ジャンル:アイドリッシュセブン お題:早すぎた魚 制限時間:30分 読者:155 人 文字数:1205字 お気に入り:1人

おなかいっぱい、愛情いっぱい

※同棲してるみつてん♀


「あつい……」
 空っぽになったコップを片手に携え、わたしは静まり返った廊下を進んでゆく。
 フローリングのうえをスリッパでぺたぺたと歩き、ちょうどダイニングへ続く扉の前に立ったとき。よっ、だの、ほ、だのと、なんだか掛け声じみた声が聞こえた。
 程なくしてリズムよく包丁が何かをこそげる音が続き、なるほど、今しがた扉の向こうにいる彼が何らかの調理を始めたらしいことがわかった。
 ――今日はせっかく2人揃ってのオフだったのに。たまには外食に誘おうと思っていたのだけれど、提案する前に撥ねつけられてしまったようだ。
 扉を開いて顔を出し、対面キッチンのほうを覗き込む。なにしてるの、そう尋ねればそこにいた小さなコックさん――もとい、三月は手元から目を離さないままにかりと笑った。
「魚。さばいてんだ」
「さかな」
「おう」
「さばけるの?」
 難しくない? と首をかしげながら、手持ちのコップをテーブルに置いて彼の背後にまわる。案の定シンクにはグロテスクな光景が広がっていたが、それでもなんとなく目は離せなかった。
 手際よくさばかれているこの魚はつばすだろうか。嫌いじゃない。むしろ好き、そう伝えれば三月が喉の奥で笑った。
「そうだと思って、値切ってきた。今夜は楽しみにしてろよな」
 こつん、頭を傾けた三月と額がぶつかり合う。手が離せないのだから仕方ない、今の彼に出来る最大限のコミュニケーション、または親愛の証。触れた額が、なんとなくあつい。
「そういえば九条は、なんか用事?」
「ああ……お茶を切らしたから、入れに来ただけだよ」
 さきほどテーブルに置いたコップをちらりと見る。麦茶の注がれていたそれは、表面にいくつか雫を伝わせていた。
「キミもせっかくのお休みなのに、たまにはもっとゆっくりしたら?」
「んー、まあそうな。でもある意味でこれも休憩みたいなもんだから」
「そう?」
「おまえならわかんじゃねーの……と、よし。おーわりっ」
 言うや否や、三月は蛇口から勢いよく水を出す。さばき終わったつばすの身をとりわけ、血塗れの包丁とまな板を洗い始めた。
「確かにこういうのはまあ、色々体力使うけどさ。それでも誰かが喜んでくれたり、美味しい! って笑ってくれたりすると、もうそれだけで全部吹き飛んじまうわけ。むしろ元気をもらえるっつーかさ」
 そういうのが好きなんだよな、オレはな。
 穏やかに目を細めながら続ける。赤く染まった調理器具を洗い流し、立てかけたあと、三月は布巾で手を拭いながらわたしのほうへ向き直った。額に浮かんでいた汗を無意識に拭えば、くすぐったそうに微笑まれる。
「だから、しっかり味わってくれよな。愛情たっぷりの晩メシつくるからさ」
「……これ以上体重増えたから困るんだけど」
 最近ジムの頻度増やしたんだよ。
 そう言えば、三月はひどく満足そうに笑った。

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