ジャンル:カルジュナ お題:寒い貯金 制限時間:30分 読者:58 人 文字数:3185字 お気に入り:0人

【カルジュナ】洋裁専攻xモデル志望12

翌日、アルジュナは今度こそ資料を取りに行こうと同じ時刻に図書館への道を急いでいた。ネロが現れたのは図書館がある西棟のロビーであった。そこを横目で通り過ぎ、四階にある図書館へと向かう。そのさなか、アルジュナにかかる声があった。

「そなたがアルジュナか!」

アルジュナはその言葉に、思わず足を止めて硬直する。この言葉には聞き覚えがあった。
ゆっくりと振り向くと、そこには腕を組んで仁王立ちをしているネロが居た。昨日、アルジュナが認識した、赤いコルセット型のカットソーと白いスカート。全く同じ出で立ちに、不信感が募る。見目に気を遣うネロが、果たして連日同じ格好をするだろうか? その可能性も無いではないが、昨日の今日、アルジュナに会うとなっては違う様相で圧力をかけてくる方が想像しやすい。

「ふむふむ。余の美しさに言葉も出ないときたか。俗世の者にしては良き審美眼よ!」
「……何か、御用でしょうか」
「うむ。カルナが探し求めたトルソーの君が見つかったとの情報を得てな。なんとも噂は尾びれに背びれ。このまなこで確かめなければ」

ぞっとアルジュナの背に悪寒が走る。携帯端末で咄嗟にカレンダーを見れば、先ほどまで認識していた日付ではなくなっていた。
ネロと会ったはずの、昨日の日付が、間違いなく表示されている。

「え……?」

指先が冷え、瞳が情報をうまく捉えられずに視界がずれる。そんなアルジュナに気付くこともなく、ネロは言葉を続けていく。アルジュナが一度聞いたものと、全く同じ音色で、全く同じ台詞ばかりを。

「余すらモデルとして不十分だと袖にしたカルナがな、男に着せるとあって黙ってはおれん。何しろ、あやつがコンペを通れば余が手を貸すと約束してしまったのだ」
「――嘘だ!」

思わず荒げてしまった声が、廊下に響く。幸い人気は少なかったが、アルジュナの目の前に立っているネロには思った以上の騒音になっただろう。
アルジュナは脱兎の如く走り出し、背後に居るであろうネロを振り切るべくエレベーターへと駆け込んだ。そこから何度か階段を挟み、うまくネロを振り切った先の実習室で自分の記憶を整理する。

「……昨日、確かに私は彼女と会った。しかし今日もまた、彼女は私に会いに来た。同じ格好で、同じ言葉を……」

知らずうちに自分を抱きしめるような姿勢になり、唇を何度も指でなぞる。かさつくそこはいつも持ち歩いているリップクリームを使わなければと思うのに、少しの動きでも今は理由の無い恐ろしさに怯えている。わずかな挙動であってもこの世界に諫められてしまうのではないかという、意味も無く漠然とした恐ろしさが去来する。
行こう、とアルジュナは図書館へ行き、必要な資料を持って次の授業へと向かっていった。

更に次の日。アルジュナは朝日と共にニュースを確認し、日付が進んでいることを確認した。資料は昨日から鞄の中に放り込んだままであったため、登校前に確認しようと鞄を開けば、そこには確かにあった筈の資料が消えていた。

「……どこかに、置いてきた、か……?」

アルジュナは気もそぞろに家を出て早足になりながら学校への道を急いだ。きっと昨日は早めに就寝しようとしていて、家のどこかに資料を置いたまま放っておいたのだとか、そもそも持ち帰らずに学校のロッカーに入れてきたのかもしれないだとか、自分の脳内をひたひたと思考で埋めていく。そのまま僅かに息を荒げながら、気は進まないながら、西館への入り口をくぐる。図書館横にとある実習室があり、そこに寄る用事があるからだ。
アルジュナがロビーを横切った。その時である。

