ジャンル:刀剣乱舞 お題:トカゲの即興小説 制限時間:30分 読者:42 人 文字数:2016字 お気に入り:0人

巴形薙刀 ※未完

「おもい………………」

ふと、こぼれた。

「重い、」

ああ、ほんとうに。このままつぶれて、この地面をつきぬけて、どこか、じごくのような場所へ行けたらいいのではないか。ふわっとした思考がよぎる。

「あとさむい」

それもそうだ。今はもう一月。皆との新年のあいさつや初詣や政府への報告は済ませて、ひとりこんなところに地面とだきあっている。もうすこしあたためてくれてもいいんだぞ、地面さんよ。
重くて重くてもうしゃべれない。くちもひらかない。いっそ死人のように一晩過ごすのもいいかもしれない。だれにも見つからず、ただひとり、ただただひとり。それならばひとりごとを延々としゃべっていても赦されるような気がした。なんか空気的にも自分的にも。

「おもい……」
「主、なにをしている?」
「あーーーその声は巴形薙刀だ……今会いたくない刀剣男士トップのほうにランクインしている」
「済まない。だが主。そのままでは風邪をひく。本丸に戻ったほうがいい。動けないなら俺が運ぼう」
「いや、戻りたくない」
「なぜだ」
「重いから」
「? なにが重いのだ」
「言葉にすると陳腐だけど、使命と期待、と、」
「と?」
「…………わからないや。とにかく重い。重くて動けないし、運んでもらいたいわけでもあなたと話していたいわけでもないので本丸に戻って」

主命ね。と付け加えておいた。こうすれば巴は言うことを聞いて戻るだろうと思ったが、去っていく足音が聞こえない。近づいてくる足音もいまいち聞こえなかったけどな。こいつ幽霊なんじゃないかと疑い始めたときにすこしだけ揺れた声が月夜に響いた。

「俺は主に嫌われているのか。それとも頼りないか」
「どちらとも違う」
「そうか」

感情をそこまで表に出さない彼のほっとしたような声色に悪いことをしたかなと思った。嫌いじゃないどころか、私の刀はみんな好きだ。巴だって例外じゃない。ただ、場所とタイミングと、私の心が悪いのだ。必要以上の言葉がでてこない。あらゆることがめんどくさい。ああ、コミュニケーションもままならないからどっか行ってくれ。私だってこんな返ししかできないのだから、こんな風に会話していたくないんだよ。去れ去れ!

「ねえ」
「なんだ」
「戻ってほしいんだけど」
「主はまだここにいるのだろう?」
「でももどってほしんだけど」
「それは聞くことが出来ない。なにがあるか分からないからな」
「何があるっていうんだよ」






巴形薙刀

「なぜ泣いている?」

「なんでだろうな。もうこうなると止まらないんだ。」

「なぜ俺を呼ばない?」

「まさかこんな夜更けまで近くに居るとは思わないだろ?」

「俺は主の側に仕えている。いつのときも。」

そこでようやく主はこちらをちゃんと見た。

「ああ。お前、綺麗だな。月明かりできらきらしてる。」

「きらきらしてるのは主だ。」

そう言って巴は私の涙を袖で拭った。

「とりあえず寝ろ。人間は睡眠をとらないといけないのだろう?」

それでも主はいまだにこちらを見ている。

しばらくして口を開くには。

「巴だけだ。もう巴なしではだめだ。私以外では駄目だと言う巴がいなければ私は審神者をやっていられなくなるかもしれない。ただ一つの『主』を『わたし』と認めてくれるあなたがいなければ、私は、」

それがとても悲しいのだと彼女は再び涙を零した。

「それの何がいけないのだ?」

「ほかの刀剣男士に申し訳が立たない。特に極になった刃(ひと)たちは『わたし』を『主』と認めてくれたのだから。さっきの発言は主としてその言葉を受け入れられていないことになる。」

「俺は嬉しい。主が俺を認めてくれなければ俺はお役目御免、無用の長物だ。依る記録も忘れるほどの記憶も頼る兄弟も咲かせる逸話もなく、一人だ。集合体の俺は一人だ。」

首を振る審神者。涙がきらきら、ぽろぽろと溢れてゆく。このように美しいものは初めて見た。

「依存と認めることは違う。依存しなくても私は主としてあなたを認めている。あなたは立派な私の刀剣男士だ。無用なものなんて私が言わせない。でも私が悲しいのは、そう、」

やはり巴形薙刀は不思議そうな顔をしている。よくわからないという顔だ。

「そう、私は…………」

"なんのために審神者になったんだっけ"

お役目のため?歴史修正主義者から歴史を守るため?ハローワークに仕事があったから?神社が好きで神様が好きだから?今の社会を守るために?狐に誘われたから?なんにせよ少なくとも……

「少なくとも、あなたたちの『唯一』になりたいなんて傲慢な想いを願うために審神者になった訳じゃない。」

「主は俺たちの唯一だ。」

「その主じゃない。」

「理解できない。目の前のお前は俺たちの主じゃないのか?」

「主だよ。」

「禅問答か?」

「違う。」

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