ジャンル:アイドリッシュセブン お題:僕とあいつ 制限時間:30分 読者:162 人 文字数:1131字 お気に入り:0人

スプーンひとつで

※いおてん


 あの子のことは――和泉一織という少年のことは、あまり好きじゃないはずだった。
 ことあるごとに突っかかってきて、何かあると口を出してきて、まるで重箱の隅をつつくみたいにあれやこれやと文句を言ってくる、そんな年下のおじゃま虫。ひと言で表すならば鬱陶しい、それが相応しかったと思う。
 何より和泉一織は、ボクがつよくつよく欲している立ち位置を、「陸のとなり」を得ている子。今の陸には彼がいる。和泉一織という少年がいてくれるから、きっとあの子は何倍も、ボクが知る七瀬陸よりもまばゆく在れているのだろう。
 だからこれは嫉妬なのだ、きっと。ボクはあの子に嫉妬している。喉から手が出るほど欲しかったもの、いたかった場所、手放したくなかった宝物、それらを手にしている彼が、羨ましくて、仕方ない。
 ――そう思っていたはずだった。それだけのもので、この汚い気持ちすらおのれを磨く糧として。以上も以下もないただの「嫉妬」で済ませておけばよかった。
 それなのに。
「どうして――いつから、こんなことになったのかな」
 いつの間にか、彼をひどく恋しいと思ってしまっている自分がいる。和泉一織という個人に対するこの想いは先輩としてのものでなく、きっと嫉妬や羨望よりも後ろめたくて穢らわしい。人としての道すら踏み外しているように思える。彼が「彼」でなく「彼女」ならまだ許されるものであったかもしれないけれど、現実はボクが思うよりも非情で無情で残酷だ。
 同性で、アイドルで、ライバルで、年下で。高すぎる壁を前にして、ボクの心はまるで覗き穴でも欲しているよう。否、ただのヒビ割れでもいい、少しの歪みがあればいい。そこから少しこじ開けて、せめてこの手が伸ばせれば。
 ――伸ばせれば、どうなるの。おのれのなかに生まれた浅ましい欲求に、どうにも重苦しいため息が漏れる。
 彼がこちらを振り向くとでも思っている? 彼にも自分と同じように、この腹の底に溜まり続ける鉛のような気持ちを抱えろと? それこそ馬鹿らしい話だ、曲がりなりにも好意を寄せる相手にわざわざ苦しめというつもりはないし、現実問題一蹴されて終わりだろう。むしろ相手にしてくれれば御の字というところではないのか、嫌悪を隠さず避けられてはアイドルどころか人としても終わったようなものなのだから。
 ――恥ずかしい話。こんなふうに、誰かに嫌われることを恐れる日が来るなんて。陸以外の赤の他人から受ける拒絶、明確な嫌悪、おのれを蝕む負の感情を、受け入れるでなく怖がる自分がなんだかひどく滑稽だった。
 取り付く島もないような、けれどどこか隙が多い、「完璧」を手にする高校生。彼に乱されるこの胸中が、この頃ひどく恨めしい。

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