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イカロスの先触れ



「その人は僕が見たこともない目をしていたんだ」
あいつは熱に浮かされたような声でそう話した。事実、アルコールにだいぶ浮かされていたのかもしれない。成人してからそこそこの時間が経ち、俺もあいつを誘う時は酒の席に呼ぶ習慣ができた。太りやすいからと言って強めの蒸留酒を水割りで頼み続けるあいつは、それでもなかなか酔いはしなかった。でも昨晩は酔っていた。初めの一杯に口をつけ、喉を鳴らすずっと前から酔っていたようだった。
その日も酒の席だったのだと言う。
「その人は日本からの留学生で、宇宙の勉強をしている。ユリオは知ってる? 何万光年も離れた星の生き死にの瞬間を、彼女たちは昼も夜も待ち続けてるんだよ」
あいつはその女と語る意味も見出せないようなつまらない偶然を通じて知り合ったらしい。そうして、物語でも無いような偶然を積み重ねて彼女があいつに借りを作り、それを返すからと飲みに誘った。こことは比べ物にならないほどに酒と煙草の匂いに満ちた飲み屋で、貧乏学生とフィギュアスケーターは語り合ったそうだ。
「星が死ぬ瞬間はね、それはもう、まばゆい光なんだって」
あいつは恐ろしいほどに饒舌だった。物書きにでもなるのかってほどに、口を閉ざし指先とつま先で語ってきた男とは別人のようだった。
「その人はね、あらゆる言葉で、目をキラキラさせながら語るんだ。僕がこれまであった人の中で一番、美しい言葉を使う人だった。僕の知らない、人だったんだ」
何かが、あいつの中で変わったのだと俺は気づいていた。それが悪いものであるかいいものであるかはわからなかったけれど、それが近いうちに大きな変化をもたらすことは、なんとなく予感していた。

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