがらなかった。寒いから動きたくないのだという。蜻蛉切の主は寒さが大の苦手だった。

「しかし、このままここに泊まるというわけにも参りません」
「でも寒いよ。蜻蛉切、先に帰ってていいよ。まだしばらくかかると思うから」

 寒い寒いと言って審神者は中々暖房器具を消したがらない。
 小さく丸まった後ろ姿を眺めて、蜻蛉切はおもむろに――距離を詰めた。
 華奢な背中が大きな背中に包み込まれると、審神者はハッとしたように肩を揺すり、肩越しにかすかに後ろを振り向いた。

「蜻蛉切……」
「でしたら、自分で暖をとられますか?」

 耳元でひっそりと囁くようにして蜻蛉切が言うと、転瞬、審神者はわああと耳をふさいで前のめりになった。体を倒すことで、少しでも蜻蛉切から距離を取ろうというのだろう。
 そうした涙ぐましい努力を見せながら、審神者は恨めし気な声で言った。

「蜻蛉切、なんで寒さに対してはそんなに厳しいの? 眠いとか、めんどくさいとか言ってもこんなことしないのに」

 どうやら彼女は、蜻蛉切が意地悪でこのようなことをしていると思っているらしい。
 赤い顔で抗議する主を前に、蜻蛉切は思いがけずといったように笑みを漏らした。

「主殿は冬がお嫌いでしたね」
「……え?」

 脈絡のない言葉に審神者は戸惑ったようにしたが、すぐさま認めた。寒いのは嫌いと唇をとがらせて言う。
 そのとがった唇に、蜻蛉切は指先をほんのりと触れさせた。武骨な指と可憐な唇の対比は、あまりにも大げさにすぎる。

「自分は好きです」
「え?」

 なんで、という不満げな声は飲み込まれていった。

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