ジャンル:おそ松さん【腐向け】 お題:青い夕方 必須要素:マクガフィン 制限時間:30分 読者:197 人 文字数:2959字 お気に入り:0人

【一カラ】重要すぎるマクガフィン

(一カラ)




 思春期の恋愛がもしかすれば気の迷いであったかもしれぬというのを、わかるのは結局、大人になってからのことである。一松は成人し、かつて思春期に芽生えた恋慕を未だ抱えたままであったが、十分大人であるにも関わらず、気の迷いだとは思えぬまま苦悶していた。それというのも、相手が実の兄であるカラ松だからである。バリバリの思春期、中学二年生の頃、演劇部で張り切っていたカラ松のことを、同じクラスの女子生徒が「一松くんのお兄さんって格好いいよね。」と言った瞬間、一松の中で宇宙が弾けてしまった。
 俺には兄が三人いるけれど、きみが指しているのはどの兄だ。とは聞かずともわかる、女子生徒は舞台上の彼を見て言ったのだ。スポットライトを浴びて得意げにクソ顔を晒す兄を、あろうことか「格好いい」と称したクラスメイトに、一松は苦笑する他なかった。格好いいわけがあるか、あいつが格好いいなら、まだ他の兄のほうがマシだ。そう皮肉めいた返答をしたかったけれども、一松は喉が妙にひくついて、曖昧な相槌を返すのみだった。
 それから、一松はカラ松に対して、よくわからぬ気持ちばかり抱いた。誰かがカラ松を見ていると落ち着かなかった。誰かにカラ松のことを言われると、どういう内容であっても腑に落ちぬような気になった。特にカラ松のクラスメイトから「あいつ、空気読めないよなあ。家でもそうなの?」などと言われたときには、苛立ちのあまり無言で帰宅した。カラ松が空気を読めないことなどはとっくにわかっている、かといって他の者からそう言われることには納得がゆかぬ。ンなわけあるか、と一松は胸の中で応えた。空気が読めないわけじゃない、ただ自分に素直なだけだ。そうしていられるのを、一松は純粋に羨ましく思っているのであった。僕も、お前みたいに素直になれたら。ただ自分の理想を追いかけるだけで生きて行けるなら。常にきらきらと輝かしい未来を追いかけるカラ松の背中は、一松にとってとにかく眩しかった。
 気の迷いだと思えたらそれこそよかった。成人してからしばらくの後、一松はとうとう自らの恋慕がどうしようもないのだと思った。カラ松は悪く言えば察しが良くないし、良く言えばただただ良い兄だった。このまま思いを告げずに於けば、愚鈍なカラ松は永遠に自分のことを愛しい弟だとして優しくしてくれるだろうと一松は思った。果たしてそれで良いのか、悩むこと三年ほど。良いわけはなかった。

     ◇

 夕暮れは、太陽は真っ赤であるけれども、空はだんだんと闇に近づき、淡い青色が紫帯びてくる。珍しく街でカラ松と鉢あった一松は、もうすぐ夕食だから、と一緒に帰ろうと提案しようとしたところ、先にカラ松から言われてしまった。
「一緒に帰るか。」
 彼の兄はどこか、心配げだった。もしかすれば、常よりあたりの強い弟が、快諾せぬとも懸念していたのかも知れなかった。一松からすれば降って湧いたような幸運であった。学生時代はよく、カラ松のクラスのホームルームが終わるのを見計らって、偶然を装い下足箱で鉢合っては、舌打ちをしつつ家まで一緒に帰ったものだが、卒業してしまえばそのような機会は失くなった。
 一松が頷いたのには、カラ松はにこりと笑った。顔の凹凸に、夕暮れの影が落ち、なんだかセンチメンタルだった。一松は、複雑な気持ちになった。学生の頃はこうして隣り合って歩くのを、ラッキーだと思えていたけれども、今はなんだか違う。お互いニートで、時間は有り余っている。誘えばきっと応えてくれるし、余っている時間はたくさんあるはずだ。そう思うと、一歩も踏み出せずにいる自分がひどく情けない。カラ松は、きっと自分を愛おしい弟と思って、共に過ごすことをハッピーとしている。僕ももちろんハッピーだ、むしろ出来る限り二人きりで過ごしたいのだから。たとえカラ松に、自分と同じような恋慕がなかったとしても、二人で過ごすことに幸福を見出してくれるのであれば、一松はわりかし満足できているつもりだった。学生時代のように、親しい女性がカラ松を格好いいだのと言う機会もそうそうない。
 誰にもやりたくないと思うとおりに行動できれば、何も気にかけることはないのだ。一松は、カラ松を縛り付けるまでには至らぬのだった。カラ松の考えていることがいつだってわからぬし、彼は夕暮れの空みたいにころころと色を変える。自分と一緒にいることが嬉しいと破顔して隣にいたかと思えば、自分などいてもいなくても変わりないといったように、別の兄弟の隣で同じように笑った。
 一松にはカラ松しかいなかった。大きく空いた胸の穴を埋めるのには。けれども、カラ松にはきっと穴など空いていないだろうし、それを埋めるのが果たして僕だけともわからない。ぞっとしたり、ほっとしたり、一松は忙しかった。

     ◇

 心が欲しいのはたしかだ。怪盗が宝石を盗むように、スパイが機密書類を探すように、一松もカラ松の中の唯一のものを欲しがった。けれども、それは容易に手にできる物理的なものではない。
 珍しく、日を置かずに彼らは街で出会った。
「一緒に帰るか。」
 先日と全く同じことをカラ松は言った。一松は頷くほかなかったが、こうも自分にとって都合の良い展開が重なるのは、どこか居心地が悪かった。一松は常々、自らの恋慕は叶わぬものと思っているし、今のところカラ松が家から出るということもなし、と現状維持に努めており、思わぬ幸福が重なると胸がざわめいた。何か罰当たりのような、あとになって採算をとろうとするアンラッキーがくるのではないかと、怖くなる。そんな一松の心境も知らず、カラ松は弟が愛おしいのか、微笑みを携え言った。
「最近、お前がどこに居るのかわかるようになった。ふふ。」
 彼の背には、暗くなりゆく夕焼け。真っ赤な太陽が沈む傍ら、空はひっそりと青から紫、それから真っ暗へと形を変えてゆく。
「迎えに、行きたくなるんだ。お前がいる場所がわかっていると。」
 一松は息を飲んだ。そうして、ようやくはっとするのだ。何が珍しいことだ、前回と同じ場所に同じ時間に居たのは、カラ松の到来を期待してのことだ。けれども、それにカラ松も従うのは一体なぜだ。一松には心当たりがない。
「待っててくれたんだろ。」
 否定はできない。一松はきっとカラ松を待っていた。前と同じ場所、同じ時間に、もしかしたら来ないかなと期待していた。別に、来なくともよかったのだ。カラ松は来た、そのほうが一松には理解できなかった。もしかすれば自分は、無計画にも、手に入れたいものに手を伸ばしているのではないか。四面楚歌の怪盗、スパイ、張り巡らせるセキュリティが一松の脳裏を過る。けして先に進みたいわけではなかったのに、目前にちらつかせられると、一松は手を伸ばさぬわけにはゆかぬのだった。
「なあ、俺は合ってたか? いやじゃなかった?」
 正しい答えが今はわかる。いつも答えがわからずに、あえてあくどい返答をしてしまう一松にも、今このときだけはどう答えるべきかはっきりとわかるのだ。大きな唾を飲み込む音がして、それから息を吸い込む音。迎えに来てくれてありがとう、と言えれば上出来だ。(おわり)

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