ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:せつない小説の書き方 制限時間:4時間 読者:34 人 文字数:3233字 お気に入り:0人
[削除]

紅鮭団のある夜【最赤】

 ふう、と息を吐いて本を閉じた。
 漸く現実に戻って来れた僕は、背筋をぐっと伸ばして、凝り固まった体をほぐす。今が何時かは分からないけれど、ずいぶん長い間ここに居たことは間違いない。ぽき、と音が鳴った背中の骨がそれを教えてくれる。

 本がうず高く積まれた雑然とした図書室だけれど、僕はここが嫌いでは無かった。
 この図書室にはたくさんの推理小説が積まれていた。この学園の外ではお目にかかったことのない絶版になった推理小説の数々。読書はもともと嫌いではなかったけれど、それほど強く好んでいたわけでも無い。けれど僕は、この不思議な学園生活が始まってからこちら、高く積まれた推理小説の山を崩すかのごとく、読みふけっていたのだった。
 だって、この学園生活は暇なんだ。紅鮭団、だかなんだかと呼ばれたこの謎の企画は、ほぼ僕らの裁量に任された生活を送ることになっている。起床や消灯の時間は決まっているけれど、言ってしまえばそれだけだ。同じくこの企画に参加させられている超高校級のみんなと過ごすことに、制限はほぼなかった。一人でいても良いし、誰かと一緒に居ても良い。もっと親しくなりたいというのなら、モノクマの策に乗る形ではあるけども、チケットを片手に相手を訪ねれば良い。

 僕は、元来の内気な性質が災いして、初めはこの交流企画に乗り気では無かった。誘拐されて無理やり参加させられていること、モノクマたち企画者の身元が不明なことから、むしろこの学園の謎を解く方に意識が割かれていたのも理由だ。
 けれど調査を始めてから一日もしない内に、モノクマから調査禁止令が出されてしまい、僕はしぶしぶながら調査を断念するしかなかった。
 モノクマから交流を推奨されたところで、もともと乗り気でないものに熱心になれるはずがない。僕は自由時間と定められた時間に、一人で過ごすようになった。たった一人、赤松さんに誘われた時を除いて。

 今日は、そんな日だった。お昼を少し過ぎたくらいの時間に、僕の部屋を訪ねて赤松さんは言った。

「いつも、私に付き合って連弾してもらってるし…………今日は、私が最原くんに付き合うよ!」

 そして、僕がよく一人の時間を過ごす図書室に、二人で向かったのだった。



 そして、僕は恥ずかしくも赤松の存在を忘れ推理小説を読みふけり、読書に飽きた赤松さんは、僕の目の前の席に座ったまま居眠りをしてしまった、というわけだ。
 僕は申し訳なく思いながら、気持ちよさそうな顔をして眠っている赤松さんの肩をゆする。

「赤松さん」
「うぅ……ん。………………最原くん?」
「うん……。おはよう、赤松さん」

 ぼんやりしていた赤松さんの目が瞬く間にはっきりとして、机に臥せっていた上体をがばりと起き上がらせる。

「う、うわー! ごめん、最原くん!」
「う、ううん。こっちこそ、ごめん。その…………読みふけってたみたいで」

 普通の文庫本サイズだけれど、僕はきっちり一冊分、すべて読み終わっていた。読むのが早い方というわけでも無い僕が全て読み終わるまでの間、赤松さんを放っておいたのは僕の方だ。

「最原君は悪くないよ! 私、結局読み始めて三ページ目くらいで記憶なくなっちゃってるし…………」
「は、早いね…………。寝不足だったりしたの?」
「うん。ピアノバカで恥ずかしい話なんだけどさ…………実は昨日夜遅くまでピアノ弾いてて…………。なんていうのかな、ちょっとセンチメンタルな気分になって、どうしても弾きたくなっちゃったんだよね。実家で良く弾いてた、切ない恋の曲なんだけど」
「そうだったんだ…………」

 普段は気丈な赤松さんだけれど、誘拐されてきたんだ。不安にならないわけが無い。それに、もうこの企画も七日目だ。ホームシック、というのも多少はあるのかもしれない。
 帰ろうか、と彼女に声をかけて、図書室を出る。階段を上がれば、すでに窓の外はすっかり暗くなっていて、思っていたよりも遅い時間だと分かる。この時間だと、ひょっとしたら食堂に向かっても誰もいないかもしれない。それでもきっと、東条さんの事だから食事だけは用意してくれているだろう。僕らはまっすぐ食堂へ向かった。

「最原君は無い? こう…………切ない気持ちになるとき、とか」

 どきり、とする。切ない気持ち、と聞いて、僕のほんの少しのやましい気持ちが顔を覗かせたからだ。
 僕は後ろめたい気持ちを、丹念に覆い隠して、そうだね、となんでもない風を装い返答を探す。

「そういう小説を読んだ後とかは…………そういう気分になるかな。さっき読んでた小説も、そんな感じだったよ」
「あれ? でも、さっき読んでたのって推理小説だったよね? 切ないお話とかもあるんだね」


