ジャンル:カルジュナ お題:ラストは神話 制限時間:30分 読者:167 人 文字数:1843字 お気に入り:0人

【カルジュナ】洋裁専攻xモデル志望10

「行きたまえ。どのみちコンペティションが終わらなければ君たちの身の振り方も決まるまい。マリー、君に課した先日のショーの体感レポートがまだ未提出だ。提出日は四日後だが余裕を持つように」
「失礼しました、教授。翌朝には必ず」
「ナイチンゲール、衛生観念から鑑みる防護服の最新論文が届いている、図書室で受け取っておきなさい」
「ありがとうございます」
「アルジュナ、君には特に言うことはないが、先日参加してきたショーの写真が刷り上がっている。広報課がじきに訪ねてくるだろう」
「はい」

アルジュナは孔明の言葉に頷き、自分が着た服のことを思い出す。最新のショーであれば、春夏コレクションだっただろう。翌年はグレーを混ぜたパステルカラーが組み込まれているところが多いが、それとは別に目の覚めるようなブルーが流行色に指定された。花の都の一等地で指定される「流行色」がこうして海を越えて異国で共有されるというのは、些か不思議な心持ちになる。
特にアルジュナが着た服は縦プリーツが幾重にも編み込まれたターコイズブルーのシャツと、タイトなシルエットが美しいオフホワイトのパンツだった。色彩としてはありふれたパターンだが、アルジュナがそれを着て歩くということは、服の意味を形作ることだ。
誰かが込めた意志を汲み取って、自分の中で増幅させる。攪拌させ、反響させ、最も効果的なアピールをする。それが、アルジュナの、モデルとして歩く上で自分に課していることだ。

それでは、と三人が退室し、残るは下校のみということで解散をする。
アルジュナは二人を呼び止めるかどうか、僅かながら逡巡した。アルジュナが専門学校で出会った人物の話をするべきか否か。マリーやナイチンゲールならばまた違う視点から話を受け止めるだろう、ということはアルジュナにも理解できていた。だが、とアルジュナは自分の考えに没入しながら帰路を急ぐ。
見上げた星空の向こうがあるとは、どうしたって思えなかった。

さて、マリーやナイチンゲールとはそもそもの専攻科目が違う。マリーもナイチンゲールも制作側であるため、実習時間が多くなる。勿論、アルジュナのクラスでもウォーキング練習は常に行われているが、実習時間をどう組み込むかというのは座学のスケジュールに左右されている。

次の日も、アルジュナは一人で校内を歩いていた。
更に言うなれば、アルジュナは昼休みを利用していまから孔明の授業に使う資料を図書館へ借りに行こうと思っていたところだった。アルジュナの背後から、唐突に投げられた声。

「そなたがアルジュナか!」

えぇ、とできる限り穏やかな声を心掛けながらアルジュナは振り向いた。声には聞き覚えがあった。しかしここは短大。そこに現れた赤き皇帝は、記憶の中よりも随分と落ち着いた服を着ている。といっても、スカートがスケルトンでなくなっているくらいなのだが。
ネロは腕組みをしながら、ここが他校である、ということもおくびに出さずアルジュナの前で仁王立ちをしていた。その堂々たる姿勢に、思わず称賛の言葉を送りたくなる。


「何か私に御用が?」

「うむ。カルナが探し求めたトルソーの君が見つかったとの情報を得てな。なんとも噂は尾びれに背びれ。このまなこで確かめねば」

カルナ、カルナ。皆がこぞってアルジュナの背に密やかな声をぶつけているのを知っていた。が、ここまで面と向かって言われてしまうと否定すら許されず、アルジュナは曖昧に微笑んだ。

「余すらモデルとして不十分だと袖にしたカルナがな、男に着せるとあって黙ってはおれん。何しろ、あやつがコンペを通れば余が手を貸すと約束してしまったのだ」

「それは、御愁傷様です……?」

かくりと首をかしげるアルジュナに、むっとネロの唇が尖った。

「そもそもお主、余のことをちっとも分かっておらんだろう。これだから俗世の者はいかん! マリッジブルーというやつでもな、これは由々しき事態であるぞ!」
「……結婚しません」
「ふむ。では、言葉のあやとして受け取っておけ」

畏まりました、とアルジュナは目の前の皇帝に対して、どう言葉を選べば良いのか分からず曖昧な返答をした。しかしアルジュナの対応はどうやらネロの及第点をつけられたようだ。

「我が名はネロ! 学生の中でも抜きんでた存在感と、モデルまでを自分でこなしてしまうこの才能! 真紅の絨毯を歩く余を人はこう呼ぶ、夢薔薇の皇帝、ネロ・クラウディウスと!」

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