ジャンル:カルジュナ お題:ロシア式のドロドロ 制限時間:15分 読者:75 人 文字数:1441字 お気に入り:0人

【カルジュナ】小説家x小さい婚約者2

以前、アルジュナはカルナに一つ、聞いたことがある。

『好きってひとと好きってひとがいっしょにいるのに、どうしていけないんでしょう』

それは読み聞かせに持ってきた古い絵本だった。にんぎょひめ、と銘打たれたその中身をアルジュナは悲しそうに聞いていた。
いくつもいくつもを、お泊り用の鞄に入れてきた。アルジュナはカルナの家に泊まる時に、必ず絵本を持ってきた。絵本を読まれている間は、アルジュナは多忙な家族から置き去りにされている感覚を忘れることができたのだ。

『きつねさんも、たぬきさんもダメなのですか』

アルジュナが持ってきた『新訳:遠野物語』というところに些かのひっかかりを覚えたものの、カルナはアルジュナの形の整った頭を無言で撫でてやる。カルナはアルジュナの多感な感覚を衰えさせたくは無かった。
空を美しいと思うのも、花を愛でようと思うのも、それらを教えられたからではない。愛しいと思う心が育っていなければ、それらは視界認識の情報のみで流れていく。
言語情報で流れていくだけだったそれに、意味を持たせ、疑問にまで育てたのはアルジュナだ。カルナはそれを潰したくは無かった。清廉な水を与え、肥厚なほどの栄養の層を重ねて、アルジュナの心を守りたかった。
だからカルナはこう答えた。

『――お前が思えば、思うだけ』

カルナの言葉は、正しく実行された。






「――ですからぁ、このシリーズの続きですってばぁ!」
「そっちは先月も短編もらってたでしょーがっ! 今度はこっち!」

狐面出版社の編集者、玉藻と、新緑出版社の、同じく編集者であるロビン。その二人がカルナの前でいよいよ火花どころか流血沙汰を起こしそうに睨みあっている。

「どちらも書くが」
「いやいやムリでしょ! アンタ自分のスケジュール分かって言ってます!?」
「そうですよ! カルナっちさん、『謝罪探偵すまないさん』の一冊目も十五回目の重版かかってんですから!」
「ふむ」

現在、カルナは三つの出版社と契約をしている。それもこれも、来るもの拒まず仕事を受けていたからなのだが。
カルナはアルジュナの『次に勝ち取った話が、アルジュナが十六歳になるまで続いていたら結婚する』という言葉を信じて、今も小説を書き続けている。
初のシリーズものとなった謝罪探偵シリーズは、今や一年一回のペースで刊行され、時に番外編として文学雑誌に四千字程度のものを載せている。これでも十分、シリーズが続いていると言えるだろう。
それに加えて、玉藻とは『週末伊勢丹審問』、ロビンとは『あした花咲く薔薇園で』というシリーズを出している。

「……カルナ、あまり、困らせてはいけませんよ」

中学に上がったアルジュナが、はぁ、と溜め息をつきながら客間を横切り、自室へ戻る。
エスカレーター式である、名門パーンダヴァ校に通うアルジュナは、カルナの家の方が近いため、中学に上がったときからカルナと同居をしている。

「おかえり、アルジュナ」
「……ただいま帰りました」

以前のようにひっついてくるでもない。カルナが話しかけなければ事務的な会話しかしない。それでも挨拶だけはしっかり返してくれる。


「やはりもう一本書こう。内容は狸と狐の婚姻ものにしよう」
「過労で死にたいんですかぁ!?」
「好き同士ならば、障害はなにもないということを知らしめなければ」
「はぁ??」

カルナはまだ、アルジュナとの約束を覚えている。
全部、覚えている。

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