ジャンル:エースコンバット お題:腐った傑作 必須要素:結婚相談所 制限時間:1時間 読者:39 人 文字数:3070字 お気に入り:0人

カクテルと硝煙と愉快な夜に

「皮肉なもんだな」

 相棒がそれこそ、皮肉な笑い方で呟いた。
 どこから嗅ぎ付けてきたのか、かつての仕事仲間がキナ臭い話をひっきりなしに持ってくる。

「俺はもう半分以上引退してるんだぞ」
「まぁまぁ。ほら、お前だって退屈してるだろ?」
「ったく。リハビリもなしに、このレベルの仕事はできない。他を当たってくれ」

 手渡された書類をひとまとめに、突き返す。
 それで嫌な顔をするわけでもない、突き返された方が笑ってバックパックに仕舞い込んだ。

「せっかく俺がいい《嫁さん》を紹介してやろうってのによ」
「何が《嫁》だ。地獄や墓場の間違いだろうが。今の俺が仕事したって、死ぬだけだ」

 相棒は現在の仕事を、それなりに愛着を持ってやっている。
 かつての仕事に未練がないわけではないらしいが、全盛期に比べて力が落ちているのも十二分にわかっている。
 仕事に戻るなら、店を畳む覚悟をしなくてはと思っているらしい。
 俺としては、両立できる技量はあると思っているが。
 とはいえ、口出しできることじゃない。こうやって隅でビールを啜っているのが精いっぱいだ。

「おい、じゃあ俺に紹介してくれねえか。最近いい仕事にありつけなくてよ」
「いいぜ。サイファーが口説けなきゃ、お前らに聞くところだったからな」
「ちょうどいい。おーいお前ら!旨い飯にありつけるかもしれねえぞ!」
「よっしゃ!」

 今日は、偶然にも傭兵連中の来客が多く、仲介業にも手を出してるやつまで顔を出している。
 それならば、とサイファーは一日だけ貸し切り状態にした。今の状態でカタギの客を受け入れても怯えさせるだけだ。
 現役の傭兵も引退した仲介屋も、元軍人のかつての仕事仲間も入り乱れて酒を飲んでいる。
 その合間に今のようにサイファーに仕事を頼んでみたり、仲介し合ったりしている。
 あっという間にカウンター前は大混雑になってしまった。

「どうだ?これなんてなかなかおすすめだぜ?」
「お!いいね、好みのタイプだ」
「うちは結婚相談所か何かか」
「いい仕事とのマッチングは大事だぜー?」

 勝手に盛り上がり出した連中を放っておいて、サイファーが目の前にやってくる。

「まったく。呆れた連中だ。ここまで来て仕事の話なんて」
「まぁ、仕事が恋人みたいな連中だからな」
「うるせーぞ!そこ!惚気は家でやれ!」
「ここは俺の店だ!」

 惚気、と言われたことは無視して騒ぐ連中に叫び返して見せるが、連中もどこ吹く風だ。
 それが嫌いなわけじゃない。飄々とした気質は慣れてしまえばむしろ面白い。
 サイファーは一枚の書類を摘まみ上げ、眉根を寄せてため息を吐いた。

「どうした?」
「ストーンヘンジ、シャンデリア、エクスキャリバー、その他諸々。どれも傑作と言っていい。科学技術の粋だ」
「・・・?」

 相棒が意図するところが分からず、視線で問いかける。
 それには答えず、サイファーはカクテルを作り始めた。
 少し赤みがかったピンク色の、随分と可愛らしいカクテルだ。

「それは?」
「シャーリーテンプル。まだまだ先は長そうだからな、この状況を見る限り」

 そう言って自分で作ったカクテルを傾けながら、騒ぎの中心を見る。
 報酬の交渉も佳境で、真剣な顔を突き合わせている。

「どこに行っても火種はある。だから仕事があるわけだ」
「……その火種、一つに集約できるとしたら?」
「……どういう意味だ?」
「考えすぎかもしれない。だからこそ用心すべきなのさ。疑念を払拭する方法はただ一つ。情報を集めること。根こそぎ、な」

