ジャンル:東方Project お題:自分の中の屍 制限時間:1時間 読者:98 人 文字数:1615字 お気に入り:0人

記憶の屍


得体のしれない想いが、身体中を駆け巡ることがある。
妖怪の寿命は長い。果てしない時を、同じような暮らしをして淡々と過ごしていく。そのうちに、具体的な事象こそ忘れてしまうが、その時に抱いた思いだけが形骸化した感情の残滓となって心のうちに留まる……ということが少なくない。
そんな「思い出の抜け殻」の一つが、こうして暮れ行く秋の空を眺めた時には生じる、もどかしいような切ないようなむず痒い感覚なのである。
秋の日は釣瓶落とし--そんな風に言うこともある。釣瓶落とし本人にはもう何十年も会っていないが、その落ちゆく速度の素早さだけはよく覚えていた。
他者に会えなくて寂しいと思うことは滅多にない。しかし、ふと誰かのことを思い出した時に、それがもう二度と会えなかったり、会うのに非常な困難を要する者であったりすると、懐かしむと同時に少し切ない気もしてくる。正直、あまり心地のいい感覚ではない。
人間などはすぐいなくなるから余計にだ。
--人間といえば、突然縄張りに踏み込んできた、面白い奴がいたっけ。
あっという間にとっぷりと暮れ、一番星の輝き始めた群青色と燃えるような夕焼けの赤の境界線を家の窓越しに見つめながら、うちは彼女のことを思いだした。

***

「おめえ、強いな。なにもんだ?」

久々に興じた弾幕ごっこで敗北を喫したうちは、勝者である侵入者に向かって素直な賞賛の声を送る。
見慣れぬ彼女は、竹箒に跨り、白黒の服に身を纏うというかなり奇抜な格好をしていた。

「魔法使いだ。といっても、人間だがな」

勝気な金の瞳が光る。
その様子はまるで、その名乗りに、誇りを持っているかのように見えた。

「ほう、人間、ねえ……」

人間。短命で儚き者であり、この幻想郷においては弱者の代名詞といっても差し支えない。
それでもその短い命を一心に燃やし、それに見合う力をしかと使いこなす彼女はまさに鮮烈な光のようだった。
だからうちは贈ることにしたのだ。自分なりの、彼女への最大限の賛辞を。

「まるで伝説の金時みたいな人間じゃな」

人間でありながら、山姥に育てられ、鬼を退治した者の古き伝説である。その真偽については、実際の所うちもよく知らない。
しかし山姥連中の間ではその伝説は非常によく語り継がれているし、だからこそ我々は人間に対して比較的好意的なのだ。
儚くとも闊達、なりふり構わず命のかけらを絞り尽くして物事にあたれば、か弱き人間はこの世のどんな妖怪よりも強くなれるということを信じているから。
もちろん、短命である定めは変えることはできない。ゆえに伝説の金時が実在していたとしても、ほぼ確実に現時点では存命でないだろう。
しかし彼の話は語り継がれる。思い出の残滓になりはてぬよう、記憶の屍にならぬよう。
うちはこの魔法人間も、そうであってほしいと確かにあの時思っていた。


***

丁度いい具合に煮込まれた鍋から、暖かな湯気が立ち上る。今日は猪を狩れたから、晩飯が豪華だ。
あっという間に暗くなる山は冷えるのも早い。暖かいものを食べ、英気を養わねば健康に乗り越えることは困難だ。
しかし、自分で、自分のための料理を作りながら、うちはまたこうも思うのである。
--この晩飯は誰のため? うちはどうして、うちの事を生かしている?
長い長い時間を生きて、薄く引き伸ばされた生命の上では、具体的に覚えていられる思い出の数などそう多くない。
あの時うちは確かにあの人間を覚えていたいと思ったが、それを実行できる確証はない。

「……まるで、思い出いっこ忘れるたんびに、自分の一部が死んでくみたいだなや」

秋の日は釣瓶落とし。
夕暮れが切ないのも、枯葉を踏む音が物悲しいのも、きっとうちが忘れて殺した「記憶の屍」と向き合っているからなんだろうなとこの時初めて気がついた。

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