ジャンル:バンドリ! ガールズバンドパーティ! お題:小説の軽犯罪 制限時間:2時間 読者:24 人 文字数:2175字 お気に入り:0人

助けてのサイン




犯罪的な行為は絶対にしてはいけないと、小さい頃からは母親に言われて育った。


当たり前なことだ。

母親は、当たり前なことを当たり前のようにあたしに教え、躾てきた。



そして、それが成長してあたしが出来たのだとしたら、とても滑稽だ。



「…」


シュガレットケースとライターを懐から取り出して、一本のタバコを口にくわえる。

ツン、とする香りが鼻を通って、少しの不快感。


それを押し殺しながらライターをシュボっと付ければ、たちまちあたしの目の前に灰色の煙がのぼる。


少しだけ息を吸うと、ジジっと音を立て燃え上がる葉。


口内に充満している煙を肺にまでは入らないようにして、ふっと吐き出すと、ふわふわと空へと上がっていった。



「…はぁ、」


やめようやめようと、何度心の中で決心したのだろう。

その数だけあたしは、自分の欲に負けたのだ。


流石に自分自身に呆れて、ヤケを起こしそうになる。


そもそもこの行為自体が、自暴自棄から来ているものなのだろうと思うけれど。



「…17時に、こころの家、」


腕時計をチラリと確認すれば、まだまだ大丈夫な時間。



あの豪邸に比べ、いや、比べられないくらいに格段に狭い部屋の中で一人吸うタバコは、ジメジメとしていて気持ち悪い。


汗水流し、かけもちのバイトをしながらも精一杯貯めたお金なのに、結局こういうことに使ってしまうのだ。


あたしは本当に大馬鹿ものだ。



「…まだ、帰ってこないよね、」


母親がパートに出かけている、妹が遊びに出かけている時間、こうやって犯罪に手を出すようになったのは中学二年生の頃からだ。


中学二年生の頃は私もバイトをし始めて少し経って、家計もある程度良くなっていたというのに、なぜこんなものに手を出したのか。



相当どうでもいいきっかけだったのだろう。


一文字も覚えていない。



「ふぅー…」


一度、タバコを吸っている途中の自分の顔を見たことがある。


とてもとても酷い顔をしていた。



それからは、元々嫌いだった鏡も、かなり毛嫌いするようになった。


髪の毛の寝癖チェックの時も鏡なんて見ない。


朝、妹に大丈夫か一言だけ聞いて確認するのを、ここ数年ずっと続けている。


お手洗いの時の鏡も、一瞬たりとも視界に入れない。



醜い自分の顔なんて、見たくはない。




未成年でタバコを吸うなんて、ダメなことくらいあたしが一番よく知っている。


はじめに言ったとおり、母親から何度も言われてきたからだ。



母は、とても素敵な人だ。

早いうちから交通事故で亡くなってしまった父親の代わりに人一倍働いて、あたしと妹を今日まで育ててくれている。


顔を合わせる時間は、他の家庭と比べて格段に少ないけれど、与えてくれる愛情はきっと周りとは引けを取らない、それ以上にも感じる。



綺麗な長い黒髪を後ろ一つにまとめて家を出ていく背中を小さい頃から見てきたあたしは、少なくとも妹の面倒はちゃんと見ようと、お姉ちゃんをしてきたつもり。



「懐かしいなぁ…」


何かあるとすぐに、あたしに逐一報告してきた可愛い妹もスクスクと大きくなって、今ではお姉ちゃんよりも友達優先になっている。


それが一般的な成長だとは思うけれど、やっぱり少しの寂しさがあるのは、ちゃんと妹を愛せていると思ってもいいのだろうか。



こんな、酷いことしか出来ていない、心のないあたしでも。



「…っ、」


いけないことだとわかっていながら、それでもなお手を出してしまうのはなぜなのだろう。


不良な行為に甘美的なものを夢見ているわけでもないのに、どうして止められないのだろう。


低能で頭のない、馬鹿げたことだとわかっているのに、どうしてあたしはここから変われないのだろう。



「はぐみ、薫さん、花音先輩、…こころ、」


バンドは、そんな最低な中やっと見つけた、あたしの『居場所』なんだ。


あたし自身じゃなくて、ミッシェルとして、認識されていてもいい。


あのメンバーは確かに、あたしのことを少なからずは必要としてくれている。



こんなあたしでも、大切な仲間だと、言ってくれた。


あたししかダメなのだと、代わりなんていないのだと、そう、捻くれたあたしに、真っ直ぐに言ってくれたのだ。



「…、捨てないで…っ…」


初めてなんだ、家族以外からこんなふうに必要とされたのは。


だからこそ、照れくさいけど、心の底から嬉しくて、ものすごく…怖い。



きっと、今あたしからハロー、ハッピーワールドを取ってしまったら、きっと何も残らない。


ただ、犯罪に手を染めている不良少女としか。



「…う、うぐ、ぐすっ…うぅ…!」


こんな惨めな自分を、もう一人の冷静な自分が見下し嘲笑う。


笑いたきゃ笑え。



今の私には、もうあそこしかない。



あの人達といれば、何か変わる気がしたんだ。




「…早く、あたしのことも笑顔にしてよ、」



少なくとも、この握られているものを捨てられるくらいの人間には、変われるような気がしたんだ。












同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:もちもち ジャンル:バンドリ! ガールズバンドパーティ! お題:商業的な成熟 制限時間:1時間 読者:92 人 文字数:2136字 お気に入り:0人
日菜ちゃんは、Pastel*Palettesに入ってからのこの短期間で、ものすごく成長した。「おはよーございまーす!」はじめは無遠慮に事務所や楽屋に入ってきてい 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もちもち ジャンル:バンドリ! ガールズバンドパーティ! お題:来年の兄弟 制限時間:1時間 読者:115 人 文字数:2322字 お気に入り:0人
誰もいない、午後8時の、電灯がひとつしか設置されていない真っ暗な公園。今の季節は夏真っ只中だが、夜になると少しひんやりとした風が髪をさらい、なかなか気持ちがいい 〈続きを読む〉

餅 やばい方の即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:餅 やばい方 ジャンル:バンドリ! ガールズバンドパーティ! お題:小説の軽犯罪 制限時間:2時間 読者:24 人 文字数:2175字 お気に入り:0人
犯罪的な行為は絶対にしてはいけないと、小さい頃からは母親に言われて育った。当たり前なことだ。母親は、当たり前なことを当たり前のようにあたしに教え、躾てきた。そし 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:餅 やばい方 ジャンル:バンドリ! ガールズバンドパーティ! お題:潔白な汁 制限時間:2時間 読者:29 人 文字数:2222字 お気に入り:0人
唾液がこんなにも甘く感じるのは、きっとこの子のだからだ。「…っ…さよ、さ…」トロンとしたような瞳に、上気した頬、薄く開いた唇。真面目な彼女で、かと言って性格がか 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:餅 やばい方 ジャンル:バンドリ! ガールズバンドパーティ! お題:黒いババァ 制限時間:2時間 読者:27 人 文字数:2186字 お気に入り:0人
目の前を肌の黒い高齢のおばあさんが通って、思わず少しだけチラ見をしてしまう。外国の人なのだろう、顔立ちも日本離れしていて、こう言ってはあれだけれど、周りから少し 〈続きを読む〉