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おつかれ

朧げで曖昧。夢か現か。輪郭がぼやけ不鮮明な色しか認識できない世界はとても味気ない。
「(さて…どうしたもんかな……)」
見上げるほどに高い柱には見覚えがある。杳として陽が沈み夜が来る青が天井から降り注ぎ地下の世界を照らす。壁に穿かれた大口が絶えず下水を吐き続け、それを下で待ち構えていた大口が飲み込む音が静寂の間に響き渡る。
錆付き止まった時計の針。発条が切れてしまったオルゴール。永久の溶けない氷。命を刻む音に紛れ時折聞こえる微かな呼び声だけが唯一その者が死んでいないのだと教えてくれる。
襟首の襞に顔が埋まれば甘ったるい腐敗の香りが鼻腔を抜けていく。かれこれどのくらい経ったのか。
巻き付いて離れない二本の白い蔦。鼓膜を通り越し直接脳内に吹き込む言葉は譫言に近い。もしかしたら言い続けることで何かを緩和しているやもしれない。
読書に耽り何かの気配を察して振り返った瞬間、伸びてきた白い手が首を絞めてきた。息ができずもがき暴れた視界の先、通常なら飄々として笑う白い悪魔の顔は――それまで見たことの無いものだった。
表情を一切そぎ落とした顔。真っ赤な紅を差した唇が何かを紡いでいる。目で口の形を追い視界と聴覚で理解しようと試みたが、ついぞ耳に声は届かなかった。もしや声に出さず唇を動かしただけで声自体出していなかったのかもしれない。
緩慢な動きに意識と視線が吸い寄せられ、擦れゆく目で懸命に追った。





――ビ、ル



読み取ったのと同時に意識が途切れ、再び目を覚ました時には地下に身を潜める者の領域の中だった。
遅れてたってきた喉を圧迫され狭まった気管から咳が出る。喉元を擦り何度か咳込んでやっと収まり周囲を見渡すべく踵を返す。
白い闇に体と意識を攫われた。その正体が何なのかは意識が途切れる前に分かっている。強く巻き付く腕の強さに抗議したところで解ける気配はない。ならばと、気がふれたんじゃないのかと思われるかもしれないがぎこちなく抱き締め返せば白い蔦がさらにやわくつよく巻き付いた。

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