ジャンル:刀剣乱舞 刀さに お題:君と内側 制限時間:1時間 読者:230 人 文字数:1676字 お気に入り:0人

君が望むのなら

 俺にとって、彼女は唯一無二だった。だけど、彼女にとってはそうではないことを俺は知っていた。

「鶴丸」

 柔らかい声で彼の名前を呼ぶ彼女は、彼に対する親愛の情を明らかに浮かべていた。優しく笑う面差しは、俺には決して見せてくれない表情だ。彼女が鶴丸のことを憎らしく思っていなかったことは、既に周知の事実だった。だけど、これで彼女がここまで丸くなるまでにはそれなりの紆余曲折があった。

 彼女は素直ではなかった。
 何が彼女をそうさせたのか。俺が彼女と出会ったときには既にそうだった。その頃から、彼女は俺に対してそれなりに優しい人だったが、鶴丸に対してだけはそうじゃない。極力視界に入れないようにしているようだった。
 鶴丸は彼女のそんな態度に、日に日に病んでいっていた。俺たちは刀で、刀は人から必要とされなければただの鉄の塊だ。だからその気持ちは俺とてわかる。それでも俺は最初に出会ったときから、気付いていた。

 彼女が鶴丸を視界に入れようとしないとは、彼が憎いからではない。まるで、何か危ないものから遠ざけるように彼女は彼を自分から遠ざけていた。どう扱っていいかわからない、と表現するのもいいかもしれない。彼女は大切な彼を持て余しているようだった。
 それはきっと不器用なだけなのだろうと、思っていた。彼女は、俺の目を見て話す。だけどいつも遠くを見ているようだった。それでいて鶴丸を見つめているときは、真剣に難しい表情をして彼を凝視しているのだから、ただ事ではないのはわかる。
 加えて、俺が鍛刀された日に見た彼女の涙。
 失うのが、怖い。傷つくのが。鶴丸を。そして鶴丸が折れて打ちひしがれる自分を恐れているようだった。

 歪んでいた二人。例えるなら二つのパスルのピースだあったとして、隣りあった二つのはずなのに、重ね合わせる方向を間違えるから一つになれない彼ら。
 それを傍から見ているのはもどかしかった。早くあるべき形に戻って欲しかった。

 その一方で、俺は自分の中に他の感情があったことを否定し得ない。

 ――ずっと、このまま彼らの擦れ違いが続いたなら。

 それはきっと罪深い望みだ。だけど、口にしたことさえなかったが、俺とて彼女の刀だ。彼女の唯一になりたいという感情が浮かばないはずがない。
 そしてそれをするには、彼らのピースは永遠に一つになれない方が俺にとって都合が良かったのだ。

「まあ、そうはならないことも知っていたがな」
「え? 鶯丸。何か言った?」
「いいや。何も」

 本丸の大広間に置かれたテレビで、主と鶴丸と、短刀たちがゲームをしている。俺が一人呟いた言葉は、ゲームに熱中しているこの誰にも聞こえないと思ったのだが、主は意外と耳ざとい。俺に声をかけている一瞬の隙に、一位だった順位が四位に落ちて呻く彼女に苦笑する。
 幸せそうな彼女。鶴丸に対して誠実になれて以来、彼女は本当に穏やかだった。
 だからこれで良かったとは思っている。それは本当だ。きっと鶴丸から俺が彼女を奪ったとして、彼女をこうして笑わせることは出来なかっただろうから。

「もう! 負けた!」

 そう言って彼女は橙色のコントローラーを地面に置いた。悪いことをしたか、と思って画面を見れば一位を取ったのは鶴丸のようだった。彼はゲームが得意だから、こうして彼女らを負かしている光景は見慣れたものだ。

「どれ。それじゃあ俺が主の仇を取ってやろう」
「本当?」

 ああ。と頷いて、先ほどまで主が握っていたコントローラーを手に取る。キャラクターはクッ○がいいだろう。鶴丸を吹っ飛ばしてやるには丁度いい。

「頑張って、鶯丸! 鶴丸を負かして!!」

 鶴丸は、彼女にとっての唯一無二だ。ならばせめて、今このひと時の声援だけは俺がもらっても構いはしないだろう。

「ゲームとは言え、抜かりはないさ」

 俺の言葉に、鶴丸が豆鉄砲を打たれたような顔をしたのが、妙におかしかった。

題:君と内側 設定がうちの鶴さに連載から。うぐさにじゃなくてごめんね

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