「そなたがアルジュナか!」

喉がひりつく。アルジュナは咄嗟に、その声に振り向くのではなく携帯端末のカレンダーを開いた。
朝のニュースで確認した筈の日付からずれている。またも、ネロと初めて会ったときの日付が表示されているのだ。
アルジュナは手のひらの機器を仕舞い、ゆっくりとネロに向き直る。記憶にある、昨日とそのまた昨日に会った彼女と同じ洋服、同じ髪型、同じ化粧、同じ靴。同じ、言葉。

「……」
「ふむふむ。余の美しさに言葉も出ないときたか。俗世の者にしては良き審美眼よ!」

ごくり、とアルジュナは唾を飲んだ。
アルジュナは、専門学校の講師室に一人で入った時のことを思い出す。マリーとナイチンゲールがロビンフッドと廊下で待っていたとき、アルジュナは講師室で意外な人物に会った。レオナルド・ダヴィンチ。完璧な笑みを持つ英霊。彼女は柔和な笑みで瞳を細めながら、自信満々に推論を語ってみせた。

『ここは、特異点にもならない何か。時間の狭間なのかはたまた世界の気まぐれか。アルジュナ、君だけがこの講師室に入ってきたのには意味がある。いいかい、私の一万飛んで三十五日目のループの結果、君がこの特異点の鍵である可能性にたどり着いた』

レオナルドの言葉に、アルジュナは目を丸くするばかりであった。なにしろ、アルジュナはある程度の猜疑は抱いていたとはいえ、自分が人間であることを疑ったことはなかったのだ。レオナルドの話をまとめるならば、自分たちは未だサーヴァントであり、誰かによってここに人間として詰め込まれているというのだ。その誰か、という人物が分からないままに。

『私が……ですか……?』
『そうだ。信じられないかもしれないがまずは黙って聞いてくれ。この世界にはターニングポイントが存在する。このターニングポイントを通過しない限り、未来へは続かない。永遠に同じ日をループすることになる。ループを脱出する条件だが、これは日時を指定されたポイントに、未来へ進むための材料が揃っているかどうか』
『材料……』
『ゲーム的に言おう。イベントを発生させるための特定のキャラクターがパーティ内に居なければならなかったり、キーアイテムを使用しなければならなかったり。まぁ、そういうことだ』
『何故私なのですか? 他にも記憶がある方々は居ます』
『いいや、君は知らないだろうが、マリーとナイチンゲールはここにきたことがある。それでも時間は進まなかった』

レオナルドは言った。アルジュナがやってきたことで、初めて時計の針が正午を越えた、と。
『今はまだ分からないかもしれない。しかし、いつかは自覚するだろう。君の行動に、これからの時間軸が左右されるということを』

アルジュナの耳の奥でレオナルドの声が反響する。記憶の中でいくつもの残響を残しながらアルジュナの心の沼に放り込まれていく、先日のやりとり。マリーとナイチンゲールに情報として共有しなかったのは、ひとえに、彼女たちに言っても信じてもらえないだろうと考えたからだった。

「カルナが探し求めたトルソーの君が見つかったとの情報を得てな。なんとも噂は尾びれに背びれ。このまなこで確かめなければ」

アルジュナはじわりと滲む額の汗をそのままにネロに向き直る。ネロの表情は軽やかで、春風を思わせる薔薇色の頬と桜貝のような唇によって瑞々しい愛らしさを発していた。
一度、二度。ネロに気付かれない程度に呼吸を整える。腹に力を入れ、背筋を伸ばしながら踵を一つ鳴らした。

ここからは舞台の上。アルジュナは、そう、自分に言い聞かせた。

「ご用件をお伺いいたしましょう、薔薇の君。天上の綺羅星が、私なぞに構うお暇があるとは思えませんが?」

ほう、とネロが感嘆の声を上げる。

「話が早くて助かるぞ。なに、余すらモデルとして不十分だと袖にしたカルナがな、男に着せるとあって黙ってはおれん。あやつがコンペを通れば余が手を貸すと約束してしまったのでな」
「……」
「つまり、だ」

ぴ、とネロはアルジュナを指差した。

「お主の実力、測らせてもらおう!」

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