ジャンル:東方Project お題:見憶えのある小雨 制限時間:1時間 読者:107 人 文字数:1896字 お気に入り:0人

大粒の雨は友の為

 暦の上での秋にも入り、寝苦しい夜もだいぶ減ったある日の事だ。それでも日中はまだ暑いと、白狼天狗の犬走椛に誘われて、「どこかに涼みに行きましょう!」と誘われた。まぁ、私もちょうど――いつも――暇だったし二つ返事でゴーサイン。椛と連れ立って妖怪の山でも有数の涼みスポット、大滝壷の畔に行くことになった。滝壷の下って年がら年中うっすらと霧のように水が舞ってるから日差しも弱くなるし、標高の高い妖怪の山から流れる川の水は気温よりもだいぶ低い。ぴしゃぴしゃと裸足で水面を弾いているだけで気持ちがいい。水着でざぶんと飛び込めば一発で全身が冷えるんだろうけれど、どこにパパラッチの眼があるかわかったもんじゃないから今回は自重だ。
 ……決して普段使わないからって水着の準備がなかったわけじゃないんだからね?
「文先輩っていつも笑ってばかりですよね」
 川辺で水と戯れている私に、おずおずと椛が話を切り出してきた。ほほう、私を誘うだなんて珍しいなとは思ったけれど、目的は共通の知人についてのお悩み相談ですか?
 同じ妖怪の山の、天狗社会の仲間ではあるけれど、正直言って……この子とふたりで遊んだ記憶は皆無だ。
 あーなんかこう言うと私が椛を嫌ってるみたいに聞こえるわよね。違う違う。好きか嫌いかで言えば、きっと好きなほうだ。素直だし、私の事も『先輩』――先輩と呼ばれているのに私の方が後輩のような気がするのだが、それはきっと気のせいだろう――って立ててくれるし、面倒見てくれるし、かわいいし、ふわふわだし、もふもふだし、ぎゅっと抱きしめるといい匂いがするのよね……って何を考えているんだ私。
 話を戻そう。私が椛のことをあまり知らない、ということだ。端的に言えば……行動の範囲と傾向が合わないから、顔を合わす機会がないのだ。哨戒任務の白狼天狗と新聞記者で――も珍しい――家の中ですべてを済ませる私では、日常でばったりなんて顔を合わせることもない。
 外回りばかりの営業職と、工場に詰めている作業員が同じ会社でも名前さえ覚えてないなんてことは人間社会でもよくある話と聞く。まぁ、そんな風に身近な人でも顔を合わせないせいでコミュニケーション不足で連絡ミスとか起こるらしいから、用がなくても顔見世ってのは重要よね……まずいわね、鼻高天狗様にお会いしたのいつだったかしら……ひい、ふう、みい……なんだ、まだ半年も空いてないじゃない。前は三年くらい会わなかったら怒られたからまだまだ平気ね。
「はたて先輩……聞いてます?」
「ん? どうやったら怒られないかのテクニック? 物理的に会わないことよ。顔を合わせなきゃ相手だって怒れないわ!」
「いえ、そうではなくて、文先輩のことですよ。文先輩が泣いてるのって私見たことないなって」
 椛と遊ぶとなると、大抵は文とセットで行動しているイメージがある。文も取材とかで外をビュンビュン飛び回っているからね。よく外回りの椛とも顔を合わせるんだろう。そして、何かにつけては家で作業をしている私を引っ張り出して、三人でどこかに。というのがいつものパターン。
 椛と私とは直線で繋がらないけれど、文という共通点を介在させることで、二等辺三角形で釣り合う。私たちの関係はそんな感じだ。
 まぁ、椛が文の話を切り出すのはある程度予想できることではあるけどね。なんせ椛はもふもふでふわふわの素直で優しい面倒見の良い気の利く後輩だ。私みたいなちょっと疎遠な先輩のことも気にかけるのだ。もっと身近な文のことはもっと気にかけてるだろう。
「そうね、文の泣き顔なんて私も幼い時以来見た記憶はないかな。あいつ、強がりだからさ、ちょっとやそっとじゃ、いつもやせ我慢で笑うような奴なのよ」
「私、文先輩に無理をさせてるんじゃないかなって……もっと頼りがいのある存在になれたらいいんですけど」
 そういって、ぺしっと水面を蹴飛ばした。
「大丈夫よ、あいつは泣けないわけじゃないから。泣かなきゃいけないタイミングをよくわかってるだけよ」
 そういって、私は携帯で古い写真を引っ張り出した。
「あいつは、自分の為じゃ泣かないから」
 それは、文の身長が今の半分程度のころの写真。ぐしゃぐしゃに泣きじゃくった。不格好な表情だ。
 一番汚く取れた、私の宝物だ。



____________________
【覚書】
ワンドロキャラ:リリカ はたて 布都

見覚えのある→はたての念写をモチーフにしたい。

小雨:秋雨、涙をモチーフにしたい。

はたてから見て『見覚えのある』→文の泣き顔?
なんで泣いた。


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