ジャンル:東方Project お題:あいつの友人 必須要素:高校 制限時間:1時間 読者:121 人 文字数:2950字 お気に入り:0人

無礼な隣人


坂田ネムノの友人をというのを、私は見たことがない。
集団生活を厭い山奥で個々の孤独な生活を送る山姥という種族は、厳格な階級制度に基づいた役割分担によって成り立つ天狗社会に属する私にとっては不可解極まりない存在だ。

仲間がいれば、1人では困難な仕事もやり遂げられるし、何か問題が起きた時も身内に押し付けられ……もとい助け船を出してもらえたりする。権力を持ったものによって定められる一つの集団の行動方針は、我々が烏合の衆--烏天狗だけに--に成り果てることを防ぎ、我々を一つの大きな力としてまとめ上げる。
素晴らしきかな集団生活。多少息苦しくもあるが、私は現在自分が置かれている社会構造が至上であると確信している。
ゆえに山姥たちの生き方には合理性が全くない、と思う。
それでも私は形式上の理解を彼女に示すのだ。
何故なら私は、高度な社会生活を送っている「優れた妖怪」の1人だから。

***

無個性で無彩色な黒の羽が秋晴れの空を駆ける。
うちはもう今年何度目かも分からない無礼な侵入者に心底呆れ果てながら、何の警告も発することなくその烏を射落とそうと狙いを定め、鉈を振りかぶって勢いよく投擲した。

「あやややや、ちょっと、いきなり刃物投げてくるなんて危ないですよ! 学校で教わらなかったのですか!? ひとに刃物を向けちゃあいけないって……ああ、貴女は学校に通ったことがないのでしたっけねえ……」

すんでのところでうちの一撃を回避した烏天狗は、驚きを滲ませつつもニタニタと性根のひん曲がった笑みを浮かべて急降下してくる。
やたらとよく回る嘴から紡ぎ出されるその声は、明確にうちを馬鹿にしているのが手に取るようによく分かる。

「よく喋るアホウドリだ。こりもしねえで何しにきた」
「いえ何、たまたま近くを通りがかったものですから、少しご挨拶をと思いましてね。一応の知り合いではあるものですから、礼儀として」
「礼儀というなら近寄るなってもう何遍も言ってんのが分からねえときた。こりゃとんだ大バカラスだなや」
「貴女の要求を呑むことは『私の』社会的な正しさに反するのですよ。社会を持たない貴女には到底分かり得ないことでしょうが」

何を言っても彼女の言葉から滲むのは、根拠不明の「優越感」だ。
集団で群れて生活する天狗は、そうでないうちのような単独行動の妖怪を見下す。
単独行動でなくても、基本的に妖怪の山の下に住まう有象無象の人妖たちのことは悉く自分より下に見るのが特徴だった。
優れた技術力を持つ河童を従え、優れた力を持つ鬼のすぐ下のヒエラルキーとして認められた自分たち天狗の社会は、素晴らしいものなのだという信念を確固たるものとして持っていた。
--まるで宗教だな。

「そうか、じゃあその礼儀が済んだなら帰ってくんろ、天狗の新聞記者さん」
「まあまあそう急かさずに。私は心配しているんですよ? 坂田ネムノさん。もちろん貴女たち山姥の単独行動主義は尊重していますが……今の世の中は、助け合いの時代。妖怪と妖怪が手を取り合って生きていくべきなのです。それなのに貴女ときたら、一人きりで聖域にこもって毎日一体何をしているのやら」

言葉ばかりの尊重など、木の枝を揺らすそよ風よりも無意味な音だ。露骨な上から目線には最早腹を立てるだけ無駄と悟った。
うちはうちの聖域にあるものだけで、満足した暮らしを送っている。これ以上も、これ以下もないのだ。「今の世の中」がどうであれ、変わることは人間に任せておけば良い。妖怪であるうちは、ただ繰り返される四季に身を委ね、淡々と変らぬ日々を過ごすだけ。変らないということこそが、自然と共に生きる妖怪の在り方だべ……
と考えはするが、それを言ったところでこの狂信者はうちの強がりだと信じてやまないのだろうし、何か言うだけ無意味なことだと思い口を噤んだままでいる。

