ジャンル:Fate/Grand Order お題:私の修道女 制限時間:1時間 読者:110 人 文字数:3604字 お気に入り:1人

【オジぐだ♂】心臓にいばら

「貴様たちの心よりの敬愛。余への想い。しかとこの神王が受け止めた」
 オジマンディアスがそう言ったとき、立香は自分の想いが許されたような気がした。もちろん、それは都合のいい解釈に違いない。それでもその瞬間、少年の心は確かにふわりと軽くなったのだった。今まで彼を思ってきたのは無駄ではなかったのだと言ってもらえたような気がした。この心に棲みついたよこしまな感情を伝えることはもちろんできないけれど、ただ彼のことを慕う気持ちだけは受け止めてもらえたのだと思った。
 彼は愛のひとだと思う。多くのひとびとに愛され、彼もまた彼らを愛した。人間でありながら神を名乗り、ひとびとのうえに立った偉大な王――彼のことを本当に知っているとは言えないけれど、立香はカルデアに来た彼から懐の深さを感じることが多かった。
 そして今回もまた、彼の『愛』を感じたと言っていい。
「これ以上の捧げ物は不要。それは最早犠牲であろう!」
 自分に捧げるものは、その感情だけでじゅうぶんだと彼は言った。自分はそれに値するだけの愛情を彼に捧げられていたのだと、立香は思った。驕りかもしれない。都合のいい解釈かもしれない。それでも構わなかった。王の言葉は与えられた。それをどう解釈するかは、受け取ったもの次第だろう。そう言い訳のように心の中で唱えて、立香は自分の望むようにその言葉を受け取った。
 そしてオジマンディアスは、立香の瞳を覗きこんで、彼のことを分析した。心臓がとまりそうなほど緊張していたことを、ファラオはきっと知らないだろう。知られてはなるまいと必死で平静を装っていたから、それが成功してくれていないと困る。そしてその形のいいくちびるが紡いだ言葉のひとつひとつが、どれだけうれしかったか。自分を、生きていくために足掻き続けるタダの人間に過ぎないと言ってくれたこと。守るべき存在だと言ってくれたこと。何よりもうれしかったのは、マスターを名乗ることを赦すと言ってくれたことだ。
 今まで立香は、一応自分が彼のマスターであるつもりではいたが、認められているわけではないだろうと思っていた。王の中の王たるオジマンディアスが、ただの魔術師まがいの人間をそう簡単に認めてくれるとは考えられないし、協力してくれるだけでいいと捉えていた。実際彼は、立香が自分を従えるのではなく、自分が立香を伴い世界を救うのだと言っていて、立香もそれで構わないと思っていた。彼のような偉大なるファラオが力を貸してくれるだけで、カルデアにとっては有難いことなのだ。
 しかし彼は、マスターとして立香を認めてくれた。マスター、と呼んでくれた。そんな日が来るなんて、思ってもみなかった。
「太陽の輝きを感じるごとに余を想い、太陽の恵みを味わうごとに余を敬ってもまだ足らぬ」
 その瞬間、立香は息がとまるかと思った。恐れ多さではなく、歓喜ゆえだ。人によっては、いくら想っても敬っても足りないと言われたように思うだろう。しかし少年は、安心していくらでも愛せばよいと言われたような気がした。この胸にひそかに抱え続けた思いがいくらふくれあがって、あふれこぼれても、オジマンディアスならば受け止めてくれるのではないかと感じた。伝えたら応えてくれるのではにかと期待したのではない。ただ、想うこと、想い続けることを許されたような気がした。
 立香にとって今まで、彼を思うことは彼を裏切ることだった。世界を救うためにカルデアに来てくれたサーヴァントに対して、自分は正しくない感情を抱いているのだと考えずにはいられなかった。恋愛にうつつを抜かしているような場合ではないし、偉業を成し遂げてきた英霊は自分ごときが想う権利のある存在ではない。
 しかし、想ってもよいと彼は言った。いくら想っても足りないと。それは、胸いっぱいにふくらんだ感情に息ができなくなりそうになっていた立香にとって、救いの言葉だった。たとえすべてが受け入れられることは永遠にないとしても、この感情を抱いていることは間違いではないのだと言ってもらえたようで、泣いてしまいそうなほどうれしかった。
「よくよく励め、マスター。中天に陽がある限り、我が光輝が貴様の道を照らそう!」
 自分が前に進む限り彼がそばにいてくれると、そう思ってもいのだろうか。緩慢にまばたきをしながら彼を見つめる少年に対して、ファラオは穏やかな笑みを湛えて静かに頷いた。
「ありがとう、オジマンディアス」
 その声がふるえていたことに、彼は気づいただろうか。
 そのとき立香は、文字通り、天にも昇る心地だった。しかしその後、褒美として与えられたのは地獄だった。
 オジマンディアスは、最愛の妻ネフェルタリと自分の恋物語を詩として語り聞かせ始めたのだ。彼がもっとも愛した女性、幾星霜を経てもそれは変わることがないと彼は言う。幸せそうな表情を浮かべながら、彼は言の葉を尽くしてふたりについて語った。低い声は心地よくて、それ以外の内容ならずっと聞いていたいと思っていたことだろう。しかしそのすべてが、立香にはつらくてたまらなかった。彼の気持ちが自分に向けられるなどと、思っていたわけではない。そんな烏滸がましい期待は抱いていなかった。それでも、どうして好きなひとが好きなひとの話を平気で聞いていられるだろう。初々しかったころの彼をかわいらしいと思いながら、その実際を知っているのは、そのとき彼が愛していたのは、ネフェルタリそのひとなのだ。嫉妬しないと言ったら嘘になる。マスターとして認められて、それ以上のものは望むつもりがないのに、まるで諦めろと言われているみたいだ。絶望を目の前に突き付けられたような心地で、立香はオジマンディアスの話を聞いていた。頬を染め興奮したようすで相槌を打つニトクリスの隣で、立香は泣かないようにするのが精いっぱいだった。奥歯を噛みしめて、必死にふるえる喉を押さえつけていた。
 話が一区切りついたとき、ようやく解放された、と思った。絶望の渦に呑まれ息が止まりそうになりながらも、なんとか持ちこたえた自分を褒めてやりたかった。しかし、最後にとどめを刺された。
「ネフェルタリの話に集中するあまり忘れかけたわ、許せ」
 そもそもの事の発端である自分の願いよりも、最愛の妻について話すほうが彼にとっては重要だったのだと思い知らされて、たまらなかった。

