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それはきっと、私の命よりも。



「宝の地図だわ」

 フランドールは静かに言った。まつげも揺れないようにまばたきをして、布が鳴らないように地図を懐へ仕舞った。
 姉、レミリアの自室である。家主はベッドで不用心に寝息をたてている。
 地図は、鏡台の上へ乱雑に放り出されていた。ワケあって忍び込んだフランは、イタズラっぽい含み笑いを浮かべ、そそくさと部屋を後にする。
 足音は隠せていなかった。そして、レミリアは溜息にも思える深い息を、一度だけ吐いた。


 晴れた日の昼間なので、美鈴は日陰にしゃがみ込んでいた。

「……それで、宝探しを?」
「そうよ。お姉ちゃんが私の櫛を折ったんだもの。私だって、お姉ちゃんの大切なものをめちゃめちゃにするんだから!」

 大切なものをわざわざ土に埋めないし、あまつさえ意味深にバツ印をつけた地図を作って、その地図を適当な管理で放置なんてしないだろう。
 そんな想いを飲み込んで、美鈴は隣でしゃがむフランに笑いかけた。

「見つかるといいですね」
「はぁ? 美鈴も一緒に探すのよ」
「えぇ……」
「ってゆーか、美鈴が率先して探すの!」
「えぇ……」

 空は晴れであり、フランは吸血鬼である。
 夜は自由な外出を許されず、昼のうちは、誰かが差した日傘の下でしか動き回れない。そしていまのフランが肩を並べて歩きたいのは、美鈴だけだった。あるいはフランの気まぐれに合わせて日陰を作れるのが、美鈴だけであるとも。
 そんな心を伝えるわけでもなく、フランは不機嫌そうな顔で、嫌そうな声を出す美鈴を睨(ね)めつける。

「別に、パッとひなたに出てもいいんだけど」
「やめてくださいね? いまの監督責任者は私ですから、私がお嬢様に殺されるだけですから」

 その言葉を聞いて、フランはぷいと顔をそむけた。

「……お姉ちゃんは私が死んだってどうでもいいのよ。私が命より大切にしてた櫛を簡単に壊しちゃうんだもの。そんなことよりね、これからのプランなんだけど。」

 怪しげな骨董品屋で見つけた櫛だっただろうか。
 フランが何をそんなに気に入ったのか、美鈴にはさっぱり分からないので、困ったように眉根を寄せることしかできない。

(でも、なんでお嬢様は……)

 レミリアの考えになんて、美鈴には到底及びつかない。
 ただ、夏の空模様のようにコロコロと変わる表情で、いまは楽しげに宝探し計画を発表するフランの気持ちであれば、少しだけ分かるような気がする。

「ねえちょっと、聞いているの?」
「はい、聞いてますよ。それで、下水道からどうするんですか?」
「全然聞いてない!」

 だから美鈴は、今日のフランには最後まで付き合うのだと、心に決めた。


「なんで櫛を壊したの?」

 パチュリーの問いかけに、やや青い顔をしたレミリアは不服げだった。

「美鈴みたいなこと聞かないでよ。貴女なら分かるでしょ」
「さあ。私は現物を見てないもの」
「それでも分かるでしょって言ってるのよ……ねえ咲夜」
「……不勉強ですので、私には紅茶を出すタイミングしか分かりません」
「30分前からひたすらサブレだけ頬張ってんでしょうが。砂漠かここは」
「その言葉が聞きたかった」

 目の前に現れた、30分前から用意されていたと思われるぬるい紅茶で喉を潤し、レミリアはほうっと一息をついた。
 吐いた分だけ吸って、その息で話を始めた。

「櫛はね、死に纏わるのよ」

 パチュリーが続ける。

「極東では死者の髪を結うための櫛があると聞くわ。転じて、"その櫛で髪を梳いたから死が訪れる"という、一種の呪具として存在するとも。そんなものを身内が持っていたら思わず壊したくなるかもしれないわね」
「もしかして私、馬鹿にされてる? さっきから」

 頬を膨らますレミリアに、パチュリーは笑いかける。

「だから現物を見てないんだもの。推測と知識で、そういうものがあったかしらって思うくらいが関の山。……慣れないことするから。こんな昼間まで寝てたのに顔がまだ青いわよ? 私に任せてもよかったのに。私なら一度も壊さずに解呪できたかもしれないのに」

 パチュリーの問いかけに、やや青い顔をしたレミリアは、やはり不服げだった。

「……身内がそんなもの持っていたら、思わず壊しちゃうでしょ」
「壊したお陰で余計に強い呪いを背負ってるんだから世話ないわね」
「あんたはどこまで……もう」

 少しだけ荒れた語気も、紅茶を飲めば少し落ち着く。

「……咲夜、これは?」

 レミリアから空のティーカップを受け取り、咲夜はこともなげに答えた。

「30分の100倍速をかけて仕込んだ紅茶ですわ。ご自愛くださいませ」

 それを聞いて、レミリアは笑う。

「いい子に囲まれたわね、私たちは」

 玄関から、フランの元気な声が聞こえてきた。


「……ちゃんと見つけたのね」

 レミリアは静かに言った。フランが眠る、フランの部屋で、フランの隣で。
 静かに寝息をたてるその頬に、レミリアは軽くキスをした。
 外を歩き回って疲れ切ったフランは、柔らかなマットレスに抱かれながら、まどろみの中、薄目に見えるおぼろげな唇を、愛おしく見た。
 それは――495年前にも見たような気がする、見覚えのあるもので。

「ずっと……大好きよ」

 レミリアは部屋を後にする。
 部屋の鏡台の引き出しには、美しく透き通った櫛が眠っている。

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