ジャンル:アイドリッシュセブン お題:運命の暴走 制限時間:15分 読者:168 人 文字数:957字 お気に入り:0人

帰路の温もり

「うー……寒いなあ……」
「この季節は乾燥します。特に貴方は人一倍体調には注意してくださいよ、七瀬さん」
「わかってるってば」
 ぼぞりと呟いた言葉にもお小言が二倍三倍になって返ってくる。そんなことを思いながら、陸は隣に並んで歩く一織を視界の端で見ていた。一織と言えば自分の方を見る訳でもなく、白い吐息を漏らしながら帰路を歩いていた。マフラーと変装用にかけている太い縁の眼鏡の隙間、白い一織の頬が赤く染まっているのを陸は見逃さなかった。
「……えい」
 勢いづいているわけでもない、軽い気持ちで漏らしながら零した声と共に、陸は一織の頬に人差し指を突き立てた。
「……は?」
 そこでようやく、一織が足を止めて陸の方を見た。その視線は、伊達眼鏡の薄いレンズでは隠し切れないほど冷え切っていた。
「あっ、いや、なんとなく。ほら、一織のほっぺ、冷たそうだなあって」
「人の頬が冷えていれば一方的に触れてもいいという決まりがこの世の中にあるんですか」
「うっ……すみません……」
 冷たい視線よろしく一織は感情を一切灯そうとしない声色のまま、陸に早口に言った。もちろん、自分が全面的に悪いのはわかっているから、陸はがくりとうな垂れて謝罪の言葉を述べた。
「……全く」
 そう言って、一織は陸より一歩先を歩き始める。
「あっ、待って」
 陸は慌てて一織を追いかける。が、早足の一織はすたすたと歩いて自動販売機の前に立った。
「へ?」
 そして一織は振り向いて、陸に向かって何かを投げた。陸は反射的に手を伸ばして、それを受け止めた。冷気を帯びても熱を灯すそれは、ホットココアの缶だった。
「わっ、あつっ」
 それを認識した途端、陸は思わず上ずった声を上げた。
「慌ただしい人だな」
 またお小言か、と思って陸は視線をココアの缶から一織に向ける。自動販売機の中途半端な光を背後に立つ一織の姿は少しだけぼやけて見えた。きっと、その顔に浮かぶ表情も半端な光の反射でそう見えるだけではないと思いながら、陸は両手でホットココアを握り一織に向かって走った。
「一織! ありがとう!」
「走らなくてもいいですし、大声をあげなくてもいいですから。ほら、早く帰りましょう」
「うん!」
 寒空の下、二人はまた隣同士並んで寮までの道のりを歩いた。

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