ガイアイお誕生日 ※未完
凍てついた風が肌を刺す。クリスマスを目前にしたこの時期、町は色とりどりの電飾で光り輝くが、空気の冷たさまではカバーしきれないようだ。むしろ、LEDの青白い光は視覚的な冷たさを伴う。
「ここは、存外に寒いんだな」
愛しい人が生まれ育った東京の冬は、想像よりずっと寒かった。温かな笑顔の人が住んでいる街は、もっと暖かいのかと勝手な幻想を抱いていたのだ。
「ごめん、ガイヤール君! 待ったよね……寒くない?」
「いいえ、全然。アイチさんこそ、寒くはありませんか?」
「大丈夫だよ」
息を切らせて走ってきたアイチさんは、制服にマフラーという薄着だった。コートは腕に掛けたままで、着ようとしない。おそらくは、自分との待ち合わせのために学校から走ってきたのだろう。それなりに距離もあるのだから、全力疾走すれば体温も上がってしまう。
「僕なら平気なので、そんなに走らなくても良かったのに……」
この人を待つのは苦にならない。終わりの見えない月での生活を考えると、数分だろうと数時間だろうと、確実性をもって会えるいまの状況ならば待つうちに入らないのだ。
「うん、でも。僕が、早く会いたかったんだ。ガイヤール君に」
「アイチさん……僕も、あなたに会いたくてたまらなかったんです」
寒さと走ったことによる熱で赤く染まる頬を緩めて、アイチさんは笑う。そこらじゅうを飾る電飾なんか比べ物にならないほど、アイチさんは美しくキラキラと輝いた。
「ガイヤール君」
「はい、アイチさん」
ふと、真剣な表情で僕を見詰めてきたアイチさんは口を開いた。カトルナイツの頃の名残か、つい傅いてしまいそうになるが堪える。人通りのある往来ですることではないといつだかアイチさんに教えられたのだ。
「お誕生日おめでとう、ガイヤール君。今日中に、どうしても伝えたくって……今日君を誘ったんだ。忙しいのにごめんね」
「へ……ありがとうございます。アイチさん」
自分の誕生日など、あまり気にしたことが無かった。孤児院でも祝われることはあったものの、簡易的なものだったのだ。両親が生きていた頃でさえ、まともに祝いの言葉を贈られた記憶はない。
「プレゼント何が良いかなぁって悩んでいたんだけど、結局何も思いつかなくて。ごめんね、用意できてないんだ。でも、僕に出来ることなら何でもするから、遠慮なく言って?」
「そんな……僕はもう充分なほどたくさんのものをアイチさんに貰っています」
先導アイチという人間から与えられたものは数えきれないほどだ。孤児院の家族たち、その笑顔、ヴァンガード、地球とクレイの未来、そして愛するこの人と共に過ごすいまの時間だ。
「うーん……でも、せっかくのお誕生日なんだから……。あ、そうだ。ねえガイヤール君」
「なんですか?」
「少しだけ屈んで、目を閉じて?」
「……? はい」
言われた通りに、僕は少し屈んで目を閉じる。少しだけアイチさんの身長に近付くと、彼の甘やかな香りが鼻孔を擽った。
「アイチさん?」
アイチさんの思い付きが何か分からないが、心なしかアイチさんの香りが強くなったような気がする。僕の髪を梳かすように耳にかけてくれた小さな手は、もしやアイチさんだろうか。暗い視覚のなか、