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こんなこともあるかと思って

ものすごい悲鳴が聞こえた。ものすごいと言う形容ではとても追いつきやしないだろう。人間のものではないな。テレビは雨季のサバンナにおけるライオンの日常を映し出している。以前友達があるツアーに行き、サバンナでテントを張り一夜を過ごしたと言うけれど、その時彼が聞いたと言う草食動物の断末魔。ライオンに襲われた声は、まさにこんな感じなんだろうね。飲んでいるカフェオレの水面が少し同様に跳ねたけれど、俺は妙に冷静に想像の翼を広げていた。水辺から飛び立つフラミンゴみたいに雄大な羽だ。
ばたばたばた。次はヌーが大移動するみたいな足音。短い廊下を駆けてくる。ヌーって奴ははライオンにとっても手強い相手だ。的確に喉元を切り裂けない場合、怒れる蹄が頭蓋を割るだろう。
「ヴィクトル」
ああ、低い声がするよ。稲妻が走る予兆かな。雷の音って、お腹の音にもちょっと似ているね。
「どうしたのユウリ」
「あのさ」
「トイレ、長かったね。お腹でも壊した?」
ドアを開けたまま棒立ちしているユウリは、ものすごく変な顔だ。可愛いけど、見たことないような顔。お腹を壊した時の顔じゃないな。一昨日、夜の後片付けを忘れたせいでトイレにしばらく籠城させてしまったけど、こんな顔じゃあなかった。俺の顔に鼻がちゃんとついていることにびっくりしてるみたいな目だ。
なんて思ってたらとんでもないことを言い出した。
「僕、今日から客間で寝るから」
え、と声を漏らす時間さえくれずに勇利はシーツの置いてある部屋へ走ろうとする。
「ちょっとまってまって」
「離してよ」
「なんで?やだよ、俺」
「うるさい」
「どうしたの?」
勇利はしばらく使われていない客間のドアを蹴り開けると叫んだ。
「血が出たの!」

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