ジャンル:刀剣乱舞 お題:オチは暴力 制限時間:4時間 読者:40 人 文字数:3552字 お気に入り:0人

【くりんば】月は綺麗じゃない【学パロ】

作業用BGMだ、と言って部屋に流れたのは某実況動画の生放送だった。なんでそれなんだとかそんなので集中できるはずがないとか、そも自分はそんなBGMなくたって作業は捗るんだ、とかなんとか言ってみたところ、手元のノートを見てみろよと返って来た。ぐうの音も出ない。



たまに。たまに、なんでこいつといるんだろうと思う。
暖房の効いた部屋、広光の家は決して広くはない。物は少なくベッドに本棚にローテーブルだけだったけど、部屋を埋め尽くすような寸法のそれだったので結局部屋は狭かった。その代わり駅からここは近い。便利なことだと思う。大学まで電車通をしている身からすればなおさら。だけど国広と広光はいつも駅で待ち合わせをした。何度も通った広光の家の場所なんてそれこそ地図に描けそうなほど把握していたけど、なんだか待ち合わせをしなきゃいけないような、それはほぼほぼ義務のようなもので、それは、数少ない二人だけのルールだった。
だから今日も待ち合わせをした。小さい駅は人も多くはなく、改札口を抜けたすぐ傍に程々に目立つ銅像がある。鶏だ。
「なんで鶏?」
「俺が知るわけないだろ」
そんな会話もした。したっけ。したんだと思う。あれは会話と呼べるものだった、いつの頃の会話かは覚えてないけど。
そうして二人は歩く。いつものことだ。会話と言う会話を紡ぐこともあったけど無言を交わすことの方が多くて、だから今日も無言で、でもそれはそれで構わなかった。無言で過ごせる関係というのは素晴らしいものなんだと、国広は信じている。
駅から家に向かうまでの道には小さなパン屋がある。お腹が空いている時はここでパンを買って行く。老夫婦が経営するそのお店のパンは中々に上手くて中々に安い。歩道に面したショーウィンドウには出来立てだとわかるバゲットが籠の中に立てられていた。一本300円。
「要るか?」
「俺は要らない」
問えば広光は首を横に振ったので、じゃあ俺もいいや、なんとなく食べたかったけど、まあいいや、と歩を進めた。
別にいつだって食べられるのだから。必要なものではないのだから。

パン屋を過ぎたあたりから雪がまばらに降り始めた、天気予報は晴れだと言っていたが、外の雲は分厚くて多分降るだろうなとは思っていた。雪ではなく雨が。でも降ったのは雪だった。なあ、雪だ雪が降ってる、そう呟いてみても目の前の男はたいして気にした様子もなく、ああ、そうだなと呟いただけだった。そういえば東北出身だと言っていた気もする。正直あまり覚えていなかった。ただ、そんな会話、出身はどこで何が好きで何をしてきたのか、そういう会話をして、その会話はもうだいぶ前のことだったと、それは覚えていた。

必要なものとはなんだろう。考える、必要なもの、人生において必要なもの。
二人の間に会話はさして必要ではなかった。それを寂しいことだとも思わない。二人は会って何をするのか、何をしてきたのか、何をすべきなのか、何がしたいのか、必要な、ことは。
詮の無いこと。地面を踏みしめながら足先の冷えを不快に思う。詮の無いこと。
歩に合わせて揺れる手が、広光の手とぶつかり、無言で少し、距離を置く。
たまに、なんでこいつといるんだろうと思う。