 推理小説だったけれど、先ほどのものは人間ドラマにも力の入った小説だった。
 けれど、話は存外シンプルだ。男が、死んだ恋人の復讐のために殺人を企てる。途中までは順調だったそれも、最終的には別の男に計画を乗っ取られていしまう。実は、計画を乗っ取った男は、死んだ女に片想いをしていて、女への想いを殺人という形で成し遂げた。という話だった。


「それって、切ない話なの?」
「うん…………僕は、そう感じたな。とくに、殺人を成し遂げた男の方が。なんて言ったらいいのか分からないけど…………」



 忘れることができなかった男が悲しかった。叶わない恋は透明で――――ただひたすらに、せつなかった。



「ただ僕が、そういう話に弱いってだけなんだけどね」
「最原君は、小説に入り込むタイプなんだね」
「うん。そうかもしれない」

 でも意外だな、と赤松さんは言う。

「意外?」
「うん。最原くんって、キャラクターの恋愛とかに、感情移入ってしない方だと思ってたから」
「そう……かな」

 そうだったかもしれない。少なくとも、この恋愛バラエティに参加する前までは。
 僕にとって、恋愛というのはなんだか遠くにあるもので、他人がするものだった。それこそ、小説の登場人物がするような。
 それが――――変わったのは。僕は隣を歩く赤松さんを見る。可愛くて、明るくて、仲の良い女友達。僕には今までそんな存在がいたことなんて無かったから――――だから、いつも困っている。彼女のことを考えるだけで湧いてくる、このせつなさに似た感情を、僕は許して良いのかどうか。
 許してしまえば、きっと今のままではいられない。そんな未来を想像することの方が、よほど胸が苦しくなる。僕は、赤松さんとの今の関係も、苦しいくらいに好きなのだ。



「うん、確かに、前まではそうだった…………かも」
「え?! それって…………」

 驚いたような様子の赤松さんに、僕の方が驚いた。何がそんなに意外だったんだろうか。今の話の何処に、そんなに驚くようなことがあったんだ?

「…………ううん。なんでもない。…………最原くん、たしかに最初に会ったときよりちょっと変わったもんね! なんていうか、頼もしくなったよ」
「え?! そ、そんなことないと思うけど…………」

 思わぬ褒め言葉に照れた顔を見られたくなくて、帽子のつばを握って俯く。赤松さんのなんてことのない褒め言葉が、どんな称賛よりも嬉しい。そんな僕を、きっと彼女は知らないだろう。


 ばれてはいけない後ろめたさが、甘美で悲しくて…………せつなかった。



 あの小説の作者は、知っていたのだろうか。隠し続けるだけだった恋の苦さを。叶わなかった恋のせつなさを。そして、その先の悲劇の味さえも――――
 きっと知っていたのではないかな、と思う。せつない小説の書き方は、せつなさを知っている人にしか分からない。





 僕は最終日に想いを馳せる。
 僕と赤松さんがどうにかなる未来なんて、ちっとも見えてなんかこなかった。

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
他人事 ※未完
作者: ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:左のあそこ 制限時間:30分 読者:29 人 文字数:1040字 お気に入り:0人
本編のネタバレ、本編の自己解釈を含みます。 「滑稽だとは思わない?」「何が?」「だって、全部嘘だって最初からわかってて、それでもみんな、私のこと、たのしんで観 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:柳井 ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:メジャーな情事 制限時間:15分 読者:71 人 文字数:357字 お気に入り:0人
※突然始まった恋愛バラエティとやらで愛の証を示すよう言われた百王「いやはや、これって有名な情事だよね?モノクマ」自分より一回り大きい手に指を絡ませ、繋いだ手を眼 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:柳井 ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:安全なピアニスト 制限時間:30分 読者:51 人 文字数:770字 お気に入り:0人
ある日連れてこられた鳥籠の学園。才囚学園と呼ばれるその学校の校長、モノクマは16人の生徒たちに向かって言いました。『コロシアイをしなさい』けれど、生徒たちは嫌が 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:柳井 ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:永遠の唇 制限時間:15分 読者:95 人 文字数:519字 お気に入り:0人
※5章ネタバレ重ねた唇は思ったほどガサガサしていなくて、かといって柔らかくもなかった。「んっ!?」男に口づけられて驚いている百田解斗の姿を尻目に、王馬小吉は口の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:柳井 ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:僕の嫌いな冬 制限時間:15分 読者:89 人 文字数:349字 お気に入り:0人
閉じた瞼の冷たさに天海蘭太郎は眉を顰めた。下から三番目の妹を見失ったのはちょうどこの季節だっただろうか。決して小さくはないとはいえ、決して大きくもない彼女の姿を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:柳井 ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:うるさい始まり 制限時間:1時間 読者:94 人 文字数:1031字 お気に入り:0人
※本編→紅鮭時空それは騒々しい目覚ましだった。「起きてよー。朝だよー。ねぇってばぁ」顔の近くでそんな声がし、直後腹部に何かが乗った重さに「ぐえ」と声を上げれば、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
猫箱の猫 ※未完
作者:柳井 ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:彼が愛した作品 制限時間:15分 読者:80 人 文字数:345字 お気に入り:0人
彼が愛したのは誰も見知らぬ空間で作られたシュレディンガーの箱の中の猫だった。犯人も被害者も、ましてや本当の死因すらも不明なそれは首謀者をいたくイラつかせたであろ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:柳井 ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:今度の結婚 制限時間:30分 読者:312 人 文字数:831字 お気に入り:0人
※紅鮭系列。繰り返す赤松「ねぇ、結婚しようか」「え!?」赤松楓が放ったその言葉に最原終一は飲んでいたお茶こそむせなかったものの、椅子から大いに崩れ落ちた。「あ、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:柳井 ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:安全な小雨 制限時間:15分 読者:107 人 文字数:382字 お気に入り:0人
ぱらぱら、と雨が降る。こんな狭い世界で雨が降る事があるのかと、空を仰げば大好きな彼女が泣いていた。「転子、転子っ…」大粒の涙を零して、可愛い顔をぐしゃぐしゃにし 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:せな ジャンル:ニューダンガンロンパV3 お題:阿修羅彼女 制限時間:1時間 読者:250 人 文字数:941字 お気に入り:0人
「あっはは、ねえ見てよ!」 後ろから王馬くんの軽やかな声が届く。「あそこに茂ってる木イソギンチャクみたい」「……ふ、ふっ、げほっ」 素直に目を向けて噴き出す僕の 〈続きを読む〉

