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【カルジュナ】洋裁専攻xモデル志望11

「我が名はネロ! 学生の中でも抜きんでた存在感と、モデルまでを自分でこなしてしまうこの才能! 真紅の絨毯を歩く余を人はこう呼ぶ、夢薔薇の皇帝、ネロ・クラウディウスと!」

ふん、と胸を張って主張する少女の頬は、確かにその名の通り薔薇色に染まり、万物に愛される幼少の全能さと共に一片の神々しさを表現していた。その一点の曇りもない眩さにアルジュナは瞳を細めた。
――あぁ、このひとにも記憶は無いのだ、と。

「モデルとは美しさの極み。余の如く絢爛たる美麗こそが認められるべきもの。お主がそうであると、余にはとうてい思えぬのだ」

なるほど、とアルジュナは思う。つまり、この皇帝はアルジュナを認めていないのだ。カルナに袖にされたから、ということではなく、それが誰であったとしてもネロを崇めないならばひとではない。ネロ・クラウディウスならば、なるほどそういう生き物であろう。

「コレクションモデルのラストはウェディングドレスを纏った女性トップモデル。これを知らぬお主ではあるまい」

そうだ。ファッションというステージにおいて、性差は驚くほどに影響がある。
この業界にあってこそジェンダーの垣根は低いイメージがあるが、実際には古い階級主義や男尊女卑、男性はズボンを履き女性がスカートを履くという固定概念が色濃く残っている。アルジュナも、それら全てを否定する気はない。だが、性差により幅が狭められるような服は、いつか着られなくなる。

「……お話は、それだけでしょうか」
「はぁ?」
「私の価値を決めるのは私ではありません」

アルジュナは背筋を伸ばして言い切った。

「私という刃、私という剣、私という矢。それを万全に使えずして何が頂点と胸を張ることができましょう。人形もトルソーも変わりません。知力体力時の運。全て味方につけて私を着飾る覚悟の無い方と共に歩もうとなどと、なにゆえに思うと?」

今まで散々に値踏みされてきた。それはアルジュナがモデルという道を選ぶずっと前に始まっていた。
この器に生を注ぎ込まれ、人間として生きる中で、いつだってアルジュナは万能であれ秀麗であれと望まれてきた。

「貴女こそ、私を知らぬとは何処の者か」

アルジュナは、わざと大仰な動作で、ネロを挑発する。この挑発にネロが乗るかは分からない。しかし、これはアルジュナにとって、遠い場所にあるカルナへの宣戦布告でもある。

「我が名はアルジュナ。輝く王冠は大衆の凡才のためにあり。誰かの覚悟と幾夜の努力のためにランウェイを歩く者と心得よ」

ネロの目が見開かれる。アルジュナは彼女の瞳から猫を連想した。ころころと表情の変わりやすい、分かりやすい、全ての世界に興味を持っている生まれたての子猫。その子猫に爪を立てることはしたくなかった。
だが、ネロの心をここで刺しておかなければ、ネロは帰ってカルナにアルジュナのことを話すだろう。アルジュナにも、ネロがおそらく腕の良いデザイナーもしくはパタンナーであることは分かる。モデルの側面を持っていたとしても、その指にうっすらとできたペンだこを消すことはできない。
最も良い未来は、ネロはアルジュナを嫌悪することだ。もしくは侮辱に眉を寄せて激昂すること。そして、カルナに「あの者のドレスを作る手伝いなどしてたまるか!」と啖呵を切ること。

「人形遊びもろくにできぬ者の言葉に耳を傾ける気は御座いません」

アルジュナはそのまま、図書館へ行くことを諦めて踵を返した。

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