広光の家に着くころには一月の風に体は悲鳴をあげていた。まだ夕方ではあったが冬の空はすでに太陽が沈みきっていて、暖房を入れておいたという言葉にこれほど有難みを感じる。
暖房が効いている部屋の中央にローテーブルは置かれていて、国広は慣れた様子で、実際慣れていて、だってこの部屋に来るのなんてそれこそもう何度目か覚えていなくて、そんな慣れた部屋の床に国広は遠慮なく腰を下ろす。
やることは山ほどあった。課題レポートとか発表レジュメとかテスト勉強とかそういう、やらなくてはならないことは、たいてい溜め込んでしまった自分のせいではあった。机の上にノートを広げて参考書をめくる。広光はその様子を見ながら、パソコンを立ち上げる。黒い15.6インチ。もう見慣れてしまった。
そうして流されたのは作業用BGMだった。黒い15.6インチのノートパソコンから流れる知らない男たちの笑い声、が、どうにも落ち着かない。
「なあ、」
「ん」
「せめて変えてくれないか」
「何に」
何に。問われても困る。
「…恋愛ソング?」
呟いてみて自分で笑ってしまった。恋愛ソング。作業用に。何を言っているんだか、らしくもないと肩を揺らせば広光も同じように揺らした。揺らして、そんな曲はフォルダに無いと言われた。知ってたさ。
彼らは恋仲ではない。好きだ愛してるなんて聞いたことも無い。だから二人は付き合ってない。それで良かった。
恋愛ソング、と口をついて出たのは、きっと、雪のせいだ。一月ももう終わるころに降り出した雪は、空の月を隠している。
月は見えない日だった。
BGMは止まらない。止める気が無いようだ。画面の中で知らない男たちが笑う。
たまに、なんでこいつといるんだろう、と、思う。
開いたノートには殴り書いたような数式が並んでいて、なんともおかしなことに書いた覚えが無いのだ。必要なことではあるのに。
片手で支えていた参考書を閉じて立ち上がる。最初からやる気なんてものは無かった。やる気が無くてもやらなくてはならないことは山ほどあって、それは、必要なことなのだけれど、必要なことを必要な時にするのは大事なことだと、国広はわかっているけど。
背後の窓を少し開けてみる。風が頬を叩く。
「おい、寒い」
「ん…、すまない」
すんなりと謝れた。たいして心も籠ってないそれに広光はそれ以上何も言わなかった。言葉に満足したのかもしれない。わからない。許してくれるのならそれはそれで良い、ので、そのまま四つん這いの姿で窓の外を見る。
白い雪は綺麗だと思う。珍しいものではないけれど、何かを綺麗だと思えることは素晴らしいことだと思う、ので、この雪は綺麗なのだ。
月は見えない。月が綺麗かどうかもわからない。
窓の外はベランダになっていて、柵の隙間から人気のない路地が見えた。その路地の通りに、ここに来る道にあったパン屋がぽつんと置かれている。屋根に雪が乗ってはいるが、積もる気配はない。でも積もるだろうなと思った。積もった方が面白いのに、と思った。
踏みしめる雪の感触は、きっと面白いのだ。
「国広、冷えるぞ」
「なあ、あんたもこっち来たらどうだ。雪が降ってる」
「さっきも聞いた」
「言ったっけ」
とぼけてみる。残念ながら覚えていた。ばかばかしい。
「何が見える?」
パソコンを閉じる音。広光も飽きてしまったのだろうか、キーボードを叩く音が止まっていることには薄々気づいていた。
何が見える。
特別なものは何も見えない。だけど、何も見えない、とは言いたくなかった。
「…雪」
「聞いたな」
「パン屋、も見える」
「もう閉まってるだろう」
「…路地がある」
「たまにネコがいる」
「じゃあ今日は、たまにの日じゃあないな」
「それは残念だ」
ふわり、と肩にガウンをかけられる。広光の匂いがして振り返れば、頭を一撫でされた。
なんで、こいつ、と、いるんだろう。
「月、は、見えるか?」
「…見えない、雲が広がってるから、見えない」
「月が見えたらよかったのに」
残念だ、と繰り返す広光を見て、国広は少しだけ、嘘をつけばよかったと後悔した。月が見えると、嘘でも言えばよかった、と後悔した。
例え空に浮かんでなくても、月はそこにある、月は無くならない、見えないものは存在しないと同義だというのはわかるけど、月は確かにあるのだから、そう、言えばよかった。月は見えてる。
月は、綺麗だ、と、嘘でもいいから、言いたかった。

きっと明日も彼らは待ち合わせをする。大学生の冬は暇なのだ。やることはたくさんあって、それは忙しいということだったけど、彼らは暇なので、約束をする。駅で待つよ。
そっと窓を閉める。冷たい風は遮断され、頬を刺すほどの冷たい空気はすぐに暖かさに変わった。
買えなかったバケットを明日は買おう。ほんの少し、食べればよかったと思うから、パン屋に寄ってそうして二人で切って焼いて食べよう。義務のように、ルールのように。約束を、する。
月を見ながら腹を満たして、そうしてやっと、この話は完成するのだ。
そこに恋愛ソングがあればもっといいのに、もっと素晴らしいものになるのに、うそだ、別になくたっていい、そんなものはさほど重要じゃない、必要じゃない、そうだろう。

国広は恋をする。好きだ愛してるも要らない。
なんで、こいつ、と、いたいんだろう。
国広は、恋、をしている。




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