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ブルースは終末の日に何を思う

 ――夕日が遠ざかっていくよ。
 ――井戸に落ちるオレンジみたいだね。
 いつかそんな小説があった。あれを読んだのは古ぼけた洋館で失敬したときだった。
 洋館の窓は外れていた。寒い風を浴びないようにと、ひとつの布団を分け合うように被った。マゼンダの肩はとても冷たくて、角ばってて、きっとぼくのもそうだった。ベッドには穴があいていて、唯一あった布団はごわごわしていた。立派な洋館だからきっと布団も立派だろうと期待した自分を、少し後悔しているときだった。
 ――ねえ、あれ本かな。
 ぼくは彼女の肩をつついて、部屋の隅っこに指をさした。
 寝室の隅には埃が溜まっていて、その中にうずもれるように、分厚い角が覗いていた。マゼンダは本が好きだ。世界がこうなる前は本の虫だった。彼女は寒い布団のなか目を輝かせた。ぼくに布団を押し付けて、ひとり踊るように埃に手を伸ばすのだった。
 ――これ、本だよ。
 中身を確かめた彼女は、そう言って笑ったのだった。




 ヘリオトロープが咲くあの小説と同じように、ぼくは文字を読むことができない。読むこと自体はできるけど、文字の意味が、頭に入らずに抜け落ちてしまうんだ。穴のあいたバケツみたいに、ぼくのなかを言葉が入って、そのまま落ちていく、それがいつからだったかは思い出せない、思い出せないけど、マゼンダがぼくに本を読み聞かせてくれたのは、あのほんの数週間だけのことだったように思うから、昔はきっと文字が読めたのだと思う。
 マゼンダは本を読む間は昔のようにきらびやかに笑う。笑うと小さなえくぼが決まってできて、それをいつかつっついてみたいとよく思っていた。
 食糧を調達するために、家から家へと渡り歩く。知らない家から知らない家へ、ぼくらが知っていた家にはもう何も残っていない。草木が枯れてしまったから、何も育てられなくて、そんな場所には住み着くこともできない。生きるためには食べ物が必要で、でも食べ物がないから、選択肢は死ぬか探すかというふたつで、ぼくらは渡り歩くことにしたのだった。





 夕日が遠ざかっていく。昔は夕日は沈んでいたのに。
 何かがおかしくなってしまった。
 ぼくにとって小説は文字ではなくてマゼンダが話す言葉だった。
 この世界できみは何を思う? マゼンダの墓の前でぼくはぼくたちのことを話す。
 向こうの世界できみに笑っていてもらうために。
 

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