ジャンル:ときのそら お題:小説家たちの王 制限時間:1時間 読者:90 人 文字数:2649字 お気に入り:0人

ときのそら「私が主人公の小説ですか?」

「私が小説のモデルに?」

 ときのそらはカバー株式会社の応接室にで男性編集者に言われたことに思わず驚いてしまった。

「そうなんです! バーチャルyoutuberとして注目されていらっしゃる、ときのそらさんを題材にした短編小説をわが社の新聞に載せたいと思っているんですよ」

「うわぁ、私が主人公ってことですよね」

「はい、どうか引き受けていただけたらなと思うのですが…」

「もちろんです! もっといろんな人に私のことを知ってもらいたいし、ぜひお願いします!」

 そらは喜びのあまり立ち上がって編集者に握手した。両手で、しっかりと。

「ありがとうございます。では後日、社内の担当記者から取材の申し出があると思うので、よろしくお願いします」

 ここで、そらは自分が小説のモデルとしてデビューすることに喜びのあまり、作家が誰かを聞きそびれたことに気が付いた。

「わかりました! あの、なんていう人が私のことを小説にしていただけるんですか?」

「うーん、その件なのですが」

 編集者は渋い顔をしてそらに返事した。

「実は本人から取材の当日まで名前を明かさないでくれと頼まれまして……」

「え、そうなんですか?」

「はい……ですがご心配なく! 小説の腕前はかなりの物ですし、もしかすると時乃さんもご存知の著名人だと思います」

 編集者は胸を張って答えると、社長に挨拶をしたのちに会社を後にした。

 そらはその編集者の黒スーツ姿を後ろから見ながら、ぼんやりと編集者の言った言葉を思い返した。

(有名な著名人が私を小説に、かぁ。いったいどんな人だろうな)


「そらちゃん、お客さんが来てるよ」

 後日、そらがコンサートの打ち合わせのために時間より早く会社につくと、受付の中村さんから呼び止められた。

「え、もうですか? まだ朝なのに……」

「そうなのよ。もう応接室に案内したから、後で行ってもらえる?」

「はい。わかりました」

 そらは応接室に行く前に、化粧室で自分の身だしなみをチェックして、深呼吸をし、応接室の扉を開けた。

「こんにちは! ときのそらです!」

「遅かったじゃない、そら」

「……え?」

 応接室のソファーで座ってコーヒーをすすっていたのは、後ろ髪をリボンで結び、眼鏡をかけている女性だった。

「でも重大なイベントの日には早く来たのは、変わらないわね」

「え、えーちゃん!!」

 そらは、たまらず女性の元に駆け寄り、両手いっぱいにハグした。

「有名な著名人って、えーちゃんのことだったんだ!」

「そうよ。久しぶりね、そら」

「すっごく……すっごく久しぶり!」

 昔の友人に出会った二人は、時間を忘れて話し合った。

 バーチャルYoutuberを始めた時のこと、二人で毎週生放送をしてそらともと触れ合ったこと。フォロワーが150万人達成して大泣きしたこと。横浜アリーナでついにコンサートを開いたこと。様々な思い出が浮かんでは消え、浮かんでは消えた。

「世界を股にかける有名Vtuberさんの小説を書けるなんて、うれしいわね」

「もう、やめてよーえーちゃん」

「ふふ、でも嬉しいのは本当よ。そら」

 Aは新たにコーヒーを淹れ、そらににっこりとほほ笑んだ。昔よりも美人になったなあ、とミルクコーヒーを飲みながらそらは思った。

「……ねえ、えーちゃん」

「なあに、そら? 取材の日程は一通り終わったはずだけど」

「あの時のこと……」

 は、と思いとどまり、そらは口をつぐんだ。

「あの時? それって……」

「う、ううん。なんでもない! それじゃあこれからの取材、よろしくお願いします!

「あ、ちょっと待ってそら、そら!」

 Aの叫びを無視して、そらは応接室から飛び出るようにその場を後にした。




 もう4年前だろうか。そらが夢に見た横浜アリーナでコンサートをした日は。


『やった! エーちゃん! やったよ!』

 今日のために用意したステージ衣装やアクセサリーを着たまま、興奮した勢いで一番に、あの子は私の元に来た。

『ちょっとそら、そんなにぴょんぴょんしないで! 今はゆっくり休憩するのよ』

 と言うと、そらは

『だって、真っ先にAちゃんに喜んでもらいたかったもん』

 と笑顔を浮かべて私に答えた。

 そらと一緒に頑張ってきた日々は今でも忘れていない。

 はじめは13人しか来なかった生放送も、次第に百、千、万と伸びていき、あの子の人気はうなぎのぼりに上がっていった。

 もう、私の知っているときのそらじゃない。

 そらはもう、人気アイドルのバーチャルYoutuberなんだ。

 そんなことを考えると、自分がはたしてこのままそらのもとにい続けていいのか不安になった。

 あの子にはもっといい環境が必要だ。私よりも編集がうまい人やプログラムを打てる人、プロデュースできる人はたくさんいる。そしてそれを、そらは雇うことだってできる。

 あの子に私はもう必要ない。

 なら今度は私の夢に進んでいこうか、小説家になって、小説家たちの王になって。

 そう考えた後、私Aは、そらの元を離れた。

 あの子から咎められた。

『どうしてなの!? えーちゃん、私のことが嫌いになったの?』

 そんなわけない。

 でも、あなたのために、私は離れないといけないの。

『もういいよ、えーちゃんなんか……』

 うん、いいよ。言ってちょうだい、そら。あなたは私を……

『大っ嫌い!!』

 拒絶するべきなの……


応接室を出たものの、どこに向かうべきかわからず、そらはドアの後ろで泣き崩れた。

「寂しかったのに……やっと会えて、お話もできて嬉しいのに……どうしてわたし、えーちゃんを……」

「そら」

 Aは涙を流す友人の元へ行き、屈んでハンカチを渡した。

「私が誤るべきだわ、そら。ごめんね」

「ううん、違うの、私がエーちゃんのこと嫌いって言っちゃったから、だから、私!」

「そら」

 Aは目元が赤くなっているそらを見ると、ふぅ、とため息をついた。

「私は怒ってないわ。むしろ嬉しいの。どんなに離れた存在になっても私のことを覚えてくれるなんて」

「えーちゃん……」

 そらは思いっきり泣いた。

 それをただ、ひたすらに抱きしめて、Aは自分が幸福だと感じた。



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