「そうだ貴女、友達を作りませんか? どうせいないんでしょう、友達の1人も。うちの下級天狗を誰か紹介しますよ、貴女の知らない囲碁や大将棋などの知的な遊びもきっと彼女が教えてくれるはずです」

それでも、そうだな。土足で縄張りに踏み入られて、こうべらべらと耳元で煩く鳴き喚かれては単に耳障りだ。
何かこいつを追い払うすべは無いものか。今度カカシでも作って置いてみっぺかな。
それとも……ああそうだ、言葉には言葉だ。おしゃべりなオウムには皮肉を込めた意趣返しの一つでもくれてやってかまわんだろう。
秋めく山に降り立つ天狗、その近くへとうちはぐっと距離を詰め、赤く鈍い光を浴びる彼女のまなこをしかと見据えた。こうして近づいてみると、案外こいつは背が低いな。
突然のうちの動作に意表を突かれたのか、天狗の瞳がうろたえたように揺れる。すかさず彼女の手を軽く握り、うちは言葉を紡ぐ隙を与えずにこんな言葉を吐いた。

「何だァ『文ちゃん』、これだけ頻繁にうちの所に来てんだもの、おめえはうちの友達なんだと思ってた。んだのに自分を友達の勘定に入れてねえってことは……アレか、うちの夫にでもなる気でいたのけ? こんだけ足繁く通ってよ。 おめえ、うちのこと好きなんだっぺ?」

にやり、と口角釣り上げて、うちは天狗の反応を見た。「下等」なうちにここまで言われたっくれ、流石の天狗様もそのお高いお鼻をくじかれた気になってここへは来なくなるだろう……
そう思っていたのに、意外や意外。何故かこの天狗は見る間に紅葉したかごとく頰を染め、ばっとうちの手を振りほどくとひどく取り乱した様子で震える人差し指をうちに向かって突きつけた。

「だっ……誰がお前なんかの友達ですって!? それどころか、お、おおおお夫!?!? くっ……口を慎みなさい、この野蛮な未開部族め!!」
「ほう、高貴な天狗様の本音が出たなあ」
「あっ……」

向けられた台詞はまあ予想通り。
しかしながらどうも視覚的に得られる天狗の様子がおかしい。
この慌てようはまるで……「図星」だったみたいじゃないか。いやそんなまさか。

「きょ、今日のところは失礼しますよっ! まったく、飛んだ酷い勘違いをされたものですっ!!」

普段よりも甲高い声でわめきながら、天狗はやや乱れた翼の動きでふらふらと空の彼方へ飛んでいく。
1人残されたうちは頭をかいて、どうにも拍子抜けなしかめ面をした。

「……まあ、帰ってくれんなら何だっていいんだがな」



***

全くとんだ勘違いをされたものだ。
私が山姥の友達? 笑止! 勘違いも甚だしい。
だってこちらは妖怪の山の支配階級、それに対して向こうは社会すら持たない未開の野蛮人? 何もかもが釣り合わないのだ。
それでも憎らしいことに私の心臓はやけに早く脈打っているし、ずいと近寄られて見据えた燃えるような山姥の瞳の印象が網膜の裏からなかなか消えてくれない。
--ええい、雑念よ、滅びよ!

音より早く飛ぼうとして、私の翼は空を切る。あの憎たらしい山姥も、鮮やかに彩られた山の木々も、一瞬で遠く後ろに消えて、私の身から離れていく。
それでも、正体不明の胸の高鳴りだけは、どれだけ速度を上げた所でふりきれなくて腹立たしかった。

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