ジャンル:カルジュナ お題:つまらない町 制限時間:30分 読者:190 人 文字数:2141字 お気に入り:0人

【カルジュナ】洋裁専攻学科xモデル志望5

アルジュナとマリー、そしてナイチンゲールは本日の合流場所である中央ロビーに辿り着き、学内学生の作った衣装展示を眺めながら迎えを待っていた。

「おーい、アンタたち~」

気鋭の技術と精神の殴り合いの場所には似つかわしくない、些か気の抜けた声。しかし、アルジュナはその声に聞き覚えがあった。

「すいませんね、遅れました。造形学専攻二年のロビンです」
「わざわざありがとうございます。私はアルジュナ、こちら、マリーとナイチンゲールです」
「ははっ、壮絶だねぇ」

壮絶、という言葉がロビンの口から出てきたことにアルジュナは些か疑問を抱く。常ならば「壮観だ」や「目の保養だ」などという言葉が返ってくることに慣れて切っていたアルジュナに、ロビンは両手をぱっと目の前で広げながら囁いた。

「忘れたとは言わせねぇよ、授かりの英雄?」

その名を告げられた瞬間、アルジュナの胸に、氷の塊が落ちてくる。臓腑の奥へ、奥へと沈んでいく氷は雪までも連れてきて、しんしんとアルジュナの心を冷やしていった。
アルジュナこそ忘れたことのない、その二の名。神に愛され人に愛され、英雄となるべく生まれた一人の戦士。
アルジュナは自身の心境をおくびにも出さず、ロビンに対して口を開く。できるだけ声量を抑え、柔和な雰囲気を醸し出しながら。

「記憶が、在るのですね」
「確信したのは、アンタらが来てから。今まで俺の周りに同じヤツは居なかったね」
「そうですか。私たちはなるほど運が良かった」

アルジュナはゆっくりと左手で髪を耳にかけた。目を僅かに伏せ、瞳は美しい線を横に引き伸ばしながら細まり、端麗な印象を呼び込んでくる。ガラス張りの自動ドアや、一面のガラス窓たちにより穏やかな光が差し込み、アルジュナの頬を少しだけ明るくする。僅かに舞っている空気中の埃の残渣が、キラキラと燐光のようにアルジュナの肩口で輝いた。まるで一枚のポートレートのシャッターチャンスである。ロビンは眉間に皺が寄るのを自覚しながら、アルジュナを指差した。

「オタク、そういうのってわざと?」
「あぁ、失敬…どうしても外見を値踏みされる場所におりますので…もう、癖のようになってしまって」

現に、今も他校の三人は奇異の目に晒されている。しかしマリーとナイチンゲールは純粋なモデル専攻ではない。普段の立ち姿も、食生活にも人の口が入ることは少ない。ナイチンゲールこそが自身および二者の体調管理のために口うるさく注意してくることはあったが。

「ふーん……まぁ、そういうこともあるわな」
「お分かりいただけて光栄です」

こっちだ、とロビンが行先を示し、歩を進める。三人はそれに続き、教員たちが多く駐在する特別フロアへと向かっていく。

「なぁ、カルナがお前を忘れてたのって、なんでだと思う?」
「私には分かりかねます」
「お前だったらあそこで胸倉掴んで『何故私を覚えていない!』とか言いそうだと思ったんだけどな。ほら、昔の…アメリカ…だったかな、なんかそんなとこでお前とアイツがしっちゃかめっちゃかしてたような気がすんだよ」
「そこも覚えておいでなのですか。それならば話は早い」
「ん?」

ロビンはつい振り向く。そこには、ぞっとするほどに端正な顔立ちの青年が居る。
英霊ではない、ただの人間の器に入った、混沌たる記憶が散々に流し込まれたもの。型取りに失敗した鋳造のような、無機質な笑み。

「あの時よりも執着は薄れ、忘我を選び、安寧の泥に浸かることを選んだということです。所詮、私はカルナにとって歯牙にもかける必要のない存在だったというだけですよ」

そういうわけじゃねぇと思うけど。
そう言ったロビンの言葉に、やはりそっと笑って返答としたアルジュナは、ただただ美しいだけの青年だった。神の弓も人々からの賜りものもなく、殺す相手も共に戦車に乗る明友(とも)も居ない、熱烈な記憶に人間の意識を焼かれ続ける青年。

