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それは諦めでもなく感慨で

その日はしんしんと雪の降る日だった。
私は起きて一番に窓を開け放つと、聞こえてきそうなほどの無音が広がっていた。
もう春だと言うのに雲は気まぐれだなあ、と思いながら分厚めの上着を引っ掛ける。
さて、一服して雪かきしますか。
どうせまだロシア人のフィアンセと寝入っているであろう弟の部屋を抜き足差し足で通り過ぎ、一階へ降りたのだがーー

「ほらヴィクトル、そのスコップだと腰にくるよ。こっち持って」

その二人がすでに玄関にいるではないか。加えようとしていた煙草を思わず取り落としそうになった。
いつもお互いにプレゼントし合っている横文字ロゴ入りコートではなく、うちの従業員が着るジャンパーにくるまった二人組。
もうすでにスコップを構えて雪に対して臨戦態勢だった。

「おはよう、マリ」

ヴィクトルの方がハイ、と片手をあげて挨拶する。
いつも細身のコートしか着ないロシア人は、めずらしく綿をたくさん着こまされて丸々していた。
弟も振り返って、おはよう真利ねえちゃん、と言った。そして私の手に持ったものに視線を移す。

「起きてすぐ煙草?体に良くないよ」

最近の弟は、やけに家族らしいことを口に出して言ってくる。

「これがなきゃ頭がすっきりしないのよ」
「昨日遅かったからじゃない?もうちょっと寝てたら?雪かきは僕たちでするし」

そのときどこかに感じていた違和感の正体がわかった。
弟は、勇利は、自分で雪かきをするだなんて言い出したことは一度もなかったはずだ。
スケートの練習に一番にでかけてそれで、許されていた、そういう子だった。

出ていく弟の背中を、見送るのは初めてだったのだ。

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