ジャンル:アイドリッシュセブン お題:くだらない悲しみ 制限時間:30分 読者:163 人 文字数:1380字 お気に入り:1人

終わりよければ、さあ、デート!

 冷蔵庫のケーキが消えた。
 そんな事件は何気なく日常的にありえる話で、きっとこの日本でも、東京に絞ったとしても、あちらこちらで頻発していることなのだろう。
 けれどよそはよそ、うちはうち。そして、自分としてはこのケーキを何よりも楽しみにしていた。毎日毎日アイドルとして身を粉にする日々のささやかな癒しとしていた甘味を、果たして誰が奪ったのだろう。
 ――なんて、そんなもの実は考えなくてもわかることなのだ。だってこの家に自分以外の家人は1人しかいないんだもの。
 おおよそ、否、確定的な目星をつけたわたしは心なしか足音を激しくしながら廊下を進んでゆく。つきあたり、左手にあるドアの向こうにその犯人はいるだろう。
 フローリングをどかどかと進み、乱暴なノックの音を響かせる。先程も言ったとおりこの家に住むのはわたしたち2人だけ、つまり無音の家に叩きつけるようなノックの音は大げさに響いてしまうのだった。
 わたしの様子がおかしいことに気がついたのだろうか、ほんの少し慌てたような様子で扉が開かれる。顔を出した同居人――一織は焦ったようにわたしの顔を見た。
「どうしたんです」
「どうしたもこうしたもない!」
「言ってくれないとわか――」
「わたしのケーキ食べたでしょう!」
 ごす、と一織のみぞおち付近にスプーンを握りしめたままの右手を突きつける。ぐふ、と無様な声を出して崩れ落ちた一織を見下ろしながら、わたしはふんと鼻を鳴らした。
「楽しみにしてたのに……」
 わたしが踵を返そうとすると、背中を丸めたままもぞもぞ動いていた一織が静止の声を投げかけてくる。待ってください、絞り出すようなその声を無視できないのは、まさしく惚れた弱みなのだろうな。
「なに……」
「私は食べてません」
「はぁ!? じゃあなんでないの、オバケのせいにでもしたいわけ? みみっちいな」
「人の話は最後まで聞いてくださいよ」
 そういうところ弟さんにそっくりですよ、そう言いながら一織はよろよろと立ち上がる。ひとつ小さな咳払いをしてわたしの腕を掴んだ。逃げないように、とでも言いたいのだろうか。
「食べたのは私じゃないです。でも、その原因をつくったのは私ですね」
「…………」
「差し上げたんです。あなたの弟さんに」
 どこかバツの悪そうな語り口。わたしは目を見開いた。どういうこと、そう尋ねれば、言いづらそうに続ける。
「昨日、仕事の帰りにうちへ寄ってもらったんですよ。何もお出ししないのは無作法だと思ったので、無断で拝借しました。すみません」
「それならひと言くれればいいのに」
「……本当は、今日のうちに新しいのを買いに行こうと思っていたんですけど」
 あなたが予想外にオフだったので――とまで言って口ごもる一織。なあに、と続きを促せば、照れたように微笑みながら言った。
「どうせなら、2人で出かけるのもいいかな、と。そのときにケーキでも何でも奢ろうと思っていたんです」
 ダメですか?
 いつの間にか、わたしの腕を掴んでいた手は離れている。代わりにわたしの手のひらをそっと取る、その指先はひどく気づかわしげだ。
「……ダメなわけないじゃない」
 キミのその顔に弱いって知ってるくせにね。
 ――どちらにしろもっと早く言ってよ、なんて、それも憎まれ口に取られてしまうのだろうな。

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