「……あー…悪いこと、聞いたな」
「いいえ。その謝罪だけで十二分にも価値のある会話でした」
「おい」

アルジュナは交換学生代表として、事務室の中へと消えていく。
ロビンがその背を見送り、振り向くと、ぎょっとした。マリーとナイチンゲールが思ったよりも近くにいたからだ。そういえば随分お喋りだった記憶のある彼女が黙っていたということは…と背筋が冷える。

「ねぇねぇロビンさん! どうかお二人のために協力してくださらない?」
「へぇ!? なんすかそのお願い!」
「そうですね。彼らは揃って病気の気配がいたします」
「婦長まで~……」

ロビンががっくりと肩を落とす中、二人の女性はロビンの前でこれからのための計画を練り始める。それはロビンにとってはとても拙く、一蹴すべきものであった。例えば覚えていないものを無理やりに思い出させる必要性を、ロビンは見出していない。
しかし女性の瞳には逆らえず(しかも、カルデアの記憶では、滅多に自分を頼ってくるジャンルの英霊ではなかった)、はぁ、と大きい溜め息を吐いて、まずはアルジュナが戻ってくる前に二人と携帯端末の番号を交換することにした。



※君の心に、落ちろ雷鳴。僕の心に、輝け陽光。

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


見つかりませんでした。

梟光司の即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:ロビジュナ お題:重い顔 制限時間:30分 読者:37 人 文字数:1686字 お気に入り:0人
ひときわ大きなガラス窓の前で降りしきる雪を眺めているアルジュナの横顔は、まるでそこが世界の終わりのように静かだった。カルデアでは、電力を魔力として代用している。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:ロビジュナ お題:静かなお天気雨 制限時間:15分 読者:46 人 文字数:1151字 お気に入り:1人
思えば、こんなレイシフト場面は今までにも少なくなかった。天候は雷雨。視界は不良。足場は崩れやすく、敵は魔獣たち。しかし今回はどうにも運が悪かったと言わざるをえな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:ロビジュナ お題:コーヒーと料理 制限時間:15分 読者:68 人 文字数:1561字 お気に入り:0人
それは風のように、または嵐のようにカルデア内を駆け巡る。或る者は一笑に伏し、或る者は首を傾げた。果てはまたも登場人物の少女が言う。『彼を最も愛する人が、彼の一 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:カルジュナ お題:遠いふわふわ 制限時間:30分 読者:49 人 文字数:3315字 お気に入り:0人
放課後、三人は短大の本棟入り口で、ネロの言う「迎え」を待っていた。孔明もアルジュナから声をかけたのだが「忙しい」とけんもほろろに突っ返された。確かに孔明はアルジ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:カルジュナ お題:ナウい映画 制限時間:15分 読者:101 人 文字数:1477字 お気に入り:0人
私とカルナはアジトにしている隠れ家たちを闇夜に紛れて襲撃し、その都度に部下を開放して回った。皆、ある程度は人権を守られていたようで、私は密やかに安堵の溜め息を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:カルジュナ お題:意外!それはコメディ 制限時間:15分 読者:97 人 文字数:1473字 お気に入り:0人
人質を取られているというのに、一切の躊躇を感じさせない私たちに、予想が外れたとばかりに集まっていた下っ端たちが霧散していく。私はふと思い出したように手榴弾を取り 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:カルジュナ お題:美しいネット 制限時間:15分 読者:105 人 文字数:1354字 お気に入り:0人
カルナの言葉は、何故かすんなりと私の中に着地した。「行くぞアルジュナ」「……せめて、年上として敬う態度を、と叱りたいところですが、今はやめておきましょう」私は屋 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:カルジュナ お題:やば、電話 制限時間:15分 読者:124 人 文字数:1717字 お気に入り:0人
カルナと私の均衡が崩れたのは、奇しくも第三者たる存在が引き金となった。その日、私は珍しくスケジュールが崩れ、私用で繁華街へ出ていた。カルナに年相応の格好を、とブ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:カルジュナ お題:秋のエデン 制限時間:15分 読者:120 人 文字数:1797字 お気に入り:0人
本当にあいつは私の護衛にでもなりたいのだろうか。私の脳内の問いに答えてくれる人間は居ない。それこそ神であったとしても、私のこの問いに答えてくれたところで事態が好 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:梟光司 ジャンル:カルジュナ お題:軽い本 制限時間:15分 読者:120 人 文字数:1431字 お気に入り:0人
さて、結論から言うと私は根競べに負けた。遥か東方ではお百度参りとでも表現するらしい。カルナは私の元へと度々脱走を繰り返し、とうとうボスが手駒として子飼いにしてお 〈続きを読む〉