匿名さんの即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:暁のヨナ お題:かっこ悪い孤独 制限時間:15分 読者:5 人 文字数:406字 お気に入り:0人
小さい頃の話だ。 小さい頃は、里を縦横無尽に遊び回っていた。里には子供がたくさんいて、当たり前だが色んなやつがいた。だから、たくさんの子供と、色んな関係があっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:暁のヨナ お題:春のあいつ 制限時間:15分 読者:5 人 文字数:360字 お気に入り:0人
ざくざくと、表面が固まった雪を踏み割りながら山道を進む。「お、シンア、見てみろ」 道中で下を指して声を掛ければ、あいつは素直に振り向いた。俺が示したのは溶けか 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:東方Project お題:幼い電車 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:589字 お気に入り:0人
電車とは…?なんだ?私、霧雨魔理沙は思った。この目の前の河童は電車を作ったと自慢げにしているからだ。「そーだよ、電車だよ電車、電気で動いてすっげー早くて多くの人 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:モブサイコ100 お題:同性愛の反逆 制限時間:15分 読者:19 人 文字数:390字 お気に入り:0人
反逆の狼煙をあげろ。「なぁ、エクボ。俺がお前の事好きだって言ったらどうする」 詐欺師らしく読めない表情で放たれた言葉に顔を顰める。暇つぶしの冗談にしては悪質で 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
夫婦漫才 ※未完
作者:匿名さん ジャンル:テニスの王子様 お題:来年の夫 制限時間:1時間 読者:2 人 文字数:1061字 お気に入り:0人
「浮気かっ!死なすど!」「もー。心配せんでも、アタシにはユウくんだ・け・よ」「小春ぅ!」お決まりのセリフが部室に響く。今日は小春が金ちゃんにたこ焼きを食わせたの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:刀剣乱舞 お題:俺と幻想 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:528字 お気に入り:0人
幻が想う、と書いて「幻想」それなら俺がいま抱いている思いは幻想なのかもしれない。と、加州清光は思った。だってそうだろう。「沖田総司に使われたという刀」という逸話 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:文豪とアルケミスト お題:アブノーマルなテロリスト 必須要素:谷崎潤一郎 制限時間:1時間 読者:40 人 文字数:3262字 お気に入り:0人
しなやかな肩に零れる男の銀髪。澄んだ冬の闇をその光でじわりと濁らせているかのような、憂鬱な輝きを帯びていた。 帝国図書館に設えられた常緑の庭園。ロココ調のガー 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:Bloody Chain お題:贖罪のエデン 制限時間:1時間 読者:34 人 文字数:2651字 お気に入り:0人
――たとえば、ありえたかもしれない未来の話。「ここにいたのか」感情の篭らない声が響く。いや、ぽつりと落とされたのかもしれない。ただ黒崎冬至の耳には、それはまるで 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
未完 ※未完
作者:匿名さん ジャンル:ペルソナ5 お題:安全な世界 必須要素:スラム街 制限時間:15分 読者:12 人 文字数:261字 お気に入り:0人
そこに入ったのは、事故みたいなものだった。メメントスを探索中、怪しげな空間を見つけて侵入した。いつものように小部屋にターゲットがいるのかと思ったが、なんとパレス 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:刀剣乱舞 掘安 お題:青い血痕 制限時間:1時間 読者:18 人 文字数:3912字 お気に入り:0人
注意※腐向け※堀→安←清です※審神者がクズ※安定くんが情緒不安定だし壊れてます※題名通り、救いのない話※審神者殺害描写あり※審神者が刀を殺害してます※読み手を選 〈続きを読む〉