ジャンル:カルジュナ お題:つまらない町 制限時間:30分 読者:308 人 文字数:2141字 お気に入り:0人

【カルジュナ】洋裁専攻学科xモデル志望5

アルジュナとマリー、そしてナイチンゲールは本日の合流場所である中央ロビーに辿り着き、学内学生の作った衣装展示を眺めながら迎えを待っていた。

「おーい、アンタたち~」

気鋭の技術と精神の殴り合いの場所には似つかわしくない、些か気の抜けた声。しかし、アルジュナはその声に聞き覚えがあった。

「すいませんね、遅れました。造形学専攻二年のロビンです」
「わざわざありがとうございます。私はアルジュナ、こちら、マリーとナイチンゲールです」
「ははっ、壮絶だねぇ」

壮絶、という言葉がロビンの口から出てきたことにアルジュナは些か疑問を抱く。常ならば「壮観だ」や「目の保養だ」などという言葉が返ってくることに慣れて切っていたアルジュナに、ロビンは両手をぱっと目の前で広げながら囁いた。

「忘れたとは言わせねぇよ、授かりの英雄?」

その名を告げられた瞬間、アルジュナの胸に、氷の塊が落ちてくる。臓腑の奥へ、奥へと沈んでいく氷は雪までも連れてきて、しんしんとアルジュナの心を冷やしていった。
アルジュナこそ忘れたことのない、その二の名。神に愛され人に愛され、英雄となるべく生まれた一人の戦士。
アルジュナは自身の心境をおくびにも出さず、ロビンに対して口を開く。できるだけ声量を抑え、柔和な雰囲気を醸し出しながら。

「記憶が、在るのですね」
「確信したのは、アンタらが来てから。今まで俺の周りに同じヤツは居なかったね」
「そうですか。私たちはなるほど運が良かった」

アルジュナはゆっくりと左手で髪を耳にかけた。目を僅かに伏せ、瞳は美しい線を横に引き伸ばしながら細まり、端麗な印象を呼び込んでくる。ガラス張りの自動ドアや、一面のガラス窓たちにより穏やかな光が差し込み、アルジュナの頬を少しだけ明るくする。僅かに舞っている空気中の埃の残渣が、キラキラと燐光のようにアルジュナの肩口で輝いた。まるで一枚のポートレートのシャッターチャンスである。ロビンは眉間に皺が寄るのを自覚しながら、アルジュナを指差した。

「オタク、そういうのってわざと?」
「あぁ、失敬…どうしても外見を値踏みされる場所におりますので…もう、癖のようになってしまって」

現に、今も他校の三人は奇異の目に晒されている。しかしマリーとナイチンゲールは純粋なモデル専攻ではない。普段の立ち姿も、食生活にも人の口が入ることは少ない。ナイチンゲールこそが自身および二者の体調管理のために口うるさく注意してくることはあったが。

「ふーん……まぁ、そういうこともあるわな」
「お分かりいただけて光栄です」

こっちだ、とロビンが行先を示し、歩を進める。三人はそれに続き、教員たちが多く駐在する特別フロアへと向かっていく。

「なぁ、カルナがお前を忘れてたのって、なんでだと思う?」
「私には分かりかねます」
「お前だったらあそこで胸倉掴んで『何故私を覚えていない!』とか言いそうだと思ったんだけどな。ほら、昔の…アメリカ…だったかな、なんかそんなとこでお前とアイツがしっちゃかめっちゃかしてたような気がすんだよ」
「そこも覚えておいでなのですか。それならば話は早い」
「ん?」

ロビンはつい振り向く。そこには、ぞっとするほどに端正な顔立ちの青年が居る。
英霊ではない、ただの人間の器に入った、混沌たる記憶が散々に流し込まれたもの。型取りに失敗した鋳造のような、無機質な笑み。

「あの時よりも執着は薄れ、忘我を選び、安寧の泥に浸かることを選んだということです。所詮、私はカルナにとって歯牙にもかける必要のない存在だったというだけですよ」

そういうわけじゃねぇと思うけど。
そう言ったロビンの言葉に、やはりそっと笑って返答としたアルジュナは、ただただ美しいだけの青年だった。神の弓も人々からの賜りものもなく、殺す相手も共に戦車に乗る明友(とも)も居ない、熱烈な記憶に人間の意識を焼かれ続ける青年。

「……あー…悪いこと、聞いたな」
「いいえ。その謝罪だけで十二分にも価値のある会話でした」
「おい」

アルジュナは交換学生代表として、事務室の中へと消えていく。
ロビンがその背を見送り、振り向くと、ぎょっとした。マリーとナイチンゲールが思ったよりも近くにいたからだ。そういえば随分お喋りだった記憶のある彼女が黙っていたということは…と背筋が冷える。

「ねぇねぇロビンさん! どうかお二人のために協力してくださらない?」
「へぇ!? なんすかそのお願い!」
「そうですね。彼らは揃って病気の気配がいたします」
「婦長まで~……」

ロビンががっくりと肩を落とす中、二人の女性はロビンの前でこれからのための計画を練り始める。それはロビンにとってはとても拙く、一蹴すべきものであった。例えば覚えていないものを無理やりに思い出させる必要性を、ロビンは見出していない。
しかし女性の瞳には逆らえず(しかも、カルデアの記憶では、滅多に自分を頼ってくるジャンルの英霊ではなかった)、はぁ、と大きい溜め息を吐いて、まずはアルジュナが戻ってくる前に二人と携帯端末の番号を交換することにした。



※君の心に、落ちろ雷鳴。僕の心に、輝け陽光。

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