ジャンル:テニスの王子様 お題:来年の姫君 制限時間:30分 読者:285 人 文字数:1201字 お気に入り:0人

ココロノキズ(謙光)

静かな放課後の教室。そっと覗いてみると、一人だけ、座っている人がいた。

「財前。」

優しく声を掛けると、顔を上げる少年。

財前光。俺の後輩であり、ダブルスのペアであり、恋人。

「こないなとこまで来て、どないしたんですか。」

財前は俺だと確認すると本に視線を戻す。

色とりどりのピアスと、白い頬。長い睫に縁取られて憂いを含んだ瞳が、本に記された文字を映す。

静かに、文字をなめるように読み進めていく財前の姿に、俺はうつ向く。

ふと、思い出されるのは1ヶ月前の出来事。


俺はあのとき、財前の家に遊びに行った。

それで、それで。俺は嬉しくて、財前とたくさん話した。

けど、俺の言葉が、財前に触れた。

「何で、そないなこと言うんですか。」

「…え?」

「何でそないなこと言うんですかって聞きよるんですっ!!もう謙也さんなんて大っ嫌いっ!はよ帰って!」

財前は、物凄い剣幕で怒鳴ると、俺を部屋から追い出した。

あのあと、白石に聞いた話だと、財前は心にある傷を持っているらしい。

俺は、そんなこと知らずに、無神経に、彼を傷付けた。

あのあと、深く後悔したけど、財前は部活に来なくなった。

俺と組みたくなかったのかもしれない。

俺の顔をみたくなかったのかもしれない。

どちらにせよ財前が部活に来なくなったのは俺のせいだった。

「ごめん、財前。」

俺は、毎日財前の教室に来て、本を読んでいる彼に謝る。

「もう、いいですから。はよ部活に戻ってください。」

これもまた、いつもの返事。財前は本から顔を上げる気配もなく言う。

今までは、俺はこのまま部活に戻った。

でも、今日は違った。

「財前。こっち向いてや。」

そんな俺の言葉に、財前は本にしおりを挟み、こっちを向いた。

黒々とした髪の下から、綺麗で、一切の濁りもない瞳が覗く。

その瞳には、微かに怒りの色が見えた。

「財前。俺、財前のこと考えずに話してしまって、ほんまごめん。」

財前は、俺から目を離さない。財前の瞳に、俺が映る。

「謙也さん。」

財前に声を掛けられ、瞳を財前に向ける。

「何で、泣いとるんすか?」

財前にそう言われて、俺は慌てて目元に手をやる。

ほんのりと温かい涙が、頬を伝っていた。

そんな俺を見て、財前は、ふ、と笑った。

「謙也さん。ずっと怒っててすいませんでした。謙也さんと一緒におれんで、俺、凄い寂しかった。」

財前の頬を、涙が伝う。

「やから、こんな俺でええんやったら、また一緒におってください。」

財前は、真っ直ぐと、こっちを向いた。

俺の返事は、もちろん決まっている。

「俺も、ずっと財前とおりたい。」

俺がそう言うと、財前はふわり、と今までと同じ笑顔を見せた。

財前の瞳にあったはずの怒りの色は、頬を伝っていた涙と共に、零れ落ちて、消えた。

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