ジャンル:アイドルマスターシンデレラガールズ お題:イギリス式の恋人 制限時間:1時間 読者:114 人 文字数:2797字 お気に入り:0人

きりひらくもの

 私の所属する事務所には数多くのアイドルがいる。誰かの誕生日はそれこそ毎週のようにあるし、誰かのために逐一派手なパーティを開いていたらキリがない。
 だから概ねお祝いの言葉で良しとする習慣があったし、私も別にそれで満足していた。アイドルとはいえ学生の身、プレゼントをいちいち買っていたら正直なところお財布が持たない。
 だけど―――だけどまあ、恋人への、もしくは恋人からのプレゼントは別。4月には卯月へちょっと気合を入れてペアのアクセサリを贈ったし、今日の私の誕生日には何かは貰えるだろうな、と期待していた。
 1週間前から卯月に「誕生日当日はお夕飯を一緒に食べに行きましょう」と言われて、それは楽しくて素敵で何物にも代え難い時間だろうと思った。想像するだけで顔がニヤけてしまうし、だいたいの事情を察しているであろう加蓮にはさんざん煽られた。
 それでも、それでもだ。誕生日当日、特別な夜に卯月とふたりきりで、というのは、やっぱりロマンチックだと思う。

「凛ちゃん、アフタヌーンドレスも似合ってますね」
「卯月こそ、ワンピーススーツ、結構決まってる」

 卯月は学生二人で食べにくるには大分背伸びのしたレストランを予約してくれたみたいで、お店の名前を調べた時は目を点にしていた。本来なら未成年だけでなんてお断りされるんだろうけど、予約が取れてしまうのは私達がアイドルだからだろうか。
 とにかく、そういうお高いお店では正装が必要だろうとプロデューサーが気を利かせてメイクさんを仕事終わりに回してくれた。わざわざ私達のために衣装を整え、きれいに化粧をしてくれたメイクさんには感謝するしかない。
 特に卯月がワンピーススーツなのがいい。普段はどちらかと言うと女の子っぽい格好をすることが多い卯月が今日はかっちりと決まった服装で、普段とのギャップのあまり見たときは卒倒しそうになった。私は対象的に普段とは違う女の子っぽい服装で、馬子にも衣装になっているんじゃないかと結構本気で心配だった。それも卯月が似合ってる、と言ってくれたから自信に変わったけれど。


「お食事、やっぱり美味しいですよね。夜景も綺麗ですし、結構贅沢かも」
「メイクさんが整えてくれて助かったよね。自分たちでおめかししてたらちょっと浮いてたかも」
「ほんと、今度二人でお礼言わないとですね」

 もしかしたら卯月は自力でも浮いていなかったかもしれない。私はまあ、確実に顔を赤くすることになっていた。卯月みたいに可愛くお洒落も出来たほうがいいのかな、今度教わろうかな。あるいは、本当は加蓮あたりに教わるほうがいいのかもしれないけれど、加蓮にディスられながら教わるよりは、卯月に好みを聞きながら卯月の好きなようにお洒落を勉強したかった。

「それで、他にもプレゼントを用意してて」
「……え、嬉しいけど。私だけこんなに、悪いな」
「いいんですよ、私が凛ちゃんにしてあげたかったんですから。これなんですけど」

 そう言って卯月が差し出したのは小さな小箱で、ギフト用のラッピングがしてあった。開けていい? と聞くとその前に、と卯月には珍しくニヤリと笑って控えめに左の手のひらを差し出した。薬指ではなかったけど、私が贈った指輪が綺麗に収まっていて、見ていて気分が浮ついてしまう。

「なんでもいいので……小銭を一枚、貰えませんか?」
「小銭? いいけど、なんで?」
「うーん。おまじないみたいなものです。ダメですか?」
「ううん、そういうのじゃなくて。はい」

 財布の中には100円玉しか入っていなかった。なんでもいいみたいだし、とそのまま差し出すと、ありがとうございました、と店員さんのように綺麗なお辞儀を見せてくれた。

「ええと、開けるね」
「はい、どうぞ。気に入ってくれるといいんですけど……」

 包装紙を破かないように丁寧に開き、箱を開けると、中には柄に青、いや蒼の綺麗な意匠が施された細身のナイフが入っていた。もしかしたらアンティークかなにかだろうか。ナイフは純粋な銀色から少しくすんでいて、それが逆にレトロな雰囲気を出すのに一役買っている。色も好みだし、デザインのかっこよさは確かに私の趣味のそれだった。

「ナイフ……? ありがと。結構かっこいいね、これ」
「はい。ペーパーナイフです。今だとあまり封筒なんて開けませんから、飾るばっかりになっちゃいそうですけど……」
「見た目いいし、結構満足かも。ペーパーナイフ、なんとなくインテリアで置いといたら見栄えしそうだし」
「そうですか? 気に入ってくれてよかったです」

 卯月がくれたものならなんでも嬉しいんだけど、とは恥ずかしくて言えなかった。照れ隠しに目をナイフに戻すとやっぱり好みで、これが机の上に置いてあったら意味もなくメモ帳を切ってしまいそうだ。万年筆とか、懐中時計とか、あるいはペーパーナイフのような古い道具はなんとなく私が背伸びが出来るみたいでわくわくしてしまう。

「ええと、それで小銭を貰った理由なんですけど」
「あ、そういえば。なんだったの?」
「ヨーロッパの風習みたいなんですけど、結構贈り物にナイフを送るってメジャーだそうなんです」
「そうなんだ。日本だとあんまり聞かないけど……」
「包丁なんかは贈ることもあるみたいですね。それで、ナイフって運命を切り開くとか、縁起のいいものなんですけど。縁を切る、ということでやっぱり良くないって思う人もいたみたいで」
「うーん。縁切り……あんまり気にしないけど」
「凛ちゃんはそう言うと思ったんですけど、私はちょっと気にしちゃって。それでなのか、ナイフを貰った側が、コインを返すのが風習だって聞いたんです。そうしたら、純粋な贈り物じゃなくて、取引だからって。そこからなのかわからないんですけど、ナイフとコインを交換するのが、永遠の友情が続くー、みたいな……ええと、その、だから」

 卯月は私が渡した100円玉を握り込んで目をそむけていた。なるほど、たしかに永遠の友情が続くっていうのは……友情なのが残念だけど。永遠っていうのは、やっぱり悪くない。

「何がいいかなって皆に相談してたら、蘭子ちゃんがそういうのがあるって。それで、素敵だなって。だから、ええと、凛ちゃんに気に入ってもらえるようなデザインのを探して」
「卯月」
「は、はい!」

 自信がなかったのか、急に早口になった卯月の名前を呼んで止めた。私は本当に気に入ったんだから、あまり卯月に心配をかけるわけにもいかない。

「ありがと、ほんとに。一生大切にする」

 何を、とは直接言わなかったけど。もちろん両方をだ。

「……はい、ありがとうございます」

 今日一番可愛い笑顔の卯月を一人で見られて、今日生まれてきた自分に感謝した。



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