ジャンル:ロビジュナ お題:間違った小説家 制限時間:15分 読者:191 人 文字数:1551字 お気に入り:0人

【ロビジュナ】服飾パロ

その靴を持つ権利は、自分には無いのだと思い知った。

ロビンは一つ、また一つとビーズを手に取る。スパンコールも良いが、三ミリメートル程度のビーズも細工しやすくて好きだ。それを言うと、エリザベートやビリーには苦い顔をされるのだが。
ロビンには幾何かの「前世の記憶」があった。これを前世と呼ぶべきかは分からないが、とかく、ロビンは自分が今ここに生まれるまで以前の記憶を持っていた。そしてその記憶の中で、ロビンは不思議な場所で戦っていた。古きアメリカにも行ったような気がするし、イギリスにもローマにも行ったような気がする。壮大なスケールの夢のようだった。
けれど、それが夢ではなかったのだと思い知らされる出来事にも会った。

「こちらにいらっしゃったのですか」

ロビンが顔を上げると、逆光の中に青年が立っていた。
今世においてもとかく顔の良い、ひとりの若者。
「前世」では、少し、因果のあるようなつながりを感じていたが、それはそれ。ロビンは自分の感情と記憶を切り離す術を、年齢が二桁になる前に学んでしまっていた。だからこそ、平静を装って青年に返答ができる。

「なんか分かったんです?」
「いえ、そういうわけではなく」

青年――アルジュナは、言葉を少しばかり濁して沈黙につなげる。ロビンの瞳をじっと見つめてくる双眸は、逆光の中でもきらりとした光を放っている。黒曜石か黒真珠か。表現に差はあれど、美しさの賛美に他ならない。ロビンは咥えていた電子タバコの端を噛み、それから右手で自分の隣を示した。
アルジュナは何度かロビンと、その隣を交互に見やり、困ったように眉を寄せた。ロビンはそれがやけに癇に障り、何にも気付かないふりをして、わざとらしく一枚の布を隣にひいた。

「どうぞ。衣装が汚れるの、気付かなくてすいませんね」
「いえ、そういうわけでは」

アルジュナが着ているのは、次のショーで着せられるアオザイを基調としたロングドレスだった。仮縫いの状態であるため、本番ではもう少しドレープも入り、裾にもレースが入る。今のアルジュナが着ているのは、夜着を連想させる、未だ薄布でしかないドレスだ。

「……」

沈黙に負けたのだろうか、アルジュナがロビンの敷いた布の上に腰を下ろす。二人で並ぶと、余計に会話は無く、ただ時間だけが二人の間に横たわった。
その間も、ロビンは小さく手を動かし続ける。アルジュナが横から、下品ではない程度に手元を覗き込んできても、ロビンは敢えて気にしないふりをした。
気付かないふりも、気にしないふりも、ロビンは「ふり」が得意だった。自我を消し、自分という概念を薄くのばしていくと、自然の一部へ溶けていくかのような錯覚に陥る。ロビンは自己と世界の境界線が揺らぐ瞬間が好きだった。
アルジュナのドレスは、カルナが作っているものだ。カルナはコンペで一位を取り、記憶がないというのにアルジュナに執着した。アルジュナがどれだけ苦しんでいるかを知らないままに、カルナはアルジュナを賛美する。美しい、と言葉の少ないあの男が、語彙を駆使してアルジュナを讃える。それがアルジュナを殺していることに、カルナは気付かないのだ。

「……これ、どーぞ」

ロビンはぷちりと蝋糸を切り、アルジュナへと、今まさに自分の手元にあったものを差し出した。
それはビーズとスパンコールで作った、手のひらにすっぽりと収まる程度の薔薇のコサージュだった。

「……良いのですか?」
「余りもので作りましたんで」

ロビンの言い分は、アルジュナにどう捉えられたのかは分からない。

「ありがとう、ございます」

しかし、アルジュナは確かに礼を言い、コサージュを受け取った。
青い薔薇の花言葉は、不可能、絶望――それから、希望。

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