ジャンル:ユーリ!!! on ICE お題:素晴らしい夕飯 制限時間:15分 読者:433 人 文字数:1265字 お気に入り:2人

Full of L

 泣いちゃいそうなくらい、グダグダに凹んで帰って来た時に限って、ヴィクトルが先に帰っていたりする。いつの間にか僕に内緒で作った合鍵で、犯罪スレスレじゃない? って思いながら、でも実際それってすごく幸せだ。勇利、オカエリ〜って、お母さんの声音を真似て言ってくる。故郷の方言が混じったような、少し間延びした、アクセントだってどこか田舎っぽい、それがあのヴィクトルの口から発されていて、しかも極上の笑顔までくっついていると言うのだから、僕は大概そういう時は泣く。泣こうと思って泣くんじゃなく、ボロって、何かの堰が切れたみたいにこぼれ落ちるのが止められないのだ。
「勇利、どうしたの」
「なんでもない」
「なんでもないのに、泣いちゃうの?」
「ヴィクトル、ぎゅーってして」
「甘えたさんだなあ。幾つになるの、俺の勇利は」
 ヴィクトルは料理の手を止めて僕をかき抱く。綺麗な指先が、僕の堪え性のない眦から塩辛い水分を拭う。後頭部をぽんぽんとあやすように撫でて、そうしてようやく抱きしめられる。僕はこの、抱きしめられる時の、体の力を抜くのがいつまでも下手だ。すっと抜けなくて、どちらかに偏りすぎる。全部ヴィクトルに委ねてしまえばいいのに。でも、抱きしめられているうちにだんだん自分の体の軸みたいなものが彼の方に傾いて、捕らえられて、そうしてようやく、息ができる。息ができた、苦しくない、鼻の奥の痛いのも大丈夫ってなった時に、ようやく心が落ち着いてくる。
 弱い僕を、弱くないと言ってくれたひとは、弱い僕を見せても、大丈夫って言ってくれる。
 いつでも腕を広げてくれる。包んで、あやして、もう大人になっておじさんの方が近くなった僕を、全力で守ってくれる。
 それが愛だと言い聞かせて。
 それを、愛の答えだと教え諭して。
 僕の溶けた心をぐずぐずに甘やかして、勇利、ってあの甘い声で呼んでくれる。

「お腹空いたらご飯食べようね。今日はたくさん作ったんだ。俺、すごいお腹空いて」
「ヴィクトルがたくさん作るって、なんかすごそう……食べきれるかな」
「食べ切れなかったら明日でもいいよ。火を入れて、加熱すれば」
「……僕、なんかもう、胸がいっぱいで」
「え? 食べて来たの?」
「違うよ。こんなに幸せな栄養補給、ないと思う」
 玄関先で抱き合ったまま、ヴィクトルの首筋に頭を埋める。額を擦り付けるように、息を長く長く吐いて、そして肺の奥までしっかり吸い込む。
 ヴィクトルの温度。ヴィクトルの匂い。手のひらの柔らかさ、鎖骨の硬さ。五感が欲する必要なものを、存分に満たされて、もう普通のご飯だけじゃ満足できない。
「俺も」
「ヴィクトルも?」
「勇利のしんどいの、俺がギュってして、吸い取ってあげる。悲しいのは半分ずつ、嬉しいことは倍になるように」
「なにそれ。ヴィクトルが辛くないの?」
「俺は勇利とご飯食べたらそれでお腹も心もいっぱいになるから、いいの」
 ああ、神様。どんな食事より、どんな幸福より、この人がそばにいる食卓は甘美で素晴らしい。

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