ジャンル:刀剣乱舞 お題:意外!それは借金 制限時間:1時間 読者:34 人 文字数:2295字 お気に入り:0人

【くりんば】滑稽な話

耳に届いた微かな音は、恐らく、人の声をしていて、なんで恐らくなのかと言うとそれを声と呼んでいいのかどうかわからないほどの小さな、それは小さな、歌のようなものであって。
歌、だろうか。叫びにも聞こえる。形容しがたいその音は、地を這うような呻き声にも、空を駆けるような軽快な声にも取れた。
本丸の廊下、その日は丸い月がよく見えた、丸い月の光が夜の庭を照らしていた、そんな日に本丸の廊下を歩いていた。
大俱利伽羅は紺の着流しに普段の腰布と同じ紫の羽織を軽く肩にかけ、自室に帰ろうとしていた。そんな時のこと。
時刻はとうに日付を跨いでいる。居間の方では酒飲みたちがアレソレと楽し気に騒いでいてその声も、だいぶ遠ざかって静かな夜の空気に身を預けていたその耳に、ソレは届いた。
歌、のようなもの。
無視しても良かった。慣れ合う気は無かった。別に歌なんて珍しいものでもなかった。
でも聞こえてきたソレは、否応なしに大俱利伽羅の足を動かしてそうして、さして広くもない庭の隅に一本生えた桜の樹、その樹は他のものよりもひときわ大きくて確か誰かがこの本丸の支えになってるものだとかなんとかそんなことを言っていたその樹、の、根本、に、いた。
山姥切国広、は、いた。
酒瓶を一つ、ゆらゆらゆらゆらと揺らして、御猪口を指先で転がしながらそうして、鼻歌のようなはたまたただの音のような。
泣き声のような。嗚咽のような。
ゆらゆらゆらゆら。歌う。樹の根元、地面に浮き出た根に腰かけ、白い着流しにいつもの布を羽織って、身体を揺らす、ゆらゆら。
人差し指で御猪口と遊ぶ。何の変哲もない、少なくとも大俱利伽羅にはそう見える、ただの小さなソレを、彼は大層愛おしそうに指で縁をクルクルと円を描いてそうして愛でて歌う。
「……酔ってるのか」
声をかける気は無かった。さっさと退く気だった。嘘じゃない。たいして仲良くもない山姥切と話すことなんて無い、そうだろう、意味の無いことだろう。
でもその声は良かった。大俱利伽羅は服に土がついたら嫌だとかああ、酒くさいなあとかそんな、どうでもいいこと、どうでもよくないけどでも今はそんな、些細なこと、なんて詮の無いこと、が頭を過ってだけど結局、隣に腰かけた。
もう一度聴きたい。
「……なんだ、」
大俱利伽羅か、なあ、どうした、飲むか。
今気づいたと言わんばかりに彼は頭を傾げてそれはそれは愉快そうに笑ってそうして、さっきまで弄んでいた小さな御猪口を差し出してきた。
酒瓶の中は空だった。
「飲みすぎだな」
「飲んでない、そんな、飲んでないぞ」
「酔っぱらいはみなそう言う」
「酔ってない、俺は酔ってない、なんだ、お前はおもしろいな、大俱利伽羅、変なことを言うんだな」
そう言って酔っぱらいの体は揺れる、ゆらゆらゆらゆら。被っていた布が落ちる。楽しそうだな。月の光が、やけに丸い月の光が、金の髪を夜の闇に浮かび上がらせた。常では見られないようなケタケタした笑いが鼓膜を揺さぶる、ゆらゆらゆらゆら。
もう一度。
「なあ、」
「う、ん?」
「歌えよ」
うた?
復唱した言葉、は、恐らく頭に入ってたはいいがただの記号としかならなかったのだろう。うた、と、再度ぼやいて、青い目を、大俱利伽羅はその空を映したような澄んだ青が好きだったのだけどそんなことを言うことはきっと訪れない、そんな青い目、を、彼は、ぱちり、と、閉じて、開けて。
にたあ、と笑う、あまり良くはない笑みを、彼は浮かべる。
「うたじゃない」
「……じゃあなんだ、泣き声にも似ていたが、あんたはあんな大きな声で泣き声を晒していたのか」
「ああ、そうだ」
は?
「泣いていたんだ、一人で。」
「……なぜ」
「なぜ? おまえ、ほんとうにおもしろいな。なぜ。それはあんたが嫌う慣れあいじゃあないのか」
こいつはこんなに笑う奴だったか。今、横で、大俱利伽羅の顔をまっすぐ見つめ、布を被り直しもせず、頬を赤く染めたままただただ心底滑稽なものを見ていると言いたげな視線で。
山姥切国広は、口を開いた。
期待に応えてやるよ、と。
そうして、彼は叫んだ。声を、喉を、震わせて。
喘ぎ。嗚咽。引き攣った頬に舌を小さく覗かせて。
地を這うような声とも言えた。空を駆ける軽快な声とも言えた。
泣いている、とも、言えた。
きっと恐らくソレはあまり良くない、およそ賢くはない、喉の使い方をしていて。
山姥切国広、は、吠えた。
後悔を、屈辱を、鬱憤を、希望を、すべて孕んで混ぜ込んだ音を彼は自らの喉を使い吐き出してぶつけた。誰に。俺に。おれに?
俺のために、こいつは吠えた。
それはとても、とても素晴らしいことのように思えた。不思議なこと、滑稽なことなのだが、こいつは今、俺の為に喉を使い、感情をぶつけて、吠えている。
「――――……、」
数十秒のことだった。たった、それだけ。こほん、と、軽く咳を一つ、して、山姥切は目で訴えた、どうだった?
俺の泣き声は、どうだった?
要するに大俱利伽羅は山姥切の泣き声に惹かれたのだ、なんてこと、他人の泣き声に惹かれてここまできたなんて、こんな滑稽なこと。
「……なあ、あんた、満足か?」
何も言わない大俱利伽羅に、山姥切はゆらゆらと再び揺れながらそう問いかけて、なあ、貸しだ、と言った。
貸し。
「今日のような、満月の夜、また来いよ」
くしゃりと笑ったその顔は、よく見るとすでに赤みは引いており、なんだ、彼は本当に酔っていなかったのかもしれない、なんて至極どうでもいいことを考えながら。
大俱利伽羅は、もう一度、と呟いた。



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