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西行妖の咲いた日

「ねえ妖夢。満開になった西行妖は綺麗ね」
それだけ言い残して、私の主人は…幽々子様は消えてしまった。
西行妖を見ながら、嬉しさの中にひとかけらの寂しさを交えた笑顔で。
幽々子様は私の目の前で桜の花びらのようにふわふわと、キラキラとした細かい光になって弾けて消えた。
もう、幽々子様はいないのだ。
「妖夢、おかわり」と米粒一つ残らない綺麗な茶碗を差し出してきた幽々子様も、「満開になった西行妖、見て見たいわね…」と春になると物憂げな顔で呟く幽々子様も、「春はいいものよ?」と幻想郷の桜並木でひらりひらりと舞い踊る幽々子様も、二度と見られない。
だって、私の目の前で幽々子様は光になって弾けて消えたのだから。
呆然と立ち尽くす私の前に、きらりと光る何かが落ちてきた
幽々子様がずっと付けていた髪飾りだ。
いつだったかに紫様が外の世界で拾ってきたと言って渡してくれたそれは、透き通る硝子で出来た桜の髪飾りだった
それ以来幽々子様は、その髪飾りを肌身離さず持ち歩き、桜を見る時には常に付けていた
もちろん、今も…
私の目の前に落ちてきた髪飾りを拾い上げると、髪飾りは桜のところがぽきりと折れて私の手から零れ落ち、下に落ちてバラバラに割れてしまった
「幽々子…様」
呟きながら幽々子様のいた方を見るけれど、見えるのは薄い桃色の…幽々子様の髪と同じ色をした花びらを風に舞わせる西行妖の姿だけ。
それでも、私には幽々子様のいる場所が見えるような、幽々子様の笑顔が見えるような気分になった
「帰りましょう、幽々子様」
私は舞い散る花びらの中でもひときわ綺麗に光る花びらを手に取り、話しかける
「帰って紫様にお話しましょう、ね?」
そして、私は幽々子様と、砕けた髪飾りと屋敷への道を歩き始めたー

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