ジャンル:ユーリ!!! on ICE お題:あきれた笑い声 制限時間:15分 読者:192 人 文字数:638字 お気に入り:0人

途上

何か物語を紡がなければいけないだなんて幻想は、捨てることにしたんだ。

昔から、氷の上に残された自分の跡を眺めてずっと考えていたことがある。僕というスケーターはどのように記憶され、どのように記録されて行くのかということだ。僕のこの氷の上での一歩が、息を一つ吸うことが、そしてジャンプをひとつ失敗することが、どのような未来に収斂していくことになるのかということ。憧れ続けて来た、またはこうはなるまいと言い聞かせて来た、様々なスケーターたちと同じように僕もいつかミュージアムに並ぶ存在になるだろう。いやその前に、僕の一回ごとの滑りや仕草のあらゆる要素が、この世に生まれ落ちる端から過去の遺物として無数の目に刻まれる。そうなった僕はどんなオブジェか。なんと銘打たれているか。キュレーターはなんと解説をつけるか。ある時期の僕はずっとそんなことばかり考えていたんだ。胃は痛くなかったけれど目の奥が簡単に暗くなった。そのようになることはとても簡単だ。でもただ目の前の、空気を体が切り裂いて行く感覚を鮮明に感じることは、とても難しくなっていた。そうなることで、どこか許されているような気がしていたのも事実だ。
練習後に体が汗を放出して冷えていく嫌な感覚も、僕をどこかしら癒している節があった。

今や僕は生まれ変わったようだ、とはとてもじゃないけれど言えない。それでもただ一瞬前に自分が切り込みをいれた氷を振り返り笑えるくらいには、何かを掴み取って来たのだと、毎日のように言い聞かせている。

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