 もう一度、書類に目を落とす。シャーリーテンプルのグラスで押さえ、掲載されている写真を一つ指さす。

「シャンデリア。今の状況で稼働可能なのはこいつだけ。ストーンヘンジはISAFが壊したし、エクスキャリバーは、ほら、俺達だ。」
「ああ」
「どれもこれも、最初の設計思想の始まりは同じだ。隕石からの国土の防衛」
「そのための圧倒的な火力。ゆえに兵器転用も容易かった」
「そう。それをどう見るかは個人の自由だが・・・俺は、腐った傑作だと思うね。すべては傑作。しかしてその理想は腐りて」
「お前は詩人にはなれないな。表現が直接的過ぎる」
「事実だろ? 守り刀が、侵略の斧に変わった事例だ。全部」
「それを、お前は腐ったと見るんだな」
「……防衛はされるべきだが、侵略はな。それが仕事なら吝かでもないが……今はそうじゃない」
「お前の公私をきっぱり分けるところ、俺は尊敬するよ」

 そのせいで、すれ違ったこともあった。
 サイファーは仕事は仕事で責任と義務を感じて、最後まで遂行することに拘った。
 自分の最も優先すべき信念に基づいて、むごい戦場でも決して目を背けなかった。
 その理想は気高いと思う。
 そのせいで、心身ともに消耗していたのを知っている俺からしてみれば、自傷行為にしか見えなかった。
 関わるなら最後まで。生きて見届けることに意味がある。
 それが理解できずに、俺は一度離れた。
 昔の話だ。

「今はただのバーテンダー。酒と肴を作るだけさ」
「だいぶ板についてきたな」
「まーな。5年もやればそれなりに」
「なーサイファー。お前、戻る気はあるのか?その腕を腐らせるのはもったいねえぜ」

 いい具合に酒の回ったやつが、ふらふらとこちらに寄ってきた。
 ほろ酔い加減のその男は、どうやらいい仕事にありつけたようで上機嫌だ。

「お前はパイロットとしても、兵士としても優秀だ。ちょいと訓練すれば元通りだろうさ。場所が必要なら、口をきいてやるぜ?」
「そう、だな……」

 言われて、じっと手を見つめる。
 その手は傷痕だらけで、不自由なく動いてるのが不思議なくらいだった。
 しばらくそのまま動かなかったが、顔を上げた時にはにっこりと笑っていた。

「今はいいよ。楽しそうな案件もないし、やりたくなったら、連絡する」
「そうか?お前ならいつだって歓迎するぜ。チームを組みたいときも言ってくれよな」
「厄介事を押し付けないならな」
「ちぇ。ばれてやがる」
「お前は分かりやすいんだよ」

 拗ねて酒瓶をあおる男に追加をくれてやり、サイファーも自分のグラスを傾けた。
 俺はその横顔を、ただじっと見ていた。
 綺麗だと思う。
 こいつの両親は、一世一代の博打に大勝したのだ。
 自分たちの長所だけを組み合わせたような傑作をこの世に生み出し、育て上げた。
 それを腐らせるのは、誰だって惜しいと思う。
 だが、それだけはあり得ない。
 何においても清廉潔白なこいつが、腐敗するわけがない。
 こいつが腐るなら、俺がそれを止めよう。
 俺は、こいつが止めてくれたのだから。
 もしこいつが過ちを犯すなら、俺が止めなくてはいけない。俺の役目だ。
 誰にも渡さない、渡せない。
 来ない未来を夢想しながら、俺はビールの残りを飲み干した。

「おかわりいる?」
「ああ、そうだな……テキーラサンライズを」
「珍しいね。いいよ」

 快諾して手早く作り始める。
 こいつならこのカクテルの意味することを分からないわけがないだろうが、俺とは結び付かないだろう。
 俺は自分でも歪だと分かっている。
 それでも思わずにはいられない。
 差し出されたカクテルのグラスを持ち上げて、一気に飲み干す。
 カクテルと一緒に思いを腹の中に収めて、次の夜を待つことにした。

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