ジャンル:黒子のバスケ お題:孤独な魚 制限時間:30分 読者:672 人 文字数:1006字 お気に入り:0人

濃紫の魚



その濃紫の魚は、細い身体を撓らせて、光の届かない闇へと落ちていく。
音もない、暗い海の底へ。




濡れた身体を、洗い立ての柔らかいタオルが包む。
前髪からは、一定のリズムで滴が零れていく。
タオルかけに両手をもたれたまま、まだ動くことができない。
なにもかかっていない、剥き出しの肌から温度が奪われていくのがわかる。
けれど、どうしようもないんだ、
気づいてしまったら、
どうやって息をしろというんだ。




魚は水面を見上げた。
キラキラ光るその眩しい世界に、どうしても届かない。
一生懸命尾びれを振ろうとしても、身体をくねらせようとしても、
何一つ信号は伝わらない。
石になったようだ、と思った。
ただ憧れるだけの銀色の空は、段々遠ざかっていく。
あぁそうか、また堕ちていくだけなのか。
諦めて流れに身を委ねる。
どういうわけか、身体はすんなりその指示に従っていったんだ。




楽しいわけがないだろう。
全部強がりだ、偽りだ。
自分を保っているのが精いっぱいだ。
みんなが同じ目で自分を見てくる。
怒り、拒絶、否定。
もうそれも慣れた。
それが自分なのだと、言い聞かせ続けてきたし。


「それはワシのとはちゃうやん、」
冷え切った頭にすら尚よみがえるその目。
「それがおまえの選んだやり方っちゅーなら否定はせぇへん、でもそんなことやってて、どの口がワシに憧れてる、なんて言うん?」
右手で顎をつかまれて、のぞきこんでくる、ガラスの奥の冷たい目。
蔑む、見下す、失望。
「正直見損なったわ」
自分の手は無意識に右手を払いのけて、そのまま壁づたいに身体は崩れ落ちていった。

「助けを求めてるんならあきらめや、花宮。おまえはそのまま沈んどき」



一語一句、一挙一動を思い出すたびに、息がうまくできなくなる。
だったら何が正解だったていうんだ、
どうすればアンタに触れられた?
どうすればその目から解放されるんだ。


「どうすれば」


口にしたが最後、もう声は止まらない。
タオルは肌を滑り落ちて無音で床についた。






濃紫の魚はそのまま力尽きて底無き闇へと沈んでいく。
涙だけ、小さく銀色の球になって水面へと吸い込まれるように上がっていって。
まぁそれでもいいか、と数多の銀色を見送り息をひきとる。
それだけでも、アンタのもとに届くのなら。








end.






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