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ふたり互いに満たされる

ダイニングテーブルに何冊ものガイドブックが置いてある。
付箋が沢山ついているもの、開きっぱなしのもの。
「また、出しっぱなしにして…」
勇利はため息をつくと
「ヴィクトル」
と大声で呼ぶ。彼はちょうどスケート靴を磨いているところだった。
「なに?勇利」
近づいてきた勇利に笑顔で返事をする。
「何じゃないでしょ。これ、どうするつもり?出しっぱなしだけど」
あ、それね。スケート靴を床に置くと、ヴィクトルは立ち上がり
テーブルの上の冊子の付箋のついたページを開いてみせる。
「今度長い休みがとれるから、勇利とどこか行きたいなと思ったんだ。
あれもこれも良さそうな場所がいっぱいあってね」
よく見ると、雑誌は様々な国の旅行雑誌だった。嬉しそうに語る
ヴィクトルの顔を見て、そのまま放置していたことなどどうでもよくなってしまった。
「勇利はどこに行きたい?」
「僕はどこでもいいよ。ヴィクトルが一生懸命調べてくれてるんだから」
「そう?じゃあ…ここ、かな」
勇利はヴィクトルが指さしたページを見て驚いた。
「ここって…」
「そう、長谷津だよ。そろそろみんなの顔がみたいだろうと思って」
ロシアにホームリンクを移して以降、試合で日本に行くことはあっても、
長谷津に寄る時間はなく、しばらく帰っていなかった。
「ヴィクトル…あの、すごく…うれし…くて、驚いて…」
思わず涙がこぼれる。ヴィクトルはそんな勇利の涙を指でぬぐう。
「帰ろう勇利。みんなが勇利を待っているはずだよ」
勇利はヴィクトルを抱きしめた。なんて自分は幸せものなのだろう。
こんなに思われている。二人の唇が重なる。互いに満たされていく感じがした。

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