 それでも、オジマンディアスがシミュレーションルームから出てきてくれてよかったと思っていたのは本当だ。ニトクリスと作戦成功のよろこびを分かち合っていると、彼女を呼ぶ声がした。よく休むようにと言いながら、彼のそばに控えているのが当然だという認識らしい。さすが王と言うべきか。
「光悦を賜りますよ」
 言われるままに、立香は彼女とともにレクリエーションルームに向かうオジマンディアスたちの供をした。初めてその部屋に足を踏み入れたファラオはあらゆるものに興味津々で、あれこれと解説を聞きたがったので、立香は知っている限りの知識を提供した。オジマンディアスとアルトリアは、アーチャーのギルガメッシュに促されるままゲーム機に手を伸ばし、プレイに熱狂した。立香はしばらくそれを見守っていたが、やがてそっとレクリエーションルームをぬけだした。
 廊下に出たところで、キャスターのギルガメッシュに遭遇する。彼は本から顔をあげて、立香をひたと見つめた。柘榴色の双眸に捉えられると、視線を外すことができなくなる。
「おうさま、」
 ふるえる声でそれだけ紡いだ少年に対して、ギルガメッシュはふっと吐息を漏らすように笑った。ごくごくわずかにくちびるを持ち上げた程度だったが、それが返事の代わりだと立香にはわかる。
「余程堪えたらしいな」
 笑みを含んだ、それでいて労わるような声色に、立香はぐしゃりと顔をゆがめた。ひくりと喉がふるえて、こらえていた涙が目尻からぽろりとこぼれ落ちる。堰を切ったようにあふれ出した涙を、少年は慌てて手の甲で拭った。次から次へと湧いてくるそれに、立香は途方に暮れたようにギルガメッシュを見つめる。賢王はほのかな笑みを浮かべたまま、立香に向かって手を伸ばした。立香はそれを見て、思わず自らの手を伸ばし、その勢いのままに彼の胸に飛び込んだ。すとんと受け止めたあたたかな胸に、少しだけ胸の痛みがやわらいだような気がする。しかし目を閉じた瞬間に、ネフェルタリのことを語るオジマンディアスの顔が思い浮かんで、すぐに心臓は引き絞られる。
「酷くしてください。めちゃくちゃにして、」
 かすれた声で訴えると、立香の瞳を覗きこむように鼻先を擦りつけながら、ギルガメッシュはうっそりと目を細めた。その瞳に宿るものがやさしさだけではないと知っていて、それでも立香は縋らずにはいられない。
「